2021/09/22

放射光でついに見えた磁気オクタポール

〜熱を電気に変える新たな担い手〜

 

東北大学金属材料研究所

東北大学大学院理学研究科

東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター

高輝度光科学研究センター

高エネルギー加速器研究機構

京都大学複合原子力科学研究所

東京大学大学院理学系研究科

概要

物質中の電子が持つスピンを起源とする高い熱電変換効率や大きな異常ホール効果は、これまで電子スピンが揃った状態でのみ起こると考えられてきました。その一方で、スピンが互いに打ち消し合うように整列した反強磁性と呼ばれる状態でも、大きな効果が報告されており、スピンは打ち消し合っているにも関わらず、何らかの状態が打ち消し合わずに向きを揃えていると考えられていました。これは、「磁気八極子」として理論的に予測されていましたが、実験的には検出されていませんでした。

東北大学金属材料研究所の木俣基准教授、野尻浩之教授と高輝度光科学研究センター(JASRI)の雀部矩正博士研究員、小谷佳範主幹研究員、横山優一博士研究員、東北大学大学院理学研究科の栗田謙亮大学院生、是常隆准教授、物質・材料研究機構の山崎裕一主幹研究員、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の中尾裕則准教授、雨宮健太教授、京都大学複合原子力科学研究所の田端千紘助教、東京大学大学院理学系研究科の中辻知教授、東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの中村哲也教授らの研究グループは、磁石のミクロな起源である電子スピンが互いに打ち消しあう反強磁性と呼ばれる状態の中に潜んだ「磁気八極子(磁気オクタポール)」を放射光X線実験から明らかにしました。

今回検出された磁気八極子は、従来のスピンよりも高速制御が可能で、スピントロニクスデバイスなどの大幅な高速化にも貢献すると期待されています。本研究の成果は新規なスピントロニクスや熱電変換機能を生み出す起源を探る新たな手法の提案であるとともに、放射光を用いたX線磁気分光や共鳴X線散乱の新たな可能性を拓くものです。

図:Mn3Snにおけるスピン(磁気双極子)と磁気八極子の配列パターンの模式図
実際のMn3Snでは上の磁気構造が実現しており、下の磁気構造は比較に利用したMn3Snとは異なる磁気構造です。赤矢印はスピン、水色とオレンジのひょうたん型のイラストは各原子位置でのd電子軌道の形状を表しています。またピンクと緑で描く電子軌道が磁気八極子を示しています。上の磁気構造では三角形の頂点に位置する各Mnのスピンと軌道の相対的な配置(向き)が位置ごとに異なっています。このため、各Mn原子位置からの寄与を足し合わせると、スピンは打ち消し合ってしまいますが、磁気八極子の対称性を持った自由度が残ることが理論的に示唆されていました。その結果、局所的な巨大磁場を起源とする物性応答が有限に観測可能となります。このように、3つのMn原子の集団(クラスター)で有限の磁気八極子が出現することが、この物性の起源であり、クラスター磁気八極子と呼ばれています。一方下の磁気構造では各Mn原子位置のスピンと軌道の相対的な配置は同じであり、全体を足し合わせると全ての自由度が打ち消し合い消失してしまいます。

 

本成果は2021年9月22日10:00(英国時間)に、Nature Communicationsにオンラインで公開されました。

詳細については、東北大学 のホームページをご覧ください。

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―