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Press Releases

DATE2026.01.28 #Press Releases

ブラックホールを検出器として用いた暗黒エネルギー観測

ー天体観測で宇宙複屈折を測定する新手法ー

発表のポイント

  • 宇宙複屈折と呼ばれる信号について新たな観測手法を発見しました。
  • ブラックホールを駆動源とする電波銀河などの天体を用いる本手法は、これまでの観測から報告されている信号を独立に検証するために重要な手段となります。
  • 信号の起源が暗黒エネルギーであった場合、その決定的な証拠を掴む可能性があります。


CMB の光と天体の光が受ける宇宙複屈折による回転の概念図(Credit: Naokawa, higgstan.com)


概要

東京大学大学院理学系研究科の直川史寛大学院生は、宇宙複屈折(注1) と呼ばれる現象を観測する際に深刻な問題となる「望遠鏡そのものが生み出してしまう誤差」を克服する手段について研究を行いました。その結果、超巨大ブラックホールを駆動源とする電波銀河など特定の種類の天体(注2) これまでの手法とは別の方法で現象を確かめるための新たな手法を見出しました。さらにこの手法により暗黒エネルギー(注3) の正体に迫る可能性が広がります。

本研究成果は、宇宙マイクロ波背景放射を用いた宇宙複屈折の観測が抱える複数の問題を、同時に解消する手段を提供するものです。本研究で見出された手法は、国際的な大規模電波観測を用いて宇宙中の電波銀河を観測することにより、近い将来実現する可能性があります。本研究で理論的に予言された信号が検出されれば、宇宙複屈折の存在を確認すると同時に、暗黒エネルギーを検出したことを意味します。逆に信号が見つからなかった場合、宇宙複屈折や暗黒エネルギーの理論的な可能性を絞ることができます。


図1:本研究で理論的に予言された信号
宇宙複屈折による回転角の時間発展を、比較的最近の宇宙について理論的に計算した図。一般に宇宙複屈折の時間発展は、起源となる物理モデルのさまざまな条件に依存するが、暗黒エネルギーが起源となる場合は赤線のように一意に定まることを発見した。暗黒物質が起源の場合、最近の宇宙では回転が生じないため、信号は大まかにはゼロとなる(青線)。誤差棒付きの黒の点は、電波銀河を100万個程度集め、赤線と青線を見分けようとした場合に予測される観測精度を表す。つまり「暗黒エネルギーが原因の場合」と「そうではない場合」とを、将来の観測で明確に区別できる可能性があることを示している。(F. Naokawa "Universal profile for cosmic birefringence tomography using radio galaxies "  Phys. Rev. Lett.,2026/1/27 Copyright (2026) the American Physical Society  に掲載された図を一部改変)

発表内容

近年、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)(注4) と呼ばれる宇宙誕生直後の光の観測から「宇宙複屈折」と呼ばれる現象の兆候が報告されています。光は「偏光」(注5) と呼ばれる方向を持ち、通常その方向を保ちます。宇宙複屈折とは、その方向が回転する現象です。この回転は暗黒物質(注3) と暗黒エネルギーなど未解明の物理を解くヒントとなる可能性があります。

CMBの観測から、宇宙のいずれかの時代に0.3度程度の回転が実際に生じた可能性が報告されています。これが宇宙複屈折によるものであれば、背後に暗黒物質や暗黒エネルギーなどの正体となり得る未知の素粒子の存在が強く示唆されます。暗黒物質が原因である場合、宇宙複屈折による回転は初期の宇宙で生じます。暗黒エネルギーが原因である場合は、回転は最近の宇宙で生じます。

しかし、現状の観測手法には複数の問題が存在します。まず、CMBを観測する望遠鏡自体に生じる微妙な回転が、宇宙複屈折と同様の信号を生み出してしまう問題です。つまり望遠鏡自体の「くせ」が観測の邪魔になります。0.3度という回転角は、現在の望遠鏡の較正精度の限界に近く、現象が本当に宇宙複屈折によるものなのか、「くせ」のせいなのかを見分けることが難しい状態です。また「くせ」を克服し信号が真実だと確かめられた場合でもCMBによる観測では回転が宇宙のどの時代に生じたかを特定できず、宇宙複屈折の原因を特定することが困難です。

直川大学院生は問題の克服のため、宇宙誕生直後の光ではなく、銀河などの天体から届く光を使うことを検討しました。全く異なる手法により同じ現象が確認されれば、それは観測装置の「くせ」のせいではないことを示す強い証拠になるからです。また、初期宇宙には存在しない天体の光でも回転が検出されれば、暗黒エネルギーが原因である可能性が強まります。

