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Press Releases

DATE2025.06.20 #Press Releases

植物ステロイドホルモンの謎解明

——  ブラシノステロイドが花粉管ガイダンスを向上する——

発表のポイント

  • ブラシノステロイドは花粉から精製・発見された植物ステロイドホルモンであるが、なぜ花粉に多いのか、生殖における役割は明らかではなかった。
  • ブラシノステロイドが花粉管ガイダンスを向上させることを示した。
  • 今後植物の花粉管ガイダンスを向上させる仕組みの研究が大きく進展することが期待される。


植物ステロイドホルモンによる花粉管ガイダンスの向上


発表概要

東京大学大学院理学系研究科の松浦公美特任助教東山哲也教授、中部大学の鈴木孝征教授、東北大学の木全祐資助教、植田美那子教授、理化学研究所の竹林裕美子テクニカルスタッフ、榊原均グループディレクター(研究当時、現:名古屋大学教授)、中野明彦光量子工学研究センター副センター長(研究当時、現:東京科学大学客員教授、理化学研究所客員主管研究員)、京都大学の中野雄司教授らの研究グループは、ブラシノステロイド (注1) が花粉管ガイダンス(注2) を向上させることを示しました。

研究グループは、花粉管の胚珠(注3) へのガイダンスを定量的に調べる実験手法を用い、ブラシノステロイドを添加すると花粉管が活性化されて、胚珠からのガイダンス物質に効率よく反応することを発見しました。

発表内容

被子植物が受精するには、花粉に含まれる精細胞と雌しべ内の胚珠と呼ばれる組織に包まれた卵細胞が出会う必要があります。雌しべの先端に受粉した花粉からは、花粉管と呼ばれる細長い管状の細胞が生じて雌しべ内を伸長し、胚珠にたどり着いて内部の精細胞を放出し、卵細胞と受精します(図1)。先行研究により、胚珠からは花粉管の伸長方向を制御するガイダンス物質とよばれるタンパク質が分泌されることが明らかになっています。

ブラシノステロイドは、セイヨウアブラナの花粉から精製・発見された植物ステロイドホルモンですが、なぜ花粉に多いのか、生殖における役割は明らかではありませんでした。


図1:植物の生殖過程

①雄しべで作られた花粉が雌しべの先端に受粉する。花粉からは花粉管と呼ばれる細長い管状の細胞が生じて雌しべ内を伸長する。②花粉管は雌しべ内の胚珠から分泌される花粉管ガイダンス物質によって胚珠へと正確に誘引される。

本研究グループは、ブラシノステロイドが花粉管ガイダンスを向上させることを示しました。研究グループは花粉管の胚珠へのガイダンスを定量的に調べる実験手法を用い、ブラシノステロイドを添加すると花粉管が活性化されて胚珠からのガイダンス物質に効率よく反応することを発見しました(図2)。また、シロイヌナズナの雌雄の生殖組織(花粉および胚珠)では他の組織(葉)に比べてブラシノステロイドが多く含まれることを示しました。さらに遺伝子のはたらきを調べたところ、ブラシノステロイドが花粉管(オス)だけでなく胚珠(メス)の遺伝子のはたらきも制御することを明らかにしました。今後ブラシノステロイドにより制御される遺伝子をさらに解析することで花粉管ガイダンスを向上させる分子メカニズムの解明が期待されます。


図2:ブラシノステロイドを添加して花粉管ガイダンスが向上した図と顕微鏡画像

A.花粉管の胚珠へのガイダンス率の定量。花粉管培養用の寒天培地の上に花粉を置き、周囲に胚珠を並べて花粉管がガイダンスされた胚珠の割合を算出した。B. ブラシノステロイド添加なしでは花粉管(緑色)は胚珠からのガイダンス物質に反応せず通り過ぎるものが多い傾向が見られた。C. ブラシノステロイド添加ありでは、胚珠にガイダンスされる花粉管(黄色矢じり)が多い傾向が見られた。

研究グループ構成員等情報

東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻
  東山 哲也 教授
  松浦 公美 特任助教

中部大学応用生物学部 応用生物化学科
  鈴木 孝征 教授

東北大学大学院生命科学研究科 生態発生適応科学専攻
  植田 美那子 教授
  木全 祐資 助教

理化学研究所
 環境資源科学センター
  榊原 均 グループディレクター(研究当時)
   現:名古屋大学教授
  竹林 裕美子 テクニカルスタッフ

 光量子工学研究センター
  中野 明彦 副センター長(研究当時)
   現:東京科学大学客員教授、理化学研究所客員主管研究員

京都大学大学院生命科学研究科 統合生命科学専攻
  中野 雄司 教授

論文情報

雑誌名 Cell Reports
論文タイトル
Brassinosteroids promote pollen tube guidance by coordinating gene expression in male and female reproductive tissues
著者 Kumi Matsuura-Tokita*, Takamasa Suzuki, Yusuke Kimata, Yumiko Takebayashi, Minako Ueda, Takeshi Nakano, Hitoshi Sakakibara, Akihiko Nakano, and Tetsuya Higashiyama
(*責任著者)
DOI番号 10.1016/j.celrep.2025.115815

研究助成

本研究は、科研費「特別研究員奨励費(課題番号:JP15J40125)」、「挑戦的研究(萌芽)(課題番号:JP18K19333)」、「挑戦的研究(開拓(課題番号:JP21K18235)」、「基盤研究(S)(課題番号:22H04980)」「国際共同研究加速基金(国際先導研究)(課題番号:22K21352)」、「若手研究(課題番号:JP23K14204)」、「学術変革領域研究(A)(課題番号:JP25H01809)」)」、 戦略的創造研究推進事業「CREST(課題番号:JPMJCR20E5)」、「CREST(課題番号:JPMJCR2121)」の支援により実施されました。

用語解説

注1  ブラシノステロイド
植物のステロイドホルモン。ステロイドホルモンは動物や昆虫にも存在し、ステロイド骨格とよばれる共通の構造をもつ。

注2  花粉管ガイダンス
花粉管が胚珠から分泌されるガイダンス物質に応答して伸長方向を制御しながら胚珠へと正確に誘導される過程。

注3  胚珠
雌しべ内にあり種子の元となる組織。