生命科学シンポジウムを開催して
大坪 瑶子(生命科学ネットワーク 特任助教)

東京大学生命科学ネットワークという組織をご存知だろうか?文系も含む生命科学に関わる15部局が参加するネットワーク型横断的組織で,生命科学教科書の刊行と改訂を通じた教育の支援や,学内の研究者交流と学外への研究紹介を目的としたシンポジウムの開催を行っている。教科書については,おもに教養学部前期課程の講義で利用する教科書を刊行している。理科一類の学生向けに「物理・化学・数理から理解する生命科学」を2024年2月に発行し,理科二類・三類向け「理系総合のための生命科学」,文系向け「現代生命科学」については随時改訂作業を進めている。また,毎年1回,生命科学シンポジウムを開催しており,2024年も6月に第23回のシンポジウムを開催したところである。

私は15年程前に理学系研究科生物化学専攻(現在は生物科学専攻)を修了し,いくつかの研究所を経て,2023年8月より生命科学ネットワークに着任した。着任後すぐにシンポジウムの準備が始まった。これまで所属先で学会運営を手伝うことはあったが,本格的に運営に携わるのは初めてだった。会場の予約,ポスターパネルのレンタル,協賛広告の依頼など次々と手配を行う必要があり,右往左往しながら進めた。
今回のシンポジウムでは,ペーパーレス化&予算削減を目指し,プログラム集やポスター賞審査の電子化を行った。当日も多くの関連業務が降ってきて,残念ながら発表をじっくり聞くことはできなかったが,ポスター会場では学生たちが活発に議論を交わしている様子が見られた。今回初の試みとして企業ポスターコーナーを設けた。製薬企業等が出展してくださり,就職活動中の学生らに好評だった。11名の若手研究者による口頭発表,213題のポスター発表,5名の先生方によるご講演からなった本シンポジウムだが,最終的に学内外の学生・研究者・一般の方を合わせて約400名の参加があり,大きな問題もなく盛況のうちに終了したと思う。開催後のアンケートでも,研究科の枠を越えて集まれる会をぜひ継続して欲しいという感想をいただいた。
私事だが,数年前からプラズマ化したガスを酵母に照射し,細胞がどのように応答しているのかを調べるという分野融合的な研究に取り組み,最近ようやく論文にまとまった。この研究は物理工学系の研究者とともに装置の開発から始めたのだが,温度に対する感覚がまったく異なるなど(摂氏25度と75度の違いは生物にとっては甚大な影響が出るが,絶対温度で見ると1.17倍しか違わない等々),研究分野が異なると,自分の常識が通じないことを実感し,コミュニケーションの重要性を痛感した。
生命科学を含む現代の研究は高度に発展し細分化が進んでおり,少し分野が異なるだけで共通の理解が難しいことも多い。そのような時代に,生命科学に関わる研究者の連携の場として,生命科学ネットワークの存在意義は大きいと考えている。東京大学では非常にレベルの高い,多様性に富む生命科学研究が多数行われている。それらを結びつける場として,また,生命科学研究を広く紹介する場として,今後も微力ながら生命科学ネットワークの活動をより充実させていきたい。
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