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Press Releases

DATE2024.02.13 #Press Releases

大地の謎に迫る!土中に含まれる金属の秘密とは?

―分子スケールのシミュレーションと観測が解き明かす土の性質―

日本原子力研究開発機構

東京大学大学院理学系研究科

大阪大学放射線科学基盤機構

東京大学アイソトープ総合センター

発表概要

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範、以下「原子力機構」という。)システム計算科学センター シミュレーション技術開発室の山口瑛子研究員、奥村雅彦研究主幹、先端基礎研究センターの田中万也マネージャー、物質科学研究センターの矢板毅研究専門官、大阪大学放射線科学基盤機構の吉村崇教授、及び東京大学大学院理学系研究科/アイソトープ総合センター長の高橋嘉夫教授らの研究グループは、粘土鉱物が金属イオンを吸着する分子レベルのはたらきにおいて、水に溶けにくく、イオン半径が大きいイオンが粘土鉱物に強く吸着するという傾向を見出し、この傾向が天然環境の土壌中でも成り立つことを示しました。

放射性廃棄物の地層処分や放射性物質の除染のためには、金属イオンとして土の中に存在する放射性元素の振る舞いを解明する必要があります。金属イオンは、土の中に豊富に存在する粘土鉱物に吸着することが多いため、その動きを理解し予測するためには、金属イオンの粘土鉱物への吸着反応を理解する必要があります。原子力以外の分野でも、レアアース(希土類元素)をはじめとした多くの金属イオンが粘土鉱物に吸着することから、この現象は資源採掘や環境化学、農業、さらには宇宙化学においても重要です。

しかし、金属イオンと粘土鉱物の吸着反応は複雑です。例えば、レアアースを含む一部の金属イオンは粘土鉱物に吸着後、簡単に脱離する一方で、セシウムなどの金属イオンは粘土鉱物に一度吸着すると簡単には脱離しません。なぜこのように金属イオンの種類によって異なる現象が見られるのかは未解明でした。

この原因を解明するため、本研究では、放射光施設を用いた分子レベルの実験とスーパーコンピューターを用いた高精度なシミュレーションを組み合わせ、粘土鉱物に吸着した金属イオンの構造を分子レベルで解明しました。これらの結果、水に溶けにくく、イオン半径が大きいイオンを粘土鉱物が強く吸着するという傾向が明らかになりました。さらに、ボーリングにより採取した土壌試料を分析したところ、さまざまな金属イオンが、実験とシミュレーションから得られた傾向に沿って分布していることを確認しました。このことから、本研究で得られた傾向は、環境土壌中の金属イオンの動きの理解や推定に適用できます。

本研究により、放射性元素を含めた金属イオンの土の中での振る舞いを解明しました。また、地球上や、さらには地球以外の惑星における金属イオンの動きを理解するための重要な知見を得ました。特に本研究では、取り扱いが難しいために発見後100年以上も化学的性質が不明であった放射性元素のラジウムについても解明しました。ラジウムは、がん治療に有効なアクチニウムの原料として、近年世界中で着目されています。今回の発見により、イオン半径の大きなラジウムが粘土鉱物に強く吸着することがわかったため、今後、ラジウムを回収するための研究に役に立つと期待されます。さらに、放射性元素以外にもレアアースの効率的な鉱床探査、農業の効率化、太陽系惑星(火星やリュウグウなど)の環境の推定など、社会的に重要な課題の解決へ繋がることが期待されます。

本研究成果は、2月1日付(日本時間)で米国Elsevier社「Journal of Colloid and Interface Science誌」に掲載されました。


図:本研究の概要図

詳しくは、日本原子力研究開発機構 のホームページをご覧ください。

発表雑誌

雑誌名
Journal of Colloid and Interface Science
論文タイトル