DATE2026.02.12 #Press Releases
ペットボトルを薬に変える:プラスチックケミカルリサイクルの加速
ービーズミル法が拓く資源循環型社会ー
発表のポイント
- 外部加熱を必要としない、PETの原料への変換法を開発した。この技術を用い、PETを出発物質とする医薬品合成を達成した。
- 高温条件が必要であったプラスチックの分解が、外部加熱を必要とせずに進行する新技術を開発した。
- プラスチックを化学的処理によりその原料に戻す、ケミカルリサイクル技術として資源循環型社会の発展に貢献できると期待される。

ビーズミル法を用いたPETの低温解重合反応
発表概要
東京大学大学院理学系研究科の石谷暖郎特任教授と、同大学総括プロジェクト機構の小林修特任教授らによる研究グループは、ビーズミル法(注1)という手法によって処理したポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂が、90℃というこれまでにない低温条件で、原料であるテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールに分解(原料化)できることを明らかにしました。
さらに、「処理」と「原料化」を一挙に行うことも可能で、この場合は外部加熱を必要としないことが示されました。
ビーズミル法は、溶媒中2 mm程度のビーズを用いて物質を物理的に微粒子化する方法(図1)で、これまで、この過程で起こる化学変化はほとんど知られていませんでした。本研究では、PETを構成する化学結合が、ビーズミル処理中に切断されることを見出し、それが低温での解重合(注2)につながることを明らかにしました。
本研究成果は、高温・高エネルギーを要する従来のPETケミカルリサイクル手法を大きく変革する可能性を持ち、深刻化する廃棄プラスチック問題の解決に向けた省エネルギー型リサイクル技術の実現に大きく貢献することが期待されます。
図1:ビーズミル法による湿式粉砕技術
発表内容
プラスチックは人類の生活に不可欠な材料です。その生産量は増加を続け、全世界で30年後には1ギガトン/年に達するとも言われています。それに伴い、使用済みプラスチックの処理が社会問題となっています。素材そのものをリサイクルする方法以外に、再原料化したり、他の高付加価値化学品に変換したりする、化学的なリサイクル法(ケミカルリサイクル)があります。プラスチックはある構造が繰り返し繋がっている高分子なので、ケミカルリサイクルには、繋がった分子を元に戻す「解重合反応」(注2、図2)が必要です。一方、ポリエチレンテレフタレート(PET)などプラスチックの多くは溶媒に解けないため、そのままでは反応に関与しにくいという問題があります。化学反応を起こすためには、高温で溶かすなどの方法が必要となり、これがケミカルリサイクルの普及を阻んできました。

図2:プラスチックケミカルリサイクルと今回の開発技術
これに対し、プラスチックをサブミクロンほどに微粒子化すると表面積が増え、反応性が高まると予想できますが、ほとんどの汎用プラスチックは物理的な微粒子化の過程で熱により軟化・融解し、冷えると再び固まる(注3)ため、安定した微粒子として回収することができず微粒子化は事実上困難でした。多くの物理粉砕は、粉砕器に対象となる物質を入れ、カッター、ハンマー、ボールの剪断力・衝突エネルギーを利用して粉砕しますが、本研究グループは、粉砕過程で発生する熱を逃し、微粒子を安定化させる効果が期待できる溶媒の中で粉砕すれば良いと考えました。そこで、直径2 mmほどのビーズを溶媒中で高速撹拌して物質を粉砕する「ビーズミル法」に注目しました(図1)。
研究を重ねた結果、ビーズミルを解重合反応の前に行うことによって、適切な触媒存在下での分解反応、ここでは加メタノール分解反応が著しく加速され、90 ℃程度でもPETがその原料に分解すること(注4)を見出しました。注目すべきは、ビーズミル過程でPETが物理的に「小さく」なるだけではなく、分子の切断が起こる、つまり「化学結合が切断され、低分子化したこと」がわかったことです。物理的な粉砕過程で高分子の化学結合が切断され、低分子化する現象は知られていましたが、この研究では、その現象が溶媒と密な関係にある、つまりビーズミルによる湿式粉砕特有の現象であることを明らかにしました。
また研究グループは、循環式ビーズミル装置を使用し、粉砕処理工程と分解反応を一挙に行うことにより、90℃の加熱すら必要ない原料化法を開発しました(図3)。循環式は溶媒系での粉砕に特有の処理法で、粉砕対象の量は粉砕器の大きさに依存しません。この手法の適用により、これまで課題とされていたスケールの課題(注5)も一挙に解決できる可能性が示されました。
図3:循環式ビーズミル法による粉砕/解重合
さらに、研究グループは原料化によって得たテレフタル酸メチルを用いて、急性前骨髄球性白血病治療薬として利用されている医薬品「タミバロテン」を合成し、飲料用に使用されたプラスチックが、医薬品の原料にもなり得るという、循環型社会の像を示しました。
日本ではPETのリサイクルは定着し、実際高いリサイクル率を誇ります。しかしまだその大半はエネルギーとしてのリサイクルであり、循環型社会成立のためには一層の革新が必要です。本研究は、PETに限らず多くのプラスチックに適用できる可能性を秘めた技術であり、プラスチック資源化に貢献できると期待できます。
発表者・研究者等情報
東京大学
大学院理学系研究科 化学専攻
石谷 暖郎 特任教授
総括プロジェクト機構 「グリーン物質変換」総括寄付講座
小林 修 特任教授
論文情報
-
雑誌名 Chemical Science 論文タイトル Bead Mill-Driven Acceleration in Catalytic Methanolysis Reaction of Poly(ethylene terephthalate) Toward Low-Energy Chemical Recycling of Polymers著者 Tomoya Kawase, Haruro Ishitani*, Shū Kobayashi*(*責任著者) DOI 10.1039/D5SC06930K
研究助成
本研究は、科研費「挑戦的開拓(課題番号:23K17362)」、新エネルギー・産業技術総合開発機構NEDO「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発(課題番号:JPNP 19004)」の支援により実施されました。
用語解説
注1 ビーズミル法
ビーズミル法は、直径2 mm以下のセラミックなどの微小なビーズを高速撹拌し、その剪断力・衝突力で粉体をミクロン〜ナノレベルまで微粉砕・分散する技術。主に液体(溶媒)中で処理する「湿式」で行われ、高効率で他の粉砕処理技術に比べて微細な処理が可能。 ↑
注2 解重合、解重合反応
プラスチック(高分子)をその構成単位に戻す反応を解重合反応という。最小の構成単位はその原料(モノマーという)であり、ここでは原料に戻す反応を原料化としている。↑
注3 熱により軟化・融解し、冷えると再び固まる
ポリエチレン、ポリプロピレン、PET等の汎用性プラスチックは、加熱すると柔らかく(液体化)なり、冷却すると硬くなる性質を持つ。これらは熱可塑性プラスチックと呼ばれ、再加熱で変形できるため加工しやすい。↑
注4 90 ℃程度でもPETがその原料に分解すること
180℃以上で原料に分解する例が多い。なおポリエチレンテレフタレートの原料はテレフタル酸とエチレングリコールだが、本研究では、加メタノール分解のためテレフタル酸ジメチルエステルが得られる。この化合物はテレフタル酸より精製が容易で、簡単にテレフタル酸への変換もできる。↑
注5 スケールの課題
通常の粉砕は粉砕器に収容できる量しか対象物を粉砕できないが、本法では粉砕器に対象物が流通するため、粉砕できる量に制限はない。循環して流通させることでより精密かつ微小に粉砕することができる。↑

