DATE2025.03.06 #Press Releases
幻のマヨラナ粒子をスピントロニクスで捉える
発表概要
現在の量子コンピュータが直面している誤り耐性の実現という課題を、物質中に現れるマヨラナ粒子と呼ばれる特殊な粒子を用いて解決する方法が有力視されています。しかし、この粒子は電子と違って電荷を持たないため電気的操作が難しく、決定的な制御法はまだ発見されていません。
福井大学大学院工学研究科の加藤康之准教授、東北大学大学院理学研究科の那須譲治准教授、千葉大学大学院理学研究院の佐藤正寛教授、東京大学大学院理学系研究科の大久保毅特任准教授、東京大学物性研究所の三澤貴宏特任准教授、東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授らのグループは、スピントロニクス分野でよく用いられる温度差によってスピンを流すスピンゼーベック効果(SSE)と呼ばれる現象を用いて、量子スピン液体(QSL)状態に現れるマヨラナ粒子の新しい検出手法を理論的に提案しました。この効果によって生じるスピン流の磁場・温度依存性に、マヨラナ粒子に特徴的な振る舞いが現れることを発見しました。この成果は、スピントロニクスによるマヨラナ粒子探査の可能性を示すだけでなく、スピン流によるマヨラナ粒子制御の可能性を示唆しており、実用的な量子計算の実現にも寄与すると期待されます。
この研究成果は、3月6日午前0時(日本時間)に国際科学誌「Physical Review X」に掲載されました。
図:スピンゼーベック効果。通常の強磁性体においては、熱勾配により、白矢印で示すように温度が高い方から低い方へとマグノンが流れることでスピン流を生じます(a)。キタエフ量子スピン液体に現れるマヨラナ粒子は、スピン角運動量を持たないにも関わらず、同様に温度が高い方から低い方へと流れてスピン流を生じることが明らかとなりました(b)。マグノンは下向きスピンを有し、スピン流に寄与します。一方、マヨラナ粒子は、スピン間の相互作用係数の正負に応じて、上向きスピンまたは下向きスピンの性質を帯びるため、スピン流の向きも変化することが見いだされました。
なお、本研究には、知の物理学研究センターの大久保 毅 特任准教授が参加しています。