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Press Releases

DATE2025.01.16 #Press Releases

半導体露光プロセスのみで平面レンズを作製する手法を開発

——可視光平面レンズの大量生産を可能に——

発表のポイント

  • 本研究では、半導体露光プロセスのみを用いて、極めて簡便に可視光の平面レンズを作製できる手法を開発することに成功しました。
  • JSR株式会社の開発した特定波長を吸収するカラーレジストを使用して半導体露光プロセスを行うだけで、良好な集光特性を示す多数のフレネルゾーンプレート型平面レンズを製造することが可能であることを示しました。
  • 本手法は、すでに産業界で利用されている半導体露光装置(ステッパー)を使って、平面レンズを低コストで大量生産することを可能にする技術であり、光産業への大きな波及効果が期待されます。


半導体露光プロセスのみで作製した平面レンズと集光の様子


発表概要

東京大学大学院理学系研究科の小西邦昭准教授、山田涼平特任研究員(当時)らと、JSR株式会社の岸田寛之氏らによる研究グループは、半導体露光プロセスのみを用いて平面レンズを大量生産することが可能な手法を開発することに成功しました。

光学レンズは長らく研磨技術で作製されてきましたが、近年、光の波長と同程度以下の大きさのサブミクロン構造を用いてレンズの機能を実現するメタレンズ(注1)などの新しい平面レンズが注目されています。本研究では、半導体露光プロセスのみを用いて、同心円状のリング構造からなるフレネルゾーンプレート(Fresnel zone plate, FZP)(注2)型の平面レンズを極めて簡便に作製する手法を開発しました。この方法では、特定波長を吸収して光の透過を遮断するJSR株式会社の開発したカラーレジストを使用することで、図1に示すように、たった一回の半導体露光プロセスを行うだけで、8インチ基板上に多数のFZPレンズを製造することが可能です(図2)。作製したレンズは、可視光の光を約1.1ミクロンのビーム径に集光でき、イメージング用のレンズとしても使用可能であることを示しました。本手法は、すでに産業界で利用されている半導体露光装置(ステッパー)(注3)を使って、平面レンズを低コストで大量生産することを可能にする技術であり、光産業への大きな波及効果が期待されます。


図1:半導体露光プロセスのみによる平面レンズ作製手法の模式図
ガラス基板上にカラーレジストをスピンコートし、半導体露光装置で紫外線を照射して現像するだけでフレネルゾーンプレート型光学レンズの作製が完了する。

発表内容

研究の背景
レンズは、カメラ、センサーなどあらゆる光学機器に使用される最も基本的な光学素子の一つです。レンズは、発明されてから今日までの長い間、研磨等の技術を用いて透明材料を球面上に加工することで作製されてきましたが、近年、リソグラフィー等の微細加工技術を用いて作製した光の波長と同程度以下の大きさのサブミクロン人工構造を用いることで、メタレンズ等と呼ばれる平面状のレンズを作る技術が発明され、その高い制御性やコンパクト性からレンズ作製技術に革新をもたらすものとして注目されています。しかしながら、これらの人工微細構造の作製には、成膜装置、半導体露光装置、ドライエッチング装置など複数の装置を用いることが必要であり、構造作製の過程が煩雑であることが問題となっていました。

研究の内容
本研究で作製した平面レンズは、幅の異なるリングが同心円状に並んだフレネルゾーンプレート(Fresnel zone plate, FZP)と呼ばれるレンズです。リングの幅と間隔は外側ほど小さくなり、最も外側では1ミクロン程度になります(図2右)。このリングは光を遮断する必要があり、本研究では、JSR株式会社が開発したカラーレジストと呼ばれる特殊なレジストを用いて平面レンズを作製しました。このレジストは半導体微細加工プロセスにおいて、微細パターンを形成することが可能なフォトレジストの一種で、特定の波長を吸収して光を遮断するという特徴を有します。そのため、このカラーレジストを用いれば、半導体露光プロセスのみで、フレネルゾーンプレートレンズを作製することができます。

1つのFZPレンズの写真と電子顕微鏡画像を図2に、8インチのガラス基板全体にステッパーと呼ばれる市販の半導体露光プロセス装置を用いて作製したFZPレンズの全体写真を図3に示します。このレンズを用いて、波長550nmの光を集光したところ、約1.1ミクロンのビーム径に集光できることが明らかになりました(図4左)。また、この集光特性は数値計算シミュレーションの結果とも極めて良く一致しています(図4右)。さらに、このレンズをイメージング用のレンズとして用いたところ、図5に示す結果から、約1.1ミクロンの分解能が達成できることも明らかになりました。波長450nmおよび650nmの光に対しても同等の高い集光性を示すレンズを作製することに成功しており、本手法によってさまざまな波長の可視光領域の平面レンズを簡便に作製することが可能になります。

図2:ブルーレジストを用いて作製したFZP平面レンズの顕微鏡画像(左)と電子顕微鏡画像(右)
左右の図のスケールバーはそれぞれ1mmと2μm。 FZPレンズの最小線幅は約1.1μmである。

 

図3:グリーンレジストを用いて8インチガラス基板全体に作製したFZP平面レンズ

図4:作製したFZP平面レンズの集光点におけるビームプロファイル(左)と断面プロファイルの実験とシミュレーションの比較(右)
光の波長は550nm。左図のスケールバーの大きさは2μm。

図5:作製したFZP平面レンズを用いて撮影したターゲットの像
左右の図のスケールバーはそれぞれ30μmと5μm。

本研究の意義
本手法は、すでに半導体産業の現場で広く使われている半導体露光装置(ステッパー)をそのまま用いることができるため、これら既存の装置を用いて、平面レンズの大量生産と低コスト化を実現できる可能性を有しています。そのため、本手法によって作製されたレンズは、光産業において大きな波及効果を及ぼすことが予想され、今回の成果を踏まえて今後は、スマートフォンや各種センサー用カメラなど、様々な光学用途に適用可能なフラットレンズの開発が進められることが期待されます。

論文情報

雑誌名 Light: Science & Applications
論文タイトル
Optical Fresnel zone plate flat lenses made entirely of colored photoresist through an i-line stepper
著者
Ryohei Yamada, Hiroyuki Kishida, Tomohiro Takami, Itti Rittaporn, Mizuho Matoba, Haruyuki Sakurai, Kuniaki Konishi*(*責任著者)
DOI番号 10.1038/s41377-024-01725-6

研究助成

本研究は、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻とJSR株式会社が物理と化学の融合を目指す包括的連携に合意し2020年4月1日より共同研究を開始した協創オフィス「JSR・東京大学協創拠点CURIE」における共同研究で得られた成果です。

用語解説

注1  メタレンズ
光や電磁波が、その波長よりも小さい人工的な構造体を透過する際に、その形状や大きさに応じて光の位相や振幅が変化することを利用して、透過する光を集光させたり、偏光や伝搬方向を制御したりすることができる、新しい原理に基づくレンズ。

注2  フレネルゾーンプレート
同心円状の明るい領域(透過部分)と暗い領域(遮蔽部分)が適切な間隔で交互に並べられた光学素子で、回折現象を利用してその光の干渉効果によって光を集光し、レンズのように機能する。

注3  ステッパー 
フォトマスク上の回路パターンを縮小投影してウェハに転写する半導体製造で使用される露光装置。ウェハステージを精密に移動させながら各領域を順次露光することによって、微細パターン形成を行う。半導体回路のトランジスタや配線パターンの作製に不可欠であり、微細化する半導体プロセスの中核技術を支えている。

関連リンクJSR株式会社