DATE2025.01.25 #Press Releases
散りゆく大質量星の傍らで太陽系は生まれた
—— 超新星爆発の年代をアルミニウム−チタン宇宙核時計で計測——
発表のポイント
- 太陽系は、近傍の大質量星が重力崩壊型超新星爆発を起こしたのとほぼ同時に誕生したことを明らかにしました。
- この研究成果は、アルミニウムとチタンの同位体を結び付けた新しい宇宙核時計を開発することで、得られました。
- 今後この時計をさまざまな隕石試料の年代測定に応用することで、惑星形成過程の理解が進むと期待されます。
太陽系形成と進化の模式図
発表概要
東京大学の飯塚毅准教授、日比谷由紀准教授、吉原慧大学院生、量子科学技術研究開発機構の早川岳人上席研究員の研究チームは、大質量星が重力崩壊型超新星爆発(注1)を起こした傍らで、太陽系が誕生したことを明らかにしました。
隕石の分析から、アルミニウムの短寿命放射性同位体26Al(半減期73万年)が、初期太陽系に存在したことが知られています。しかし、この26Alがどのような天体現象で生成されたのかは未解明でした。本研究では、初期太陽系における26Al存在量の変動が、チタンの安定同位体46Tiおよび50Ti存在量の変動と相関することを発見し、その起源が大質量星の重力崩壊型超新星爆発にあることを示しました。さらに、アルミニウム-チタン宇宙核時計(注2)を新たに開発し、この超新星爆発が太陽系最古の隕石形成より約90万年前に、太陽系の誕生した場所から100光年以内で起きたことを明らかにしました(図1)。今後は、この時計をさまざまな隕石の年代測定に応用することで、惑星形成過程の理解が進むと期待されます。
図1:太陽系形成と進化の模式図
太陽系は分子雲の重力収縮により形成された。この母分子雲には、近傍の大質量星の重力崩壊型超新星爆発で放出された26Alおよび46Tiと50Tiが混入した。原始太陽の周りに形成された円盤内の外側領域には、超新星爆発放出物がより多く含まれていたことが、隕石の分析から分かっている。やがて、円盤の内側領域では地球型惑星が、外側領域では木星型惑星が形成された。
発表内容
<研究の背景>
我々の太陽系はどのようにして生まれたのか?これは人類にとっての根源的な問いであり、天文学および地球惑星科学における永年の研究課題 です。初期太陽系に存在したアルミニウムの放射性同位体26Alは、この問いに答える手掛かりとなります。26Alは半減期73万年でマグネシウムの安定同位体26Mgにベータ崩壊するため、形成から約46億年経った現在の太陽系では消滅しています。しかし、太陽系最初期に形成された隕石には、地球岩石などの若い試料に比べ、娘核26Mgが過剰に存在することから、隕石形成時に26Alが存在したことが知られています。この26Alは、太陽系の誕生前後に存在した天体で核合成され、恒星風や超新星爆発により原始太陽系にもたらされたと考えられます。その天体候補として、赤色巨星の一種である漸近巨星分枝星、太陽の40倍以上の質量を持つウォルフ・ライエ星、伴星をもつ白色矮星が起こす熱核反応型の超新星爆発、太陽の8倍以上の質量をもつ星が起こす重力崩壊型の超新星爆発が提案されていましたが、未解明でした。この起源が解明されれば、誕生前後の太陽系の近くに存在した天体が分かり、さらに26Alを宇宙核時計として用いることで、天体における核合成から太陽系誕生までの時間を計測できます(図2)。
図2:アルミニウム-チタン宇宙核時計の模式図
超新星爆発で合成された26Alはベータ崩壊によって減少し、その一部は太陽系に取り込まれた。合成された26Al量は理論計算で求めることができ、太陽系最古の隕石形成時(45.67億年前)の26Al量は現在の娘核26Mgの量から求めることができる。本研究では、26Alとチタン同位体を組み合わせることで、超新星爆発放出物の太陽系への混入割合fと、超新星爆発と最古隕石形成年代の時間差∆tを同時に計測した。(1/25 図2差し替え)
<研究内容と成果>
