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理学部ニュース

 

私は,2013年に本学大学院天文学専攻で博士号を取得後,私立中高一貫校である安田学園中学校高等学校で,理科教諭として働いています。

もともと物理学に興味を持っていた私は,宇宙という対象に興味を持ち,かつ少人数教育に魅力を感じて,進学振り分けで天文学科を選びました。大学院では,超新星の理論的研究を行っていました。超新星は,恒星がその一生の最後に起こす爆発現象です。物理学のさまざまな分野(流体力学,重力,電磁気学,輻射輸送,原子核反応,……)が関係してくる,ひじょうに魅力的な研究対象です。私は,コンピューターを使って,爆発のシミュレーション計算をしていました。自分の作ったコードで,爆発の様子が画面上に現れたときは,とてもうれしい瞬間でした。

大学院を修了したあと,今まで科学と向き合ってきた経験を仕事に活かしたい,自分の感じた科学の興味を伝えたいと考え,教職の道を選びました。今はクラス担任を持ちながら,授業はおもに高校の物理を担当しています。高校教育に大学の物理学の知識など,あまり必要ないと思うかもしれませんが,学問的に深く理解しているかどうかが,教え方に大きく影響しているように感じています。高校の教科書ではある程度濁して書かれている部分を,正しい背景知識をもとに説明し,生徒が具体的なイメージをつかめるように努めています。ときに大学で習う内容を出しながら,いかに物理に興味を抱かせるかを目標に授業をしています。大学受験も大事ですが,その先にある大学での学問的な物理の理解につながるよう導いていくことをつねに心がけています。


「電視観望」は,CMOSカメラを用いてPC画面上で天体観測をする技術。東京でも,写真のような天の川を映し出せます。天文学教育の新しい方法として,マイブームになっています

教科教育以外の場面でも,大学院で経験したことが役立っている場面はたくさんあります。私の勤務校では探究という授業を行っています。生徒が抱いた疑問・仮説に対して,自ら研究し答えを出す経験をさせるためのプログラムです。今,私が受け持っている生徒には,コンピューター・シミュレーションの手法を教えて,理論的な研究をさせています。

クラブ活動では,サイエンスクラブの顧問をしています。クラブの中で天文学の知識を教え,夏合宿では天体観測に行っています。最近では「電視観望」を始めました。2年前の皆既月食のときには,自宅からライブ中継を行い,自分が受け持つ学年の生徒たちにZoomで配信しました。

理科教育は,未来の科学研究を担う人材を育てるという意味で,ひじょうに重要なかけがえのない仕事です。本学で理科の教職免許を取得できるのは理学部と農学部,教養学部だけです。私は理学を深く学んだ学生にこそ,教職についてほしいと思っています。科学に対して人生の多くの時間向き合ってきたからこそ,伝えられること・教えられることがたくさんあるはずです。

昨今は教員のなり手不足が深刻な状況にあります。私の話を聞いて,教職を目指す学生が,誇りと自信を持って,この業界に飛び込んでくれることを願ってやみません。


2024年9月号掲載


未来へのとびら>