2021/12/21

化石種を一挙に9種発見:クモヒトデが新たな環境指標生物となる可能性

 

岡西 政典(臨海実験所 特任助教)

幸塚 久典(臨海実験所 技術専門職員)

金子 稔(群馬県太田市 元高校教員)

三井 翔太(株式会社日本海洋生物研究所 技術者)

 

発表のポイント

  • 棘皮動物(注1) の仲間であるクモヒトデ類の体を構成する数ミリの骨片の化石から種を同定し、インド-西太平洋地域で初めて、単一の地層における化石クモヒトデ相(注2) の解明に成功した。
  • これまで国内では骨片化石の記録はほとんどなかったが、神奈川県三浦半島に分布する後期更新世(注3) の地層(横須賀層)より、一挙に9種が得られた。
  • クモヒトデの骨片化石はこれまで見落とされていたが、本研究によって、実際には埋在量や種数が多く、新たな古環境推定の研究対象となる微化石(注4) である可能性が示された。

 

発表概要

肉眼での確認が難しいサイズの化石は微化石と呼ばれ、古環境を推定するための有用な材料として用いられる。代表的なものには有孔虫(注5) や貝形虫(注6)、珪藻(注7) などが知られている。

東京大学大学院理学系研究科の岡西政典特任助教らの研究グループは、神奈川県三浦半島にある横須賀層大津砂泥部層(約1~13万年前)という地層から、棘皮動物であるクモヒトデ類9種の腕の骨片化石を発見した。クモヒトデ類の体は数mmの炭酸カルシウムでできた骨片が組み合わさって構成されており、死後はそれらがバラバラに分離する。近年、三浦半島の別の地層である宮田層より、この骨片化石が岡西特任助教らによって発見されてきたが、単種の記載報告が2報知られるにとどまっていた。したがって、単一の地層における骨片化石に基づくクモヒトデ相の解明は、インド-西太平洋地域で初となる。

化石として発見された9種について、相模湾に現在分布しているクモヒトデ類の生息環境(水深)との比較による古環境推定を行った結果、大津砂泥部層の堆積環境が、水深80 m以深の大陸棚または陸棚斜面であったことが推測された。これは、先行研究による貝類化石を用いた古環境推定の結果とも概ね一致していた。今後、クモヒトデ類の骨片化石を用いた古環境の推定が進展すると期待される。

 

発表内容

研究の背景
棘皮動物門クモヒトデ綱は、細長い腕を器用に動かし、岩の下、泥などの堆積物の中、他の動物の上など、種によってさまざまな環境に生息する海産無脊椎動物である。クモヒトデ類は、多くが体長数cm~十数cmほどであるが、その体を構成する数mmほどの炭酸カルシウムの骨片が死後に解離して堆積物中に埋没し、化石として残りやすい。欧州や米国ではこの骨片の化石が示相化石として古環境の復元に用いられている。一方日本においては、クモヒトデの全身が保存された化石の研究は知られるものの、骨片化石の研究は、これまで宮田層から2種が発見されているのみであった。骨片化石は全身化石よりも存在量が大きいと推定され、さらなる地質調査によってより多くの種が発見されると予想されたため、各地での調査を続けてきた。

 

研究内容
東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所の岡西政典特任助教を中心とした研究グループは、実験所近傍の横須賀市馬堀町に位置する横須賀層大津砂泥部層(約10~13万年前)とよばれる地層の露頭で、クモヒトデ類の骨片化石の探索を行った(図1)。

図1:本研究に用いた骨片化石のサンプリング露頭。化石採取地点のオレンジ色の枠から堆積物を収集した。

 

37kgに及ぶ堆積物を研究室に持ち帰り、水洗して篩にかけ、小さな化石を拾い出す作業を続けたところ、1~4 mmほどの小さなクモヒトデ類の腕の骨片化石が約2800個認められた(図2)。

図2:相模湾より得られたクシノハクモヒトデ(Ophiuroglypha kinbergi)の背側面の写真(A:撮影、幸塚久典[東京大学附属臨海実験所])と、本種の微小な側腕板の化石(B)。

 

現生種の腕の骨片との詳細な形態比較を行った結果、テヅルモヅル科(Gorgonocephalidae)の1種、フサクモヒトデ(Ophiocomidae)科の1種、ミツアナクモヒトデ科(Ophiosphalmidae)の1種、ジュズクモヒトデ属(Ophiopholis)の1種、トゲクモヒトデ属(Ophiothrix)の1種、アワハダクモヒトデ属(Ophiarachnella)の1種、アカハコクモヒトデ(Stegophiura sladeni)、クシノハクモヒトデ(Ophiurogrypha kinbergi)、モザイククモヒトデ(Ophiozonella longispina)の計9種が認められた(図3)。

