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理学部ニュース

中性子星で起きている地震の証拠をつかんだ?

戸谷 友則(天文学専攻 教授)

 

今,天文学で注目されている「高速電波バースト」。
わずか数ミリ秒の間だけ電波で光る,謎の爆発現象だ。
最近の進展で,どうやら中性子星で起きていることがわかってきた。
では中性子星でどのように爆発が起きるのか?
中性子星表面には固体地殻があり,地球の地震と同じような破壊現象が起こるのではないかと
従来から議論されていた。今回,高速電波バーストの「余震」の起き方を詳しく調べて見ると,
地球の地震と驚くほどよく似ていることが判明した。
地球以外の宇宙天体でも地震が発生していることを強く示唆する結果といえる。

通信などで使われる電波(可視光線よりずっと波長が長い電磁波)を使って宇宙を見る電波天文学において,2007年に最初に報告された新種の天体現象が高速電波バーストだ。我々が住む銀河系の外,それも数十億光年という宇宙論的な遠方で起きていて,少なくとも一部のものは何度も繰り返して爆発を起こしている。

その起源として有力なのが中性子星だ。太陽より8倍以上重い星が重力でつぶれて,超新星爆発を起こした後に残される,質量が太陽の1〜2倍でありながら半径がわずか10 kmという恐ろしく高密度な星だ。中性子星は1億テスラ以上という強烈な磁場を持っており,それが中心部から浮き上がってきて固体地殻を歪め,時に破壊する。そんな地震ならぬ「星震」が起こるのではと,古くから理論的に予想されてきた。

ならば高速電波バーストにも,地震のように,あるイベントに誘発されて次のイベントが起こる「余震」があるのではないか?そんな着想で,高速電波バーストのイベント間の時間相関を調べたところ,たしかに,発生率が時間のべき乗で減衰する余震が起きていることを突き止めた。この「べき乗で減衰」は,地震では古くから知られている大森・宇津の法則と同じである。余震というと大きな地震の後,小さな地震が多数発生するイメージだが,実は一つ一つのイベントに着目しても,一つのイベントの後に一定の確率で大森・宇津の法則に従って発生する余震が見られる。実際,われわれの相関関数による解析手法を日本の地震データに適用したところ,高速電波バーストとよく似た結果が得られた。とくに,ある一つのイベントの後に余震が発生する確率も10〜50%と,二つの現象でよく似ていたのであった。ちなみに,もう一つよく比較される現象である太陽フレアも解析したが,こちらは高速電波バーストや地震との類似性は見られなかった。太陽の表面は流体で,固体地殻のようなものが存在しないせいかもしれない。

【上】高速電波バーストおよび地震の発生時間とエネルギーの分布。【下】発生時間の相関関数(余震の起こりやすさ)を,余震までの時間間隔の関数で示したもの。どちらも,現象の典型的な継続時間(高速電波バーストは数ミリ秒,地震は数分)より長い領域でべき乗に減衰している

 

スケールが何十桁も違い,構成物質も全く異なる中性子星と地球の間で,これほどの類似点が見られたのは驚きであった。今後,この類似性をさらに理論的に検討することで,高速電波バーストの発生メカニズムや,中性子星の超高密度物質の性質について新たな知見が得られると期待される。筆者は地震については専門家ではないが,地震の大森・宇津則の理論的理解もまだまだ十分とは言えないようである。中性子星という全く異なる場所で地震によく似た現象が見られることから,より普遍的な現象として見直すことで,地球地震の余震の理解にも新たな光があてられるのではないか。今後,さまざまな方向に研究が発展しそうでワクワクしている。

本研究は,T. Totani and Y. Tsuzuki, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 526, 2796, (2023)に掲載された。

 

(2023年10月12日プレスリリース)

理学部ニュース2024年1月号掲載

 

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