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Press Releases

DATE2024.05.01 #Press Releases

世界でもっとも高い天文台が宇宙を探る

~チリ・TAO望遠鏡、惑星や銀河などの起源解明に挑む~

東京大学大学院理学系研究科

天文学教育研究センター

 

惑星はどのように形成されるのか?銀河はどのように進化するのか?そして宇宙そのものはどのように始まったのか?2024年4月30日、研究者が最大の謎の解明に挑むために作られた、世界的にもユニークな天文台施設のオープニングイベントが開催される。この天文台は、チリ北部の砂漠、チャナントール山山頂に建設された東京大学アタカマ天文台(TAO:The University of Tokyo Atacama Observatory)であり、標高5,640メートルと世界で最も高い場所にある天文台である。

天文学者たちは、宇宙をよりよく観測するためのあらゆる努力を惜しまない。さかのぼること数百年前、天文学者たちは星空を地球からよりよく見るために望遠鏡用にレンズを発明した。それ以来、ビルほどの大きさの鏡を持つ光学望遠鏡、山頂から山頂までのアンテナを持つ電波望遠鏡、そして月よりも遠い宇宙にあるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡まで登場した。そして今、東京大学は、日本政府からも資金協力を受けて、これらに続く画期的な望遠鏡サイトをオープンさせた。

TAOは計画と建設に26年を費やしてきた。TAOは世界で最も高い場所にある天文台であり、その事実は公式記録としてギネス世界記録として認定されている。チリのアタカマ砂漠に位置するこの天文台は、日本の天文学者が頻繁に利用するもうひとつの注目すべき天文台、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)電波望遠鏡からそう遠くない。しかし、なぜTAOはこれほど高い場所に作らなければならなかったのか。そして、それはどのような利点と欠点をもたらしているのだろうか。

「ダークエネルギーや原始的な最初の星など、宇宙の謎の解明を目指しています。そのためには、TAOだけが可能にする方法で空を見る必要があります」と、1998年から26年間、研究責任者としてTAOプロジェクトをリードしてきた吉井譲名誉教授は語る。「もちろんTAOには最先端の光学系、センサー、電子機器、メカニズムが搭載されていますが、高度5,640メートルという他に類を見ない高さが、TAOの鮮明な視界を生み出しているのです。この高さでは、赤外線観測に影響を与える大気中の水分がほとんどありません。チャナントール山の山頂に天文台を作ることは、技術的な面だけでなく、政治的にも信じられないような挑戦でした。わたしたちは、先住民の人々の権利と意見を尊重しながら彼らの理解を得るために交流を深め、そして建設の同意を得たうえで、最終的にチリ政府に建設の承認をもとめました。また、地元の大学とは技術的な面での協力を行い、さらに標高の高い場所での作業安全についてはチリの保健省と協力関係を築いてきました。こうした関係者全員のおかげで、わたしたちが夢見た研究がまもなく現実のものとなります。これ以上の喜びはありません」

TAOの驚異的な標高は、人間がそこで働くことを困難で危険なものにしている。高山病のリスクは、建設作業だけでなくそこで研究する天文学者にとっても高く、特に夜間は症状が悪化する可能性がある。・・・これだけの労力と費用をかけてTAOは、天文コミュニティに、ひいては人類の知にどのような成果をもたらすのだろうか?

「この高さと乾燥した環境のおかげで、TAOは中間赤外線をはっきりと見ることができる世界で唯一の地上望遠鏡となります。この波長領域は、惑星形成領域を含む恒星周辺の環境を研究するのにひじょうに適しています」と、天文学教育研究センターアタカマ観測所の所長であり、天文台の建設に携わった宮田隆志教授は語る。「TAOは東京大学によって運営されるため、本学の天文学者は長期間にわたってTAOを自由に利用することができます。これは、継続的な観測が困難な共有の望遠鏡では不可能とされた、宇宙のダイナミックな現象を探求するうえで重要な要素です。わたしはTAOに20年以上携わってきました。天文学者として、本当にわくわくしています」

TAOによって実現できる観測研究は多岐に渡る。研究者は各人の研究テーマに応じていろいろな観測装置を用いることになる。研究者の中には、自分たちのニーズに特化した観測装置を開発することで、 TAOに貢献している人もいる。

「私たちのチームは、空の広い範囲を観測し、同時に2つの波長の光を観測できる装置、近赤外線多天体分光撮像装置(SWIMS)を開発しました。これにより、宇宙を構成する基本構造である多様な銀河の情報を効率よく収集することができます。SWIMSの観測データを解析することで、銀河の中心にある超巨大ブラックホールの進化を含め、銀河の形成に関する知見が得られるでしょう」と小西真広助教は語る。「新しい望遠鏡や観測装置は、当然天文学の発展に貢献します。次世代の天文学者がTAOや他の地上望遠鏡、宇宙望遠鏡を使い、現在の理解を覆すような思いがけない発見をしたり、説明のつかないことを説明したりすることを願っています」

TAOは比較的利用しやすいため、これまでの望遠鏡よりも多くの若い天文学者がTAOでの観測・研究ができるようになる。また、次世代望遠鏡であるTAOは、新進気鋭の研究者に、これまでにない方法で自分のアイデアを実現するチャンスを与えることとなる。

「わたしはさまざまな実験を通して、宇宙に存在する有機物の化学的性質について研究しています。天文観測で実際に宇宙にある有機物をよりよく観察できれば、地球での実験結果をより正確に再現することができます。TAOは、中間赤外域の有機ダストの観測に大いに役立ちます」と大学院生の妹尾梨子さんは話してくれた。「将来的にはTAOを遠隔で利用できるようになりますが、現地に赴き、わたしたちが開発を進めている装置である中間赤外線分光撮像装置(MIMIZUKU)の建設にも貢献したいと思っています。TAOは日常生活では決して訪れることのできない遠隔地にあるので、そこで過ごす時間をとても楽しみにしています」

時間の経過とともに、いまの天文学者も未来の天文学者も、TAOを使って画期的な観測をする方法をどんどん見つけていくだろう。遠隔操作、高感度観測装置、そしてもちろん低圧環境で動作する高精度望遠鏡の開発に成功した事実など、TAOの斬新な特徴が、あらゆる天文観測施設に貢献する設計者、エンジニア、研究者に情報とインスピレーションを与えることを、TAOプロジェクトメンバーは望んでいる。

チャナントール山山頂にある東京大学アタカマ天文台(TAO)。©2024 東京大学TAOプロジェクト

チャナントール山。TAOは標高5,640メートルのチャナントール山山頂にあり、大気中の水蒸気が少ないことから、ほかの天文台では観測が難しい赤外線も観測できる。©2024 東京大学TAOプロジェクト

東京大学アタカマ天文台(TAO)望遠鏡サイト完成披露式典。©2024 東京大学

リンク

東京大学アタカマ天文台TAO完成式典プレスリリース
東京大学アタカマ天文台(TAO)計画
東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター
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