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Press Releases

DATE2025.06.09 #Press Releases

卵子染色体の正常性維持におけるヒストン修飾の新たな役割を解明

~ヒストン修飾H3K4me3は卵染色体や紡錘体の安定性を制御する~

発表概要

卵子(卵母細胞)が受精後に正常発生するためには、染色体の正確な分配が必要不可欠であり、この機構の異常が不妊症や流産の原因の一つとなっています。成熟卵子(MII期卵)では、染色体が正しく機能するために多くのメカニズムが働いています。その一つに、染色体を構成するヒストンタンパク質の化学修飾があります。ヒストン修飾の内、H3K4me3は転写活性化に重要な役割を担うことが知られていますが、転写が行われていないMII期卵においても染色体上に多量に存在していることが知られていました。

本研究により、成熟卵染色体におけるH3K4me3は、遺伝子の転写制御とは異なる新たな役割として、染色体や紡錘体の安定性維持に必要であることを世界で初めて明らかにしました。

九州大学大学院農学研究院の宮本圭教授の研究グループ、近畿大学大学院生物理工学研究科の鷹巣篤志大学院生、山縣一夫教授、松本和也教授の研究グループ、旭川医科大学医学部の日野敏昭准教授、理化学研究所(理研)生命機能科学研究センターの北島智也チームリーダーの研究グループ、東京大学大学院理学系研究科の大杉美穂教授、および理研バイオリソース研究センターの小倉淳郎室長の研究グループは、マウスの成熟卵染色体において細胞膜側(皮質側)にH3K4me3が蓄積していることを発見しました(図)。さらにH3K4me3を卵子染色体から人工的に除去したところ、染色体を整列させる構造である紡錘体が不安定化し、受精後に正常な胚へと発生する能力が著しく低下することを明らかとしました。また、老化卵子においては、H3K4me3が異常に低下することも報告しております。

今回の発見は、広く研究されてきたH3K4me3の新たな機能を示す発見であるとともに、不妊治療や流産予防の分子標的として期待され、卵子の染色体分配異常の解明や治療への新たな道を拓くと考えられます。

本研究成果は米国科学誌「Journal of Biological Chemistry」に2025年5月29日(木)にオンライン公開されました。

図:本研究の概要図

関連リンク

九州大学近畿大学旭川医科大学理化学研究所

発表雑誌

雑誌名
Journal of Biological Chemistry
論文タイトル

Characterization of H3K4me3 in mouse oocytes at the metaphase II stage