地球惑星科学専攻の奥井晴香さんが日本学術振興会育志賞を受賞
佐藤 薫(地球惑星科学専攻 教授)
奥井晴香 氏
高度約10〜100kmに位置する成層圏・中間圏・下部熱圏はまとめて中層大気と呼ばれています。特に中間圏・下部熱圏は浮力を復元力とする小スケールの大気重力波(以下重力波)が卓越していますが,これを捉える研究手段が限られているため,本格的な大気力学研究が難しい領域でした。一方で中層大気の変動は地上におよぶことが知られており,季節予報や温暖化等気候予測の精度向上のためにはその解明が不可欠です。奥井さんは高解像度大気大循環モデルを用いて,世界で初めて現実の重力波を含む中層大気の再現に成功しました。国際共同大気レーダー網による中間圏重力波の観測データによるモデル検証の後,再現データを用いて大気の各階層間の相互作用を丁寧に解析することで,中層大気の上下結合や南北両半球結合の変動のメカニズムを明らかにしてきました。その中で,小さなスケールの重力波が平均場を不安定化し惑星規模波を発生させる様子や,群速度の大きな重力波が先回りして平均場を変えることで惑星規模波の伝播を妨げ北極成層圏に大規模昇温をもたらす様子,惑星規模波と重力波が次々と発生・伝播・砕波して北極成層圏から南極上部中間圏にシグナルを伝える様子など,躍動的な中層大気の遠隔結合の仕組みを見事に解明しました。また,理学系研究科の学生国際派遣プログラムGRASPを利用してバース大学(University of Bath)に留学し,成層圏の衛星観測データによるモデル検証を行なうと共に,衛星では捉えられない重力波分布とその理由も明らかにしています。これらの研究成果を含む業績が評価され,「高解像度大気大循環モデルを用いた中層大気の遠隔結合における重力波の役割の研究」というテーマで受賞に至りました。これからも,奥井さんのご活躍と研究の発展を期待しています。