search
search

理学部ニュース

「教養の化学」

田代 省平(化学専攻  准教授)

西原 寛,中田 宗隆 編
「教養の化学」 — 生命・環境・エネルギー —

東京化学同人(2023年)
ISBN  978-4-8079-2041-9

新年度が始まり,先生や先輩,または同級生から新たな学問を教わり始めた方も多いだろう。では学問の中で「化学」はどんな印象だろうか。物理や情報,生物などと比べて,もしかしたら少し地味なイメージを抱くかもしれない。でもそれは,「化学」が資源,環境,エネルギー,医療などを支える基盤として現代社会に深く浸透しているからであることが,この「教養の化学」を読むとわかる。本書は,宇宙と生命の始まりから地球と人類の現在,そして未来に至る壮大な時間軸を,化学の視点から俯瞰する。これにより,宇宙の始まりにおける元素の成り立ちから,それらの結合による生体分子の合成,また生命維持に必要な酸素の循環,生命を脅かす疾病とその治療,さらに人類と地球をも脅かす資源・エネルギー問題の解決に至るまで,多くの事柄に化学が深く関わっていることを鮮やかに示している。もちろん化学だけが世界を救うわけではないが,その一翼を担っていることは論をまたない。本学化学科および化学専攻では,物理化学,材料化学,情報化学,無機化学,分析化学,宇宙地球化学,有機化学,生命化学という広範な領域をカバーすることで,本書で挙げられた課題や謎を解決すべく最先端研究が進められている。

なお本書は12名の化学者が分担執筆しているが,全員が本学化学科を47年前に卒業した同級生でもある。先輩方からの本書を手にとって,化学という学問に少しでも関心を持ってもらえると幸いである。


 

理学部ニュース2024年5月号掲載

理学の本棚>