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Press Releases

DATE2026.03.27 #Press Releases

育ちが生まれに変わるときメダカから見えた可塑性を介する進化の道すじ

-気候変動下における生物の適応メカニズムの理解に新たな知見-

発表概要

 キリンの首はなぜ長いのか?高い木の葉を食べようと首を伸ばし続けた結果、その形質が子に受け継がれたからだと、19世紀の博物学者ラマルクは唱えました。この「獲得形質の遺伝」による環境適応は今でも根強い魅力がありますが、現在では否定されています。しかし生物には、育った環境によって姿や形を変化させる能力があります(表現型可塑性(※1))。最近では、この育ちで獲得した変化が、生まれつき備わっている集団が見つかっており、ラマルクが唱えた「獲得形質の遺伝」を匂わす事例が報告されています。そして、この過程がどのような分子メカニズムで起こるのかは、長年の謎でした。

 本研究では、メダカの腸の長さをモデルに、この謎に初めて分子レベルで答えを出しました。

 九州大学大学院芸術工学研究院の勝村啓史准教授と、東京大学大学院理学系研究科の太田博樹教授、北里大学医学部解剖学の小川元之教授らの研究グループは、香川県の野生メダカと、日本各地に由来するメダカ野生系統を用いて、腸の長さの季節変化と地理的変異を解析しました。その結果、メダカにおいて、祖先的な集団(※2)では育った環境に応じて腸の長さが変わるのに対し、派生的な集団(※3)ではその変化の幅を超えた“極端に長い腸”が、生まれつき備わっていることが示されました。

 この「育ち」が「生まれ」に変わる過程を分子レベルで調べたところ、二つの段階が明らかになりました。まず、腸の長さの季節的な変化(可塑性)は、Plxnb3(※4)の上流領域におけるDNAメチル化(※5)の季節変動と相関しており、この領域を欠失させると、腸の可塑性が失われました。次に、この可塑性が自然に失われた北日本メダカのNJPN1では、Ppp3r1(※6)近傍にもともと存在していた遺伝的変異が選択され、極端に長い腸が固定されていました。分子進化解析から、Plxnb3上流領域のCpG部位(※7)が減少して可塑性が失われた後に、Ppp3r1の変異が広がったことが示唆されました。

 本研究で示された重要な点は、一見すると環境によって長くなった腸が、そのまま子孫に受け継がれたかのように見える、このラマルク的な現象も、ダーウィンの自然選択と木村資生の中立進化(※8)の枠組みで説明できる点です。環境に応じた柔軟な変化を可能にしていたエピジェネティックな仕組みが失われ、その後、集団にもともとあった遺伝的変異から有利なものが選ばれた。これが、本研究が示す「可塑性主導進化(以下PLE、※9)」のメカニズムです。この発見は、エピジェネティクスと進化生物学を橋渡しし、気候変動下における生物の適応進化を理解するための新たな視点をも提供します。

 本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に2026年3月26日(午前3時)(日本時間)に掲載されました。

 

図:本研究で明らかになったPLEのメカニズム  

関連リンク

九州大学北里大学

発表雑誌

雑誌名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)
論文タイトル

DNA methylation site loss for plasticity-led novel trait genetic fixation