2021/11/11

ゲノム編集と4種オルガネラの蛍光可視化を同時に実現

~オルガネラバイオロジーを拓く新手法“シゾン・カッター”の確立~

 

田中 尚人(生物科学専攻 修士課程2年)

茂木 祐子(生物科学専攻 特任研究員)

東山 哲也(生物科学専攻 教授)

吉田 大和(生物科学専攻 准教授)

 

発表のポイント

  • 原始的な真核生物である単細胞紅藻シゾン(注1) において、4種のオルガネラの蛍光可視化とゲノム編集(注2) を同時に実現する新たな分子生物学ツール“シゾン・カッター(CZON-cutter)”を確立した。
  • シゾン・カッターを用いることによって、細胞を構成する重要なユニットであるオルガネラが、どのような遺伝子によって制御されているのかを迅速に解析することが可能となった。
  • シゾン・カッターによって、真核生物におけるオルガネラを制御する真の分子基盤の解明を目指す新たな研究領域“オルガネラバイオロジー”への道筋が拓かれた。

 

発表概要

真核生物の細胞には、生体膜で囲まれたオルガネラと呼ばれる複数種類の器官が存在します。オルガネラは、それぞれ特定の種類のタンパク質や基質を含んでおり、これによってミトコンドリアにおける酸化的リン酸化や、葉緑体における光合成反応などに代表されるさまざまな生化学反応を実現可能にしています。こうしたオルガネラの存在によって、真核生物は単一の細胞内区画しか持たないバクテリアと比べて極めて高度な細胞機能を実現し、ヒトや植物を含むさまざまな高次構造を備えた種が出現するに至りました。

多数の種類のオルガネラを正しく機能させるためには、数多くの遺伝子が適切に働く必要があります。しかしながら、その分子的な仕組みの多くはいまだ明らかではありません。研究が進んでいない理由として、オルガネラの機能に関わる遺伝子の働きを阻害すると細胞自体が死んでしまうことが多く、機能の解析が難しいことが挙げられます。さらに、可視光でも見ることが出来る葉緑体を除き、多くのオルガネラはそのままでは見ることが出来ません。そのため、特定のオルガネラだけを可視化する組織染色を行わない限りオルガネラに異常があることを検出することができませんでした。

東京大学大学院理学系研究科の田中尚人大学院生と吉田大和准教授らの研究グループは、上記問題を解決するため、1つの細胞に細胞核、ミトコンドリア、葉緑体、ペルオキシソームといったオルガネラが1つずつしかない極めて単純な真核生物であるシゾンを用いて、オルガネラの機能解析を迅速に行うことを可能にする新たな分子生物学ツールの開発を目指しました。その結果、4種類のオルガネラを異なる色の蛍光タンパク質で可視化し、同時に目標とする遺伝子の配列に自由に改変することができる新手法“シゾン・カッター”を確立することに成功しました。

同技術によって、いまだ明らかになっていないオルガネラを制御する真の分子メカニズムを解明する基盤を構築することが出来ました。今後は、シゾン・カッターを活用することによって、オルガネラの創成原理の解明や、真核生物誕生のしくみの理解が進むことが期待されます。

 

発表内容

真核生物とバクテリアの細胞構造における大きな違いの一つとして、生体膜に囲まれた複数種類のオルガネラの有無が挙げられます。しかしながら真核生物におけるこれらオルガネラの分裂・増殖、さらにさまざまな機能を制御する分子的な仕組みはいまだ十分には明らかではなく、重要な研究課題として残されていました。

今回、東京大学大学院理学系研究科の田中尚人大学院生と吉田大和准教授らの研究グループは、真核生物がオルガネラを制御する分子機構を解析するため、新たな分子生物学ツールの開発を試みました。本研究では、原始的な特徴を多く残す単細胞紅藻シゾンを用いました。シゾンは、1つの細胞当たりに細胞核、ミトコンドリア、葉緑体、ペルオキシソームなどの膜系オルガネラを1つずつしか持たず、極めて単純な細胞構造からなります。またゲノムDNAを解読した結果、真核生物としては最小の4775遺伝子しかコードされていないことも明らかとなっており、ゲノム構造の面からも、最もシンプルな真核生物であると言えます。さらに近年、遺伝子配列への変異の導入速度を利用した分子時計解析に基づく進化速度の推定によって、シゾンの系統は約16億年前の原生代中期に誕生したと推定されており、原始真核生物の特徴を今なお残した「生きた化石」とも呼べる生物です。このようにシゾンは真核生物の基本原理を研究する上で極めて重要な生物であるため、今回、さらに研究の進展を強力に後押しする新手法の開発を試みました。

研究グループは、シゾンのゲノムDNAに蛍光タンパク質Venusと核局在化シグナルを融合したCas9を組み込んだシゾンYMT1株を構築しました(図1)。

図1:(左)NLS-Cas9-NLS-Venus(Cas9-Venus)を組み込んだシゾンYMT1
核移行シグナル(NLS)を融合したCas9-Venus(黄緑)は細胞核に局在し、葉緑体はクロロフィル自家蛍光(赤)によって検出される。スケールバーは2 μm。

 

