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プレスリリース

DATE2022.08.09 #プレスリリース

広視野動画撮影でとらえた赤色矮星たちの短時間閃光現象

 

逢澤 正嵩(上海交通大学李政道研究所 博士研究員)

樫山 和己(東北大学 准教授)

直川 史寛(物理学専攻 修士課程)

大澤 亮(天文学教育研究センター 特任助教/現:国立天文台 助教)

酒向 重行(天文学教育研究センター 准教授)

 

発表のポイント

  • 約5700個の赤色矮星に対し東京大学木曽観測所トモエゴゼンを用いて秒刻みの高速観測を実施し、数10秒の短時間に増光するフレアを22件検出した。
  • 短時間に増光する強力なフレアが活動的な赤色矮星において平均で1日に1回程度発生することを示した。
  • 今回検出されたような短時間に増光する強力なフレアは、赤色矮星まわりの系外惑星における生命居住可能性の議論にも影響を及ぼしうる。

 

発表概要

上海交通大学李政道研究所の逢澤正嵩博士研究員、東北大学の樫山和己准教授、東京大学大学院理学系研究科の直川史寛大学院生、大澤亮特任助教(研究当時)、酒向重行准教授らの研究グループは、約5700個の赤色矮星(注1)に対し、東京大学木曽シュミット105cm望遠鏡に搭載されたカメラ「トモエゴゼン(注2)」の広視野動画撮影機能を活かした、秒刻みの高速モニター観測を実施しました。その結果、これまで観測が困難であった赤色矮星からの数10秒以下の短時間に激しく増光するフレア(例えば10秒の間に星の明るさがおよそ2倍になるような現象)を合計22件検出しました(増光時間の最短は6秒)。

研究グループは今回の高速観測でフレアの光度変動を詳細に捉えることに成功し、恒星フレアは星表面の磁場によるエネルギーの解放により駆動されるという従来のシナリオと観測が矛盾ないことを示しました。また、今回検出したような短時間フレアが活動的な赤色矮星において1日あたり平均で1回程度発生することを突き止めました。これは、短時間の強力なフレアが赤色矮星で日常的に発生することを示唆し、赤色矮星まわりの系外惑星における生命居住可能性の議論にも影響を及ぼしえます。今後もトモエゴゼンの広視野かつ高い時間分解能を有するという強みを活かして、様々な種類の恒星や若い星をターゲットにしたモニター観測を実施することにより、短時間フレアの発生メカニズムのさらなる解明に迫る予定です。

 

発表内容

恒星フレアとは恒星表面で発生する突発的な爆発現象です。恒星フレアは太陽でも頻繁に発生しており、特に大きなエネルギーを持つ太陽フレアは電波障害や停電を引き起こすなど我々の生活にも密接に関わる現象です。恒星フレアは発生するタイミングや強度などを前もって予想することが難しいことから、これまでその瞬間をとらえることが困難でしたが、ケプラー宇宙望遠鏡やTESS宇宙望遠鏡を初めとする大規模なサーベイ観測により、多数の恒星フレアが検出され、恒星フレアの発生メカニズムの理解は劇的に進展しました。

2021年に、ハビタブルゾーン(注3)内に惑星を持つ赤色矮星プロキシマ・ケンタウリから数