図3:本研究で得られた9種の骨片化石(上段)と、それに最も近いと思われる現生種の全体写真(全長数cm~20 cm)と骨片写真。スケール(骨片)は1 mm。

 

このうちテヅルモヅル科の1種とアカハコクモヒトデ以外の7種はインド-西太平洋地域では初めての化石としての発見であり、アワハダクモヒトデ属の1種、クシノハクモヒトデ、並びにモザイククモヒトデの化石としての発見は世界で初めてである。また、アカハコクモヒトデ、クシノハクモヒトデ、モザイククモヒトデの3種は、現在でも相模湾の水深80 mから400 mの砂泥底に広く生息しており、ジュズクモヒトデ属、ミツアナクモヒトデ属も概ね同様の水深に生息している。一方でフサクモヒトデ科とアワハダクモヒトデ属は基本的には浅海に生息しているが、これらの骨片化石は全て摩耗が著しいことから、その生息地で化石となったものではなく、堆積場とは別の浅い場所から運搬されたものと推測された。また、トゲクモヒトデ属は浅海から深海まで幅広く生息している。

このことから、9種の骨片化石が堆積した環境は浅海からの流れ込みがある陸棚から陸棚斜面域であったことが推定され、その水深は約80 m以深であると考えられた。この結果は、先行研究による、貝類化石に基づく古環境推定の結果とも概ね一致することから、クモヒトデ類の骨片化石は古環境を推定する上での有用な研究対象であることが示された。

 

社会的意義・今後の予定
本研究では、インド-西太平洋地域である日本の地層より、複数種のクモヒトデ類の骨片化石を初めて発掘し、種を同定することで、その古環境推定への有用性を示した。このうち3種は現生種に同定できたため、今後、相模湾周辺のより多くの地層から骨片化石を発掘し、周辺も含めた幅広い海域に現在生息する種と比較することで、この海域における、地質時代から現在までのクモヒトデの生物相を復元できると考えられる。相模湾からはこれまでに100種以上のクモヒトデが記録されているが、その中で個々の骨片の詳しい形態の記載があるものはごく僅かである。したがって、相模湾の現生種を正確に分類し、その骨片の形態を把握することで、日本の地層に多量に埋在している化石骨片の検討が可能となり、ひいては日本列島やその海洋生物の多様性の成り立ちに関する新たなアイデアを提供する重要な知見につながる。

また本研究で最も個数が多かったアカハコクモヒトデの骨片化石は2457個に及び、その存在量が大きい可能性が示された。今後は各層から定量的に堆積物を収集することで、古環境推定によく用いられる有孔虫や貝形虫と同様な「微化石」分野における新たな研究対象としての有用性を検証する予定である。

 

発表雑誌

雑誌名
Historical Biology
論文タイトル
Overlooked biodiversity of brittle stars from the Upper Pleistocene of Japan: descriptions of fossil ossicle assemblage in Indo-West Pacific .
著者
Masanori Okanishi*, Shota Mitsui, Minoru Kaneko, Hisanori Kohtsuka
DOI番号 10.1080/08912963.2021.2000975
アブストラクトURL https://doi.org/10.1080/08912963.2021.2000975

 

用語解説

注1 棘皮動物

ウニ・ナマコ・ヒトデなどを含む分類学上の一つのグループ。その体は炭酸カルシウムの骨から構成されていて、原則として成体の形が星型であるという特徴を持つ。

注2

一定の場所に生息する生物の全種類。「化石クモヒトデ相」は、ある地域の地層から化石として発見されたクモヒトデ類の種全体をさす。

注3  後期更新世

地質時代の区分の一つで、約1~13万年前の期間。

注4  微化石

肉眼では観察しにくい顕微鏡サイズの化石。

注5  有孔虫

大部分の種は1 mm以下の殻を持つ単細胞生物。殻には多数の細孔や大きな開孔を持つ。

注6  貝形虫

体の一部が貝殻のように発達し、体全体を包み貝のような外見を呈する甲殻類のいち分類群。ほとんどが大きさ数 mm程度かそれ以下の微小なグループ。

注7  珪藻

高度に珪酸化された細胞壁を持つ単細胞の微小な藻類。

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―