次に、このシゾンYMT1株の細胞に、目的とするゲノムDNA配列を切断するためシングルガイドRNA(sgRNA)をコードした配列と、ミトコンドリア移行シグナルを融合した橙色蛍光タンパク質mScarletをコードしたレポーター遺伝子カセットを導入しました。この際に任意の配列を持ったDNA断片を混ぜることによって、ゲノム配列を自由に編集しつつ、細胞核、ミトコンドリア、葉緑体を可視化することが可能となりました(図2)。また、切断したゲノムDNAにペルオキシソーム移行シグナルを融合した青色蛍光タンパク質mCerulean3をコードする遺伝子カセットを挿入することにも成功し、これによって細胞核(Venus,黄緑色)、ミトコンドリア(mScarlet,橙色)、ペルオキシソーム(mCerulean3,青色)、葉緑体(クロロフィル自家蛍光,赤色)と、4種のオルガネラを蛍光観察することが可能となりました(図3)。

図2:一本鎖オリゴDNAを用いたゲノムDNA配列の
sgRNAで標的としたターゲット配列(上段:赤ハイライト)を切断し、80塩基の一本鎖オリゴDNAを鋳型としてゲノムDNA配列の改変を試み、サンガーシーケンス法によって、実際に標的配列が編集されていることを確認した(下段:グレーハイライト)。

 

図3:遺伝子カセットノックインによるACTIN遺伝子のノックアウト
(上段)ACTIN遺伝子のゲノム領域を切断し、mCerulean3にペルオキシソーム移行シグナルを付加したperCerulean3遺伝子カセットをノックインした。(中段)得られた形質転換株は、細胞核、ミトコンドリア、ペルオキシソーム、葉緑体の4オルガネラの蛍光ライブイメージングが可能。(下段)通常は細胞分裂に必須であるACTIN遺伝子をノックアウトしたにもかかわらず正常に細胞分裂をするため、未知の細胞分裂機構が働いている可能性が示唆された。スケールバーは2 μm。

 

今回確立したCRISPR-Cas9を基盤としたゲノム編集・オルガネラ蛍光イメージング法“シゾン・カッター”では、改変したいゲノム領域を指定する僅か20塩基のsgRNAを変えるだけで、どのような遺伝子が目標であっても、完全にシステム化されたプロセスによって簡単に効率よく遺伝子改変しつつオルガネラ蛍光イメージングを行うことが可能となりました。同手法により、これまでは不可能であったゲノムワイド・ハイスループット解析を実現することが可能となったため、今後は真核生物におけるオルガネラを制御する真の分子基盤の解明を目指すオルガネラバイオロジーを展開します。

 

本研究は、JSTさきがけ「オルガネラ分裂リングの分子動作機序の解明」(課題番号:JPMJPR20EE,研究代表者:吉田大和)、Human Frontier Science Program Career Development Award「Decoding the molecular mechanisms and kinetics of the plastid- and mitochondrial-division machinery」(課題番号:CDA00049/2018-C,研究代表者:吉田大和)、科学研究費助成事業「色素体とミトコンドリアの分裂装置の形態構造と分子動作機構の解明」(課題番号:JP18K06325,研究代表者:吉田大和)、公益財団法人発酵研究所大型研究助成「ゲノムワイド・セントラルドグマ解析を基盤としたオルガネラ・細胞分裂増殖機構の新パラダイム構築と分子機序の解明」(課題番号:L-2020-2-008,研究代表者:吉田大和)、住友財団基礎科学研究助成「ミトコンドリアと葉緑体の分裂増殖を統制するセントラル・ドグマの解明」(課題番号:180705,研究代表者:吉田大和)、新学術領域研究「植物新種誕生の原理 -生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて-」(課題番号:16H06465,研究代表者:東山哲也)、CREST「化学屈性を駆動する高次膜交通ダイナミクス」(課題番号:JPMJCR20E5,研究代表者:東山哲也)の一環で行われました。

 

発表雑誌

雑誌名
Journal of Cell Science
論文タイトル
CZON-cutter: a CRISPR-Cas9 system for multiplexed organelle imaging in a simple unicellular alga
著者
Naoto Tanaka, Yuko Mogi, Takayuki Fujiwara, Kannosuke Yabe, Yukiho Toyama, Tetsuya Higashiyama, and Yamato Yoshida*
DOI番号

 

用語解説

注1  単細胞紅藻シゾン

学名はCyanidioschyzon merolae。1つの細胞内に、細胞核、ミトコンドリア、葉緑体といった主要なオルガネラが1つずつしか存在せず、極めてシンプルな構造からなる。また16.5Mbpのゲノムに真核生物としては最小の4775遺伝子のみがコードされており、イントロンを含む遺伝子はわずか14個である。光の明暗周期下で培養することによって、細胞分裂を同調化することが可能である。真核生物の基本的な細胞機能や、オルガネラを研究する上で特に重要な実験生物として注目されている。 

注2  ゲノム編集

ZFNやTALEN、Cas9などのヌクレアーゼを用いて、任意のゲノムDNA配列を改変する技術。本研究では、化膿性連鎖球菌Streptococcus pyogenesより単離されたCas9タンパク質を使ったCRISPR/Cas9ゲノム編集を利用している。CRISPR/Cas9によるゲノム編集では、目標とするDNA配列を識別するシングルガイドRNAによってCas9タンパク質が誘導され、目標DNA配列が切断される。その後、切断されたDNAが修復される際に鋳型となるDNA断片を共存させることによって、ゲノムDNA配列を鋳型DNAの配列へと改変することが可能になる。 

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―