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Press Releases

DATE2026.05.14 #Press Releases

量子演算の効率的な保存・再生

量子メモリが古典メモリの性能を上回ることを理論的に証明

発表のポイント

  • 量子演算の保存・再生という量子情報処理のタスクにおいて量子メモリが古典メモリに対する優位性を持っていることを証明しました。
  • 古典メモリを用いた場合の最適戦略を導出することで、量子メモリを用いた戦略との間にギャップがあることを証明しました。
  • 本成果は、量子コンピュータの学術・産業的な応用を考える上で必要となる量子優位性の基礎的な理解に役立ちます。

本研究は量子演算の保存・再生における量子戦略の優位性を示す

発表内容

量子コンピュータ(注1)は「量子状態」と呼ばれる特別な状態を用いて情報処理を行います。この量子状態に対して行う操作(量子演算)の内容が分からない場合でも、その操作をメモリに保存し、後から再生できるようにする技術が重要となります。これは、プログラムを保存して後で実行するのに似た技術です。

これまでの方法には大きく2種類ありました(図1):
-    古典戦略(注2):測定して量子演算の内容を同定し、古典メモリに記録する
-    量子戦略:量子演算の内容を同定せず、量子メモリに量子状態として保存する

しかし、どのような場合に量子戦略の優位性(注3)があるかは知られていませんでした。量子戦略の優位性を証明するためにはある量子戦略がどのような古典戦略よりも優れていることを示す必要があります。このためには量子演算の最適な推定精度を求める必要があり、可能な推定方法は膨大にあることから解析が困難でした。

村尾教授らの研究グループは、情報の符号化を表す「アイソメトリ演算(注4)」と呼ばれる量子演算に着目しました。アイソメトリ演算の最適な推定精度を求める問題を解析的に解くことでアイソメトリ演算の推定は標準量子限界(注5)と呼ばれる限界を持つことが示されました。この古典的な限界と、既存の量子戦略を比較することで量子戦略の優位性が示されました。

特に、量子戦略を用いることでアイソメトリ演算を呼び出す回数を平方根の程度まで削減できることを証明しました。

本研究は量子メモリの優位性が厳密に証明できる量子情報処理の例を提供することで、量子コンピュータの学術・産業的な応用に対する指針に影響を与えることが期待されます。また、量子演算の保存・再生の量子戦略は未知の量子演算の内容を開示せずに実行することを可能にするため、量子計算における秘匿性を高める技術との関連性も期待されます。

図1:量子演算の保存・再生に関する古典戦略と量子戦略の比較。

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院理学系研究科 物理学専攻
  吉田 智治 助教
   研究当時:東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 博士課程/日本学術振興会特別研究員
  宮崎 慈生 特任研究員
  村尾 美緒 教授

論文情報

雑誌名 Physical Review Letters
論文タイト
Quantum Advantage in Storage and Retrieval of Isometry Channels
著者 Satoshi Yoshida, Jisho Miyazaki, Mio Murao
DOI 10.1103/fdvq-9m8m

研究助成

本研究は、文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)(課題番号:JPMXS0118069605, JPMXS0120351339)、科研費「特別研究員奨励費(課題番号:23KJ0734)」、「基盤研究(B)(課題番号:21H03394)」、「基盤研究(B)(課題番号:23K21643)」、JST CREST(課題番号:JPMJCR25I5)、変革を駆動する先端物理・数学プログラム(FoPM)、東京大学国際卓越大学院教育プログラム(WINGS)、ダイキンフェローシッププログラム、IBM Quantumの支援により実施されました。

用語解説

注1 量子コンピュータ
量子力学で記述される「重ね合わせ状態」などの性質を利用して情報処理を行う機械。

注2 古典戦略
量子コンピュータに対する対比として従来型のコンピュータは古典コンピュータと呼ばれ、古典コンピュータが扱える情報は古典メモリに保存されます。古典戦略では、量子演算を古典メモリに一度保存したのち、量子コンピュータを用いて保存した量子演算を再生します。

注3 量子戦略の優位性
一般に量子コンピュータを用いた場合に達成可能な性能が古典コンピュータを用いたどのような方法よりも優れている時、量子優位性があるといいます。ここでは古典メモリを用いた場合に対する量子メモリを用いた場合の優位性のことを指します。

注4 アイソメトリ演算
量子状態をより大きなサイズの量子状態に埋め込む演算で、数学的にはヒルベルト空間の間の等長(isometry)写像として記述されます。

注5 標準量子限界
最適な推定精度がサンプルサイズに反比例するとき、この推定問題は標準量子限界に従うといいます。