DATE2023.03.02 #Press Releases
地球全体に分布するロドプシン保有細菌の新たな光エネルギー獲得戦略
――キサントフィルを用いた集光アンテナの発見――
東京大学
名古屋工業大学
発表概要
地球上に存在するほぼ全ての生物は、太陽光由来のエネルギーを使うことで生命活動を行なっています。しかしながら、太陽光を生物が利用可能な化学エネルギーに変換できる生物は限られています。代表例は、クロロフィル色素を利用し光合成を行う生物(植物や一部の微生物)ですが、海洋や河川では光合成生物だけでなく、レチナール色素と結合した光受容タンパク質(微生物型ロドプシン)を用いて太陽光を化学エネルギーに変換する微生物も数多く存在することが知られています。つまり、水圏環境ではこれら2種類の光受容機構が生態系に光エネルギーを取り込む窓口になっています。
今回、本研究グループは、イスラエル、スペイン、ドイツの研究グループとの国際共同研究により、淡水湖および海洋に生息する微生物が、レチナール色素に加えてカロテノイド色素の一種であるキサントフィル(ゼアキサンチンやルテイン)も結合するロドプシンを持つことを発見しました。さらに、これらの色素は受容した光エネルギーをレチナール色素に移動させる集光アンテナとして働くこと、集光アンテナを持つロドプシンが水圏微生物に幅広く分布することを明らかにしました。今回の発見により、水圏生態系においてロドプシンは集光アンテナを駆使し、従来の試算を上回る量の光エネルギーを受容することが示唆されました。生態系を理解する上で、光エネルギーを受け取る生物の光受容効率を把握し、生態系に流れ込む光エネルギー量を正確に算出することは避けては通れない課題です。本研究の成果は、全球レベルでの水圏生態系の理解の深化につながると期待されます。
本研究成果は、2023年3月1日(英国標準時)に英国科学誌「Nature」のオンライン版に掲載されました。
図: 集光アンテナを持つロドプシンの地理的分布
なお、本研究成果には、生物科学専攻の濡木 理教授、志甫谷 渉助教が参加しています。
詳しくは、東京大学大気海洋研究所 のホームページをご覧ください。