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プレスリリース

DATE2022.12.13 #プレスリリース

シロチョウの幼虫は2つの食草解毒タンパク質を使い分けて幅広い食草に適応する

 

マックス・プランク化学生態学研究所

東京大学大学院理学系研究科

ストックホルム大学

 

発表概要

シロチョウの幼虫が腸内で2つの異なる食草解毒タンパク質を発現し、それらを食草に含まれる毒性物質に応じて使い分けることで、より幅広い食草に適応していることがゲノム編集技術を用いた研究によって分かりました。これは植食性昆虫の食草適応機構を理解するうえで重要な成果です。

一般に植食性昆虫はどんな植物でも食べられるわけではなく、決まった植物だけを餌として利用することができます。これは植物がさまざまな化学物質で身を守っており、昆虫は自らが解毒できる植物だけを餌(食草)として利用できるからです。このような植物の防御と植食性昆虫の適応機構は、長い時間をかけて共進化しながら多様化してきたと考えられており、多様性生物学において注目を集めています。

シロチョウの幼虫は、グルコシノレートと呼ばれる物質を多量に含むアブラナ科草本を主な食草として利用します。グルコシノレートはアブラナ科草本の葉に多く存在し、食害を受けると、同じく葉に蓄積しているミロシナーゼという酵素によって強い毒性を持った物質に分解されます。これに対してシロチョウはnitrile-specifier protein (NSP)というタンパク質をもち、これがグルコシノレートの毒性物質への分解を阻害し無毒化することが知られていました。しかしながら、グルコシノレートはこれまで約130種類以上が知られるほど多様であり、シロチョウが実際にNSPのみでこれらの多様なグルコシノレートを解毒できているのかは不明でした。

ドイツのマックスプランク化学生態学研究所の岡村悠特別研究員(現東京大学特別研究員)とストックホルム大学を中心とする国際研究チームはCRISPR-Cas9によるゲノム編集技術を用いて、オオモンシロチョウの幼虫がNSPだけでなく、その姉妹遺伝子であり解毒能をもたないとされていたmajor-allergen (MA)遺伝子も用いることで、食草に含まれるグルコシノレートを解毒していることを発見しました。加えて、NSPとMAはそれぞれ異なる種類のグルコシノレートの解毒を担っており、オオモンシロチョウの幼虫はこれら2つの解毒遺伝子を食草に含まれるグルコシノレートの組成に応じて使い分けることで、より幅広い食草に適応していることを発見しました。

これらの結果は、シロチョウの幼虫が食草に含まれるグルコシノレート組成を敏感に検出し、その組成に応じて2つの解毒遺伝子の発現量を正確に調節する複雑な機構によりアブラナ科草本に適応していることを示しています。この成果は、植物と昆虫との間の複雑な防御―適応の相互作用は、単なる植物の化学防御と昆虫の解毒機構によってのみ説明できるわけでなく、解毒機構の最適な制御と活性化が重要であることを示しており、植食性昆虫の進化的な成功を説明するものです。

この研究成果は、2022年12月12日(米国東部時間)の週に米国の学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(米国科学アカデミー紀要)にオンライン掲載されました。

 

図:(A)オオモンシロチョウの成虫と食草(ノウゼンハレン)を食べる幼虫(B)シロチョウはnitrile-specifier protein (NSP)とmajor-allergen(MA)という遺伝子を用いて餌(食草)であるアブラナ科草本のもつグルコシノレート防御を無毒化している。葉が食害を受けると、グルコシノレートはミロシナーゼによって毒性のあるイソチオシアネートに変換されるが、NSPとMAの存在下ではほぼ無毒なニトリルに変換される。NSPとMAを両方欠損したシロチョウの変異体はグルコシノレートを解毒できずに野生のアブラナ科草本では成長できなくなる(グルコシノレートを含まないシロイヌナズナの変異体では成長できる)。(C)シロチョウの幼虫はNSPとMAを食草のグルコシノレート組成に応じて使い分ける。NSPかMAの片方を欠損すると、一部の食草で成長量が極端に低下する。

 

詳細については、マックス・プランク化学生態学研究所(英文) のホームページをご覧ください。