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Press Releases

DATE2026.01.21 #Press Releases

温度差から電気を生み出す分子の設計に新たな指針

ー電解液中の水素結合の「強さ」と「乱雑さ」が相関することを証明ー

発表のポイント

  • 酸化還元活性なキノン分子とアルコール分子との間に形成される水素結合の「強さ(エンタルピー)」と「乱雑さ(エントロピー)」を定量した。
  • さまざまなキノン分子に対して測定を繰り返すことで、水素結合のエンタルピーとエントロピーが線形に相関することを証明した。
  • 水素結合のエンタルピーが大きくなるように酸化還元活物質を設計することで、水素結合形成・解離に伴う酸化還元反応前後のエントロピー変化を大きくすることができ、温度差からより大きな電圧が得られる材料設計が可能であることを示唆した。


熱電変換に用いられる電解液中で形成される水素結合の強さと乱雑さは相関する


概要

東京大学大学院理学系研究科の山田鉄兵教授と、周泓遥助教らの研究グループは、低温排熱や体温を利用した発電が可能になるとして近年注目されている熱化学電池(注1) に用いられる酸化還元活物質について、温度差から生み出される電圧が大きくなる分子構造の特徴と、電解液に添加する溶媒が電圧に与える効果を明らかにしました(図1)。

本研究では、熱化学電池電解液の添加溶媒と酸化還元活物質との間に形成される水素結合のエンタルピー(注2) とエントロピー(注3) に着目し、温度可変電気化学測定によって二つの熱化学パラメーターを定量し、エンタルピーとエントロピーが線形に相関することを証明しました。また量子化学計算によって、水素結合エンタルピーが大きい酸化還元分子はπ共役平面に電子供与性の置換基を持つことを明らかにし、実験結果との整合性を確認しました。本研究成果は、今後熱化学電池の分子設計を考える上で役立つことが期待されます。

図1:キノン分子を酸化還元活性種に用いた熱化学電池
アルコールの添加によってキノン分子との間に水素結合が形成され、キノンの酸化還元に伴いエントロピー変化(ΔSHB)が誘起される。このエントロピー変化分だけ熱化学電池が生み出す電圧が増大する。

発表内容

電池を利用して温度差から電力を生み出す熱化学電池は、系の「乱雑さ」や分子の自由度を表す指標となるエントロピーが反応の前後で大きく変化する酸化還元物質ほど、熱から取り出せる電圧が大きいことが知られていますが、結合の「強さ」を示すエンタルピーとどのような相関があるかは大きく着目されてきませんでした。本研究で、アセトニトリル電解液中に添加したアルコール分子がジアニオン体のキノン分子との間に形成される水素結合エンタルピーとエントロピーを定量しました。その結果、水素結合の生成がもたらすエンタルピー変化が大きいキノン分子ほど、エントロピー変化も大きくなることを発見しました。この結果はアルコールとキノン間の結合力が強いほど、アルコール分子の動きが束縛され、系の乱雑さが減少することを反映しています。

本研究で見出された二つの熱力学パラメーター間の関係は「エンタルピー/エントロピー相補性(注4) 」と呼ばれ、生化学の分野ではタンパク質とリガンド分子が水素結合を形成する際に成り立つことが知られています。熱化学電池において添加溶媒と酸化還元活物質との間にエンタルピー/エントロピー相補性が成り立つことは、これまでの研究では知られていませんでした。一般に結合のエンタルピー量はエントロピー量よりも短時間で精度良く量子化学計算から求めることができるため、電解液中においてエンタルピー/エントロピー相補性が成り立つことは、エンタルピーを計算することで、実験を行わずとも実際のエントロピー変化を予測することが可能であることを示唆しています。量子化学計算と温度可変電気化学測定を組み合わせることで、小さな温度差から大きな電圧を生み出すことができる分子の開発がますます加速されることが期待されます。

関連情報

「プレスリリース① ポリマーが丸まるエネルギーを電気に変換することに初めて成功」(2023/07/18)

「プレスリリース② 液体電子冷却技術に新たな一歩」(2025/02/18)

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院理学系研究科
  周 泓遥 助教
  野原 翔 修士課程
  ネイサン ハルタント(Nathan Hartanto)修士課程
  若山 悠有佑 特任研究員
  井上 博王 博士課程
  山田 鉄兵 教授

山形大学
 理学部
  安東 秀峰 准教授

京都大学
 大学院エネルギー科学研究科
   米田 稀 博士課程/東京大学特別研究学生
  松本 一彦 教授

論文情報

雑誌名 Journal of the American Chemical Society
論文タイトル
Enthalpy–Entropy Compensation Governs the Solvent-Mixing Effect in Electrochemical Thermoelectric Conversion
著者 Zhou, Hongyao*; Yoneda, Nozomi; Nohara, Kakeru; Hartanto, Nathan; Wakayama, Yusuke; Inoue, Hirotaka; Ando, Hideo; Matsumoto, Kazuhiko; Yamada, Teppei*(*責任著者)
DOI番号 10.1021/jacs.5c14655

研究助成

本研究は、科研費(21H00017、 20H02714、20K21176、 21H05870、 21J21893、 24K17720、 25K21717)、JST CREST(JPMJCR22O5)、山田科学振興財団、岩谷直治記念財団、キャノン財団の支援により実施されました。

用語解説

注1  熱化学電池
1対の電極間に温度差を与えることで電圧を生み出す電気化学熱電変換システム。

注2  エンタルピー
熱力学における示量性状態量のひとつ。等圧過程においては系から外部に放出される熱量に等しい。化学の分野において結合の強さを表すのに使われる。

注3  エントロピー
熱力学における示量性状態量のひとつ。可逆過程においては熱量を温度で割った値に等しい。統計力学においては系の乱雑さを示す指標としてしばしば用いられる。

注4  エンタルピー/エントロピー相補性
エンタルピーが増加すると系のエントロピーも増大するという法則。水素結合やホスト-ゲスト相互作用の熱力学においてしばしば観察される。