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Press Releases

DATE2026.01.31 #Press Releases

双対性が解き明かす「非可逆対称性に守られたトポロジカル相」

ー新たな量子相の分類と構成法ー

発表のポイント

  • 複雑な数学的構造を持つため理解が困難だった「非可逆対称性に守られたトポロジカル相(SPT相)」の一種が、物理学でよく知られた「自発的対称性の破れ(SSB)」と等価であることを、「双対性」を用いて解明しました。
  • 任意の次元において、これまで未解決だった物理的・数学的に重要な「Rep(D8)型」と呼ばれるクラスの非可逆対称性を持つSPT相の分類に成功し、具体的な模型も構成しました。これにより、新たな量子相の存在が予言されました。
  • 本成果は、新たな量子物質の設計や、量子計算のリソースとしての応用など、量子技術の発展に向けた理論的な礎となることが期待されます。


双対性がつなぐ新奇量子相と対称性の破れ


概要

南デンマーク大学のWeiguang Cao(ウェイグァン・ツァオ)研究員、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻および東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)の山崎 雅人(やまざき まさひと)教授、ゲント大学(論文発表時、現在ペンシルバニア州立大学)のLinhao Li(リンハオ・リー)研究員らによる研究グループは、「双対性(duality)(注1) 」と呼ばれる手法を用いることで、「非可逆対称性(non-invertible symmetry)(注2) 」によって守られたトポロジカル相(SPT相)(注3) の分類と構成法を確立することに成功しました。

本研究では、双対変換を用いることで、非可逆対称性を持つSPT相という難解な問題を、「従来の対称性が自発的に破れる相(SSB相)」という、よく知られた物理現象の問題に既存の理論で扱える形に変換できることを示しました。これにより、任意の次元(注4) における非可逆対称性を持つSPT相の分類が可能となり、さらに具体的な模型の構成にも成功しました。先行研究と比較して、本研究の新規性は大きく二点あります。複雑な非可逆対称性の問題を従来の物理学の言葉で直観的に理解可能にした点、および任意の次元での分類を与えた点に新規性があり、この研究成果は新たな量子相の探索や量子計算のリソース探究に役立つことが期待されます。

 

発表内容

現代物理学において「対称性」は、物質の相(状態)を理解するための最も基本的な概念の一つです。特に「対称性によって守られたトポロジカル相(SPT相)」と呼ばれる物質群は、量子コンピュータなどへの応用も期待されています。近年、群論で記述される従来の対称性を拡張した「一般化された対称性」の研究が急速に進展しており、その中でも逆操作が存在しない「非可逆対称性」が注目されています。しかし、非可逆対称性は従来の群の対称性に比べて構造が複雑であり、それによって守られるトポロジカル相(非可逆SPT相)をどのように分類し、理解するかは未解決の難問でした。

山崎教授らの研究グループは、物理系の「双対性(duality)」に着目しました。双対性とは、一見異なる物理系が、実は数学的に等価な関係にあることを指します。研究グループは、双対変換を行うことで、「非可逆対称性を持つSPT相」が、「従来の群対称性が自発的に破れている相(SSB相)」と等価な関係(一対一対応)にあることを突き止めました(図1)。

図1:双対変換により、非可逆対称性に守られたトロポジカル相(SPT相)、群対称性の自発的対称性の破れ(SSB)と対応することを示す模式図

この双対変換は1990年代初頭にTom Kennedy(トム・ケネディ)氏と田崎晴明氏により発見された双対変換の一般化であり、この変換により得られる自発的対称性の破れ(SSB)は、磁石の性質などを説明する物理学でよく理解されている現象の一種です。本研究は、「Rep(D8)」と呼ばれる近年注目を集めている非可逆対称性の代表例の場合に、この双対性の辞書を用いることで、難解な非可逆SPT相の分類問題を、よく知られたSSB相の分類問題へと「翻訳」して解決しました。

この手法を用いることで、研究グループは以下の成果を上げました。
1. 任意の次元での分類: 任意の時空次元において、「Rep(D8)型」の非可逆対称性を持つSPT相の分類を与えました。これにより、これまで知られていなかった新しい量子相の存在が予言されました。
2. 具体的模型の構成: 空間1次元および2次元において、これらの新しい相を実現する具体的な格子模型を構成しました。
3. 境界状態の解明: 構成した模型の境界(エッジ)に現れる特異な量子状態を解析し、非可逆対称性に特有の物理現象を明らかにしました。

本研究は、近年爆発的に研究が進む「非可逆対称性」を持つ物質相に対し、物理的かつ直観的な理解を与えるものです。双対性を用いる本手法は極めて強力であり、今後、非可逆対称性を持つさらに多様な量子相の発見や、その性質の解明に応用されることが期待されます。また、本研究で構成された模型は、将来的な量子シミュレーションや、トポロジカルな性質を利用した量子デバイスの設計や量子計算のリソース状態としての利用など、量子技術への応用にも理論的な示唆を与える重要な成果です。

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院理学系研究科 物理学専攻
  山崎 雅人(やまざき まさひと)教授
   兼:東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI) 特任教授

南デンマーク大学
  Weiguang Cao(ウェイグァン・ツァオ)研究員

ゲント大学
  Linhao Li(リンハオ・リー)研究員 (研究当時)
   現:ペンシルバニア州立大学

関連リンク

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)科学技術振興機構(JST)

論文情報

雑誌名 Physical Review Letters
論文タイトル
Duality viewpoint of noninvertible symmetry protected topological phases
著者 Weiguang Cao, Masahito Yamazaki, Linhao Li* (*責任著者)
DOI番号 https://doi.org/10.1103/4zfz-x9xh

研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「物質と情報の量子協奏」(グラント番号:JPMJPR225A)、同 ムーンショット型研究開発事業 ムーンショット目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」(グラント番号:JPMJMS2061)」、科研費「基盤(B)(課題番号:JP23K25865)」、「挑戦的研究(萌芽)(課題番号:JP23K17689)」、「学術変革領域(A)(課題番号:JP20H05860)」の支援により実施されました。

用語解説

注1  双対性(duality)
一見すると全く異なる2つの物理系や理論が、ある変換を通して数学的に等価になる性質のこと。本研究では、複雑な対称性を持つ系を、より理解しやすい系へと翻訳するために用いられた。

注2  非可逆対称性(non-invertible symmetry)
従来の群論で記述される対称性を拡張した概念。「逆操作」が存在しない対称性操作を含み、近年、素粒子物理学や物性物理学において急速に研究が進んでいる。

注3  非可逆対称性によって守られたトポロジカル相(SPT相)
ある特定の対称性を保っている限り、その量子的な性質(トポロジカルな性質)が変化しない物質の状態。エッジ(境界)に特徴的な状態が現れることが知られている。

注4  任意の次元
私たちの知っている空間は縦・横・高さの3方向からなるが、より一般にたくさんの方向をもつ空間を考えることができる。この時、次元が3とは限らない任意の次元が得られる。例えば1次元(2次元)を考えることは線状の(面上の)空間を考えることにあたる。