本研究では、初期太陽系において一部の同位体が不均質に分布していた点に着目し、26Alの起源天体に迫りました。原始太陽系円盤(注3)のさまざまな場所で形成された年代が既知の隕石の同位体分析から、円盤外側には内側に比べて、より多くの26Alが存在したことが近年明らかになりました。研究チームは、この26Alの存在量の不均質性がチタン安定同位体46Tiおよび50Tiの存在量の不均質性と相関することを発見しました。この相関は、26Alの起源となった天体で46Tiと50Tiも核合成され、その天体の放出物が原始太陽系円盤の外側に、より多く混入したことを示します(図1)。チタンの各同位体の合成量は、恒星の温度や密度などの環境により異なります。原始太陽系円盤における46Tiと50Tiの存在量の変動は、重力崩壊型超新星爆発を起こす恒星、特に太陽の約25倍の大質量星で合成されるチタンの生成量で最も良く説明できることが分かりました。これにより、26Alの起源が重力崩壊型超新星爆発であることも明らかになりました。
さらに本研究では、アルミニウムとチタン同位体の相関を利用し、超新星爆発の起きた年代とその放出物の太陽系への混入割合を一緒に求める宇宙核時計を新たに考案しました(図2)。そして、この宇宙核時計を適用した結果、超新星爆発の年代は、太陽系で最も古い隕石の形成年代に比べ約90万年古いと計測されました。この年代差は、天体観測から推定されている、恒星が分子雲の収縮で形成し始めてから、その星周円盤で固体物質が形成し始めるまでの典型的な時間スケールと同程度です。つまり、超新星爆発とほぼ同時期に太陽系が生まれたことを示しています。また、超新星爆発放出物の太陽系への混入割合は、超新星と太陽系間の距離に依存することから、その距離が100光年より短いと推定されました。近年の天体観測では、重力崩壊型超新星爆発の残骸の周りで次世代の恒星が生まれる姿が捉えられています。本研究の結果は、我々の太陽系もまた、散りゆく大質量星に伴って生まれたことを示唆します。
<今後の展望>
26Alは、太陽系初期に形成された隕石の年代を高精度に計測する時計としても利用されてきました。この隕石年代測定では、26Alが原始太陽系円盤に均質に分布したと仮定していました。しかし、上述のように近年その不均質分布が明らかになり、隕石年代値の改訂が迫られています。本研究で発見されたアルニウム-チタン同位体の相関は、隕石年代値の改訂に応用できます。この手法により精確な隕石の年代が明らかになれば、より信頼性の高い惑星形成理論の構築につながると期待されます。
関連情報:量子科学技術研究開発機構(QST)、先端科学技術研究センター
論文情報
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雑誌名 The Astrophysical Journal Letters 論文タイトル Timescales of Solar System Formation Based on Al–Ti Isotope Correlation by Supernova Ejecta著者 Tsuyoshi Iizuka*, Yuki Hibiya, Satoshi Yoshihara, Takehito Hayakawa(*責任著者) DOI番号 10.3847/2041-8213/ada554
研究助成
本研究は、科研費「基盤研究(A)(課題番号:22H00170)」、「国際共同研究強化(B)(課題番号:21KK0057)」の支援により実施されました。
用語解説
注1 重力崩壊型超新星爆発
太陽の8倍以上の質量をもつ恒星が、進化の最終段階において鉄のコアが重力崩壊することで爆発し、一時的に非常に強い光を発生する現象。↑
注2 宇宙核時計
放射性同位体を時計として利用し、原子核の合成を伴う天体現象の年代を測定する手法。特に半減期が数十万年から数百万年程度の短寿命放射性同位体は、太陽系誕生直前に発生した天体現象の年代測定に適する。↑
注3 原始太陽系円盤
形成されつつある恒星の周りには、濃いガスと塵からなる円盤が形成され、やがてこの星周円盤の中で惑星が形成される。この円盤を原始惑星系円盤と呼び、特に太陽系の惑星を作る元となった円盤を原始太陽系円盤と呼ぶ。↑