「システム生物学入門」
姫岡 優介(生物普遍性研究機構 助教)
畠山哲央・姫岡優介 著 「システム生物学入門」 |
講談社サイエンティフィク(2023年) |
「数式を使って生物を研究しています」と大学外で言うと,大抵驚かれる。というか「ちょっと何言ってるか分からない」という顔をされる。やはりそれだけ「生物」と「数学・物理学」は遠い存在だったのだろう。しかし,生命現象を深く・定量的に理解するために,いかに数学や物理学が重要であるかは本書を読んでもらえればきっと実感できるはずである。
「システム生物学」は,生物を構成する一つひとつの要素はただの分子であるにもかかわらず,それらの相互作用からどのようにしてさまざまな生命機能が出現し,「生きている」という不思議な状態が出現するのかを追求する分野である。
単純な要素が集まり相互作用することで,個々の要素が持つ性質の単純な総和以上の性質が出現する—「創発現象」と呼ばれるこのような現象を理解するためには,微分方程式や統計物理学など,相互作用系を定量的に記述するための道具が必要となる。本書では,微分積分・線形代数のみを前提知識として適宜必要な数理を導入しながら,生命が持つエラー校正や環境センシングの機構,代謝状態予測や生命進化の数理など,システム生物学のトピックを幅広く紹介した。
システム生物学は非常に若い分野であるため,本書を読めば最先端研究の数歩手前まで到達できるはずである。さらに意欲があれば,本学生物普遍性研究機構の全学ゼミで研究体験を,また理学部の「生物物理学特論」や「普遍性生物学」を受講してみると良い。