DATE2025.11.18 #Press Releases
筋幹細胞がマクロファージを操って尾を再生!
ー筋幹細胞によるオタマジャクシ尾再生時の免疫応答の制御機構とその制御因子の発見ー
発表のポイント
- ツメガエル幼生(オタマジャクシ)の尾の再生において、推定筋幹細胞は自身が発現する分泌因子c1qtnf3を用いてマクロファージに働きかけることで尾再生を促進していることを見出しました。
- これまで知られていなかった、器官再生時の推定筋幹細胞による免疫応答の制御機構とその因子が初めて発見されました。
- 限られた動物種のみがもつ高い器官再生能を支える機構の解明に繋がることが期待されます。

アフリカツメガエル幼生(オタマジャクシ)
発表概要
東京大学大学院理学系研究科の加藤寿美香大学院生(研究当時、現:理化学研究所 特別研究員)と久保健雄教授、深澤太郎助教の研究グループは、アフリカツメガエルの幼生(オタマジャクシ)の尾再生時に推定筋幹細胞(後述)が、マクロファージ(注1)の機能を再生促進型に変化させる因子を発現し、それによって尾再生を促進していることを発見しました。
動物の中には、損傷などにより失われた体の部分を再形成する「再生能」をもつものがいます。両生類であるアフリカツメガエルは高い器官再生能をもつ動物の一種で、その幼生は損傷などにより尾を失っても、脊髄・筋肉などを備えた機能的な尾を再生します。ツメガエル幼生の尾再生においては、各組織に存在する組織幹細胞(注2)から増殖細胞が産生され、それらが再生尾のそれぞれの組織を再形成しますが、尾再生時の組織幹細胞の挙動ははっきりとは分かっていませんでした。本研究では、器官再生時には組織幹細胞の一つである筋幹細胞が免疫応答を制御することで尾再生を促進するという新規な幹細胞の挙動を世界で初めて見出しました。限られた動物種のみがもつ高い再生能を支える分子・細胞機構の解明に向けた重要な手がかりになることが期待されます。
発表内容
体の失われた器官を再形成する「再生」では、失われた器官のさまざまな組織の細胞を新たに生み出す必要があります。アフリカツメガエル幼生の尾の再生では、各組織に存在する「組織幹細胞」がその役割を担うと考えられていますが、尾再生時に組織幹細胞がどのような挙動をしているのかははっきりとは分かっていませんでした。これは、組織幹細胞が組織中にごく僅かしか存在しないことが研究の障壁となっていたためでした。研究グループはこの問題を解決するために、これまでに組織幹細胞を効率的に濃縮する手法を確立し、この手法を用いて再生中の尾から組織幹細胞が濃縮された細胞分画を得て、シングルセルRNA シークエンス(注3)を行うことで、再生尾を構成するさまざまな細胞の遺伝子発現プロファイルを取得していました[Kato et al., Dev. Growth Differ. 64(6), 290–296 (2022)]。
今回の研究で研究グループは、この遺伝子発現プロファイルを用いて再生中の尾の組織幹細胞で働いている遺伝子を探すことで、組織幹細胞の挙動を明らかにしようと試みました。遺伝子発現プロファイルを精査したところ、既知の筋肉の組織幹細胞である「筋衛星細胞」の他に、筋肉の幹細胞様の遺伝子発現プロファイルを示す細胞群を見出しました。以降、この細胞集団を筋衛星細胞と併せて「推定筋幹細胞」と呼びます。この推定筋幹細胞でのみ発現し、他の細胞種ではほとんど発現しない遺伝子を探索したところ、complement c1q tumor necrosis factor-related protein 3 (c1qtnf3)という分泌因子をコードする遺伝子が見つかりました。尾再生におけるc1qtnf3の働きを調べるために、ツメガエル幼生に対しゲノム編集(注4)という手法を用いc1qtnf3を働かなくさせる(ノックダウン)操作を行ったところ、この幼生の尾の再生が阻害されました(図1)。このことは、c1qtnf3の働きが尾再生に必要であることを示しています。
図1:c1qtnf3をノックダウンすると尾再生が阻害される
ツメガエル幼生は(上図)通常であれば尾を点線の位置で切断しても1週間程度で機能的な尾を再生するが、(下図)c1qtnf3ノックダウン操作を行うと十分な尾再生ができなくなる。両矢印は再生尾の長さ、青線は尾の輪郭を示している。(Kato et al., PNAS, 2025より改変して転載)