一般に、宇宙複屈折の回転がどの時代にどの程度生じるか(時間発展)は、原因となる物理モデルの様々な条件に依存し、可能性は無限に存在します。直川大学院生は、色々な条件のもとで具体的な時間発展を計算しました。その結果、暗黒エネルギーが原因である場合、適切な条件の下では時間発展は一意に定まることを見出しました。これにより、天体に生じる宇宙複屈折の具体的な信号を理論的に予言することが可能となります。

天体観測による宇宙複屈折の検証自体は1990年代頃に先駆的に挑戦されており、利用可能な天体がいくつか知られています。直川大学院生は特に、ブラックホールを駆動源とする電波銀河(注6) と呼ばれる天体に着目し、上記の信号の測定が可能かどうかを計算しました。その結果、電波銀河を50万〜100万個程度観測すれば測定でき得ることが示されました。これはスクエア・キロメートル・アレイ(Square Kilometre Array, SKA)(注7) など将来の国際共同計画の視野に入る範囲です。直川大学院生は既に世界中の関係者と議論を進めており、実際のデータを用いた検証にも取り組む予定です。

関連情報

「プレスリリース①宇宙マイクロ波背景放射の偏光に「パリティ対称性」を破る新しい物理の兆候を観測 -暗黒エネルギーの正体解明の糸口になるか?-」(2020/11/24)

「プレスリリース② 宇宙の左右対称性を探る手がかり -宇宙複屈折の観測における不定性の軽減手法を発見-」(2026/1/28 )

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院理学系研究科物理学専攻/大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター
  直川 史寛 博士課程学生

論文情報

雑誌名 Physical Review Letters
論文タイトル
Universal profile for cosmic birefringence tomography using radio galaxies
著者 F.Naokawa
DOI番号 https://doi.org/10.1103/srfg-9fdy

研究助成

本研究は、「日本学術振興会 科研費(課題番号 24KJ0688, 20H05850, 23K20035)」、「変革を駆動する先端物理・数学プログラム(FoPM)、東京大学国際卓越大学院教育プログラム(WINGS)」および「The ANRI Fellowship」の支援により実施されました。

用語解説

注1  宇宙複屈折
宇宙空間を伝播する光の偏光の方向が回転する現象。宇宙複屈折の回転は現在よく知られている物理理論では説明が極めて難しい。よって、もしこの現象が存在すれば、背後には未知の物理現象が存在する可能性が高く、暗黒物質や暗黒エネルギーなどの謎を解くヒントと期待される。

注2  特定の種類の天体
天体を用いて宇宙複屈折による偏光の回転を測定したい場合、元の偏光方向(天体が光を発した時点での偏光の方向)を知ることが必要だが、一般にそれはできない。しかし、いくつかのケースでは、天体の形状などから元の偏光方向を推定することができることが知られている。直川大学院生は、このような天体を「標準交叉(standard cross)」と呼ぶことにした。

注3  暗黒エネルギー、暗黒物質
暗黒エネルギーと暗黒物質は、宇宙全体の9割以上を占めると考えられている。さまざまな観測的状況証拠により、その存在は確実しされているが、2026年現在、その正体は不明のままである

注4  宇宙マイクロ波背景放射(CMB)
この宇宙に天体が生まれるよりも遥か昔、宇宙誕生後37万年頃から宇宙に存在する光。現在も電波望遠鏡を用いると観測することができ、その強度や偏光の分布には、宇宙に関するさまざまな情報が刻み込まれている。

注5  偏光
光は一般に波の性質を持ち、伝播する方向に対して垂直に振動している。この振動の方向がある程度揃っている場合、その光は「偏光」していると言われる。CMBの光は偏光していることが理論的にも観測的にも知られている。

注6  電波銀河
銀河の中心には極めて質量の大きなブラックホールが存在するが、そのブラックホールを駆動源とした強烈な放射を伴う場合がある。このような銀河のうち、特に電波で強く輝く電波銀河と呼ばれる天体は、ジェットと呼ばれる構造を併せ持つ。また電波銀河から放射される電波は強く偏光している。そしてジェットの向きと、元の偏光方向が直角に交叉する傾向が知られており、標準交叉として用いることが可能である。

注7  スクエア・キロメートル・アレイ(Square Kilometre Array, SKA)
かつてない観測感度で電波観測を行う次世代の電波望遠鏡(干渉計)計画。イギリスに本部機能を置き、望遠鏡群は南半球の豪州や南アフリカに建設中である。世界数十ヵ国からなる国際共同計画であり、日本も部分的に寄与している。