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Press Releases

DATE2023.10.03 #Press Releases

太古の深海熱水噴出孔環境におけるアンモニアの濃集機構を実証

―アンモニアの選択的吸着の秘訣は鉄硫化物の電気還元にある―

海洋研究開発機構

東京大学大学院理学系研究科

発表概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門の高萩航研究生(現Rensselaer Polytechnic Instituteポストドクトラル研究員)、岡田賢研究員、高井研部門長、北台紀夫副主任研究員、地球環境部門の松井洋平准研究副主任、海域地震火山部門の小野重明センター長らは、東京大学大学院理学系研究科の高橋嘉夫教授との共同研究により、太古の深海熱水噴出孔環境にアンモニアが濃集するメカニズムを明らかにしました。

深海熱水噴出孔環境は生命が発生した場の有力候補の一つです。これまで実際の深海熱水噴出孔の環境を模擬した室内実験により、アミノ酸や核酸塩基などの生体分子が非生物的に生じていた可能性が示されてきました。しかし、これらの有機窒素化合物の生成には高濃度のアンモニアが必要となります。噴出孔周辺にアンモニアを供給する地球化学プロセスについてはいくつか提案がなされてきた(2019年6月21日既報)ものの、供給されたアンモニアがどのように保持・濃集されていたのかは不明でした。

今回、高萩研究生らの研究グループは、深海熱水噴出孔環境に普遍的に存在する鉄硫化物(マッキナワイト)を電気還元することで、ゼロ価の鉄原子(Fe0)からなる吸着サイトを層構造中に生じさせ、アンモニアの吸着能を劇的に向上させられることを実証しました(図)。マッキナワイトのFe0への還元(FeS + 2H+ + 2e- → Fe0 + H2S)は、-0.6 V(対標準水素電極電位)以下において進行し、48時間の実験では、太古の海水を模した水溶液(1 mol L–1 NaCl, 中性pH)から最大90%以上のアンモニアの吸着が達成されました(初期濃度1 mmol L–1)。

今回明らかとなったアンモニアの濃集に有利な電位条件(-0.6 V以下)は、現存する熱水噴出孔環境でも観測されている、地球上で十分実現可能な条件です。加えて、太古の海洋底には、海底下の活発な岩石-熱水反応に起因して、高濃度の水素を含む還元的な(電位の低い)熱水が普遍的に噴出していました(図)。先行研究で示された、硝酸・亜硝酸からのアンモニアの生成や、アミノ化に対するマッキナワイトの反応促進能を加味すると、太古の深海熱水噴出孔環境は、その場に生じるありふれた自然現象の結果として、アンモニアの生成・濃集・同化に適した場であったと考えられます。


図:本研究で見出された、太古の深海熱水噴出孔環境に生じたアンモニアが噴出孔近傍の沈殿物(マッキナワイト)に取り込まれ濃集していくプロセス。マッキナワイトは深海熱水噴出孔環境に普遍的な鉱物であり、熱水中に含まれる硫化水素と海水中に含まれる鉄イオンが反応することで生じる(Fe2+ + H2S → FeS + 2H+)。噴出孔近傍には、熱水中の還元性物質の酸化(例えばH2 → 2H+ + 2e-)に由来する負電位が定常的に印加されており、ここにマッキナワイトが沈殿することで、層構造中の鉄イオンがゼロ価へと電気還元される(右上図)。生じたゼロ価の鉄原子はアンモニアの吸着サイトとして機能し、濃い塩水中(1mol/L NaCl)であっても、アンモニアを選択的に吸着できる。マッキナワイトの電気還元は-0.6V以下において進行する。この電位はアルカリ性熱水中におけるH2のH+への酸化によって達成できるが(右下図)、このような水質を持つ熱水は、太古の海洋底に幅広く噴出していたと考えられている。

本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金19K04048、19K15379、20H00209、21H04527、22H05149、22K03801及び23K13211の支援を受け実施されました。本成果は「Proceedings of the National Academy of Science」に10月3日付け(日本時間)で掲載されました。

詳しくは、海洋研究開発機構 のホームページをご覧ください。

発表雑誌

雑誌名
Proceedings of the National Academy of Science
論文タイトル
Extreme accumulation of ammonia on electroreduced mackinawite: An abiotic ammonia storage mechanism in early ocean hydrothermal systems