では、なぜc1qtnf3が働かないと尾再生が阻害されるのでしょうか?研究グループは、c1qtnf3ノックダウン幼生の再生中の尾を詳しく調べたところ、通常であれば免疫細胞の一種であるマクロファージが尾の切断端付近に集まってきますが、ノックダウン幼生では尾切断端に集まるマクロファージの数が少なくなっていることを見出しました(図2)。このことは、c1qtnf3ノックダウン幼生ではマクロファージの機能に異常が生じている可能性を示唆しています。この可能性を検証するため、研究グループはc1qtnf3ノックダウン幼生において、マクロファージ機能に関わる遺伝子neutrophil cytosolic factor 1 (ncf1)をマクロファージ選択的に強制発現したところ、c1qtnf3ノックダウン幼生における尾切断端へのマクロファージ集積が改善され(図3左・中央列)、同時に尾再生能も改善されることを見出しました(図3右)。マクロファージが尾切断端に集積し尾再生を促進するためには、推定筋幹細胞が発現するc1qtnf3が必要だったのです。
図2:c1qtnf3ノックダウン幼生では尾切断端に集まるマクロファージが減る
マクロファージを緑色蛍光タンパク質GFPで緑色に光らせて、尾切断端へのマクロファージの集積を観察した。尾切断1日後の尾切断端付近について、(図左列)ノックダウン操作を行っていない個体と比較して、(図右列)c1qtnf3ノックダウン操作を行った個体では尾切断端付近に集積するマクロファージ(図下段の矢じり)が減少していることがわかる。(Kato et al., PNAS, 2025より改変して転載)
図3:c1qtnf3ノックダウンで見られた表現型はマクロファージ機能修飾で改善する
(図左列)c1qtnf3ノックダウン操作を行った個体に比べ、(図中央列)c1qtnf3ノックダウン操作を行った上でマクロファージ機能に関与するncf1遺伝子をマクロファージ選択的に強制発現した個体では尾切断端付近に集積するマクロファージ(図下段の矢じり)の数が改善する。このとき、(図右)尾の再生尾長も改善を示している。(Kato et al., PNAS, 2025より改変して転載)
本研究により、ツメガエル幼生の尾再生においては、推定筋幹細胞は自身が分泌因子c1qtnf3を発現し、マクロファージに働きかけることで尾再生を促進するというモデルが提唱されました(図4)。これは、これまで不明な点が多かった器官再生時の組織幹細胞の挙動についての新発見です。今回の研究は、高い器官再生能をもつ動物の再生メカニズムの分子的理解を深める重要な一歩となることが期待されます。
図4:推定筋幹細胞で発現するc1qtnf3はマクロファージに働きかけその再生促進能を発揮させている
(Kato et al., PNAS, 2025より改変して転載)
発表者・研究者等情報
東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻
加藤 寿美香(研究当時:博士課程)現:理化学研究所 特別研究員、久保 健雄 教授、深澤 太郎 助教
論文情報
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雑誌名 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 論文タイトル Putative muscle stem cells promote Xenopus tail regeneration by modifying macrophage function via c1qtnf3著者 Sumika Kato, Takeo Kubo, Taro Fukazawa* (*責任著者) DOI番号 10.1073/pnas.2504410122
研究助成
本研究は、科研費「基盤研究(C)(課題番号:19K06437)」、「挑戦的研究(萌芽)(課題番号:20K21517, 22K19325)」、「基盤研究(B)(課題番号:24K01945)」、「特別研究員奨励費(課題番号:22J21275)」の支援により実施されました。
用語解説
注1 マクロファージ
免疫細胞の一種で、体内の死んだ細胞やその破片、また体外から侵入してきた細菌などの異物を取り込んで消化することでそれらを体内から取り除く役割をもちます。マクロファージは幼生尾再生に促進的な働きをすることが知られていましたが、どのようにその機能が制御されているのかは不明でした。↑
注2 組織幹細胞
動物の体を構成するさまざまな組織では、それを構成する細胞が古くなったり死んだりするとそれを補充するように新しい細胞が生みだされます。創傷時にも、失われた部分を再形成するために新しい細胞が生みだされます。この、新しく組織を構成する細胞を生み出す細胞が組織幹細胞です。↑
注3 シングルセルRNA シークエンス
個々の細胞の遺伝子発現プロファイル(遺伝子別発現量リスト)を網羅的に取得する手法です。得られた遺伝子発現プロファイルをもとに細胞を分類することができるため、特徴的な細胞集団を見つけたりその集団において発現している遺伝子を探索したりすることができます。 ↑
注4 ゲノム編集
生物のもつ遺伝子の配列を人為的に改変する手法の総称です。本研究ではCRISPR/Cas9法という方法を用い、c1qtnf3の遺伝子配列を本来の機能を持たない配列に改変することでc1qtnf3が働かないようにしました。↑

