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プレスリリース

DATE2022.08.29 #プレスリリース

トポロジカル結晶絶縁体への強磁性の染み出しを初めて観測

超省エネデバイス実現

 

筑波大学

東京大学大学院理学系研究科

総合科学研究機構

概要

トポロジカル絶縁体は、結晶の内部は絶縁体であるのに対して、表面は電気を流す金属としての性質を有する物質です。その表面では、スピンのそろった電子が散乱を受けずに高速で運動する特異な状態にあることから、超省エネルギーデバイスなどへの応用が期待されています。本研究では、トポロジカル結晶絶縁体であるSnTe(テルル化錫)と身近な鉄とを接合した試料において、両者の境界面で鉄の強磁性の性質がSnTe側に「染み出す」ことにより、SnTe表面で電子のスピンがそろった強磁性の状態になっていることを中性子を用いた観測(偏極中性子反射率測定)で明らかにしました。

トポロジカル絶縁体の中でも比較的新しい種類であるトポロジカル結晶絶縁体において、強磁性の染み出しが観測されたのは初めてであり、本来、磁石の性質を持たないトポロジカル結晶絶縁体の表面の電子に磁石の性質が付与されていることが確認されました。本研究では、磁石である鉄とトポロジカル結晶絶縁体との層を空間的に分離して、磁石の性質だけをトポロジカル表面に染み出させることができ、その染み出しによる強磁性は室温でも残っていることが確認されました。これにより、量子異常ホール効果や磁気スキルミオンなどの新奇物性の、これまでより高い温度での実現に向けた道が拓かれ、超低消費電力デバイスや超微細な磁気メモリなどへの応用が期待されます。

本研究成果は、「The Journal of Physical Chemistry Letters」に2022年8月29日に掲載されました。

 

 

図:鉄(Fe)とSnTeの接合の模式図と、境界面付近で生じる磁化分布の様子。中性子が結晶中の原子核で反射される場合と磁気モーメント(磁石の性質)で反射される場合の反射強度から求めた構造と磁化の分布の深さ依存性を示す。測定温度は2.4K(マイナス271℃)。黄色と緑色の曲線の差(黒色の曲線)が強磁性のSnTe層内部への染み出しを表しており、上図では染み出しのある領域を赤色で示している。赤色の領域にある矢印は界面磁化の大きさを模式的に示したもので、本来磁化を持たないSnTe層に強磁性が染み出していることを表す。

 

なお、本研究には物理学専攻の秋山了太 助教および長谷川修司 教授が参加しています。

 

詳細については、筑波大学 のホームページをご覧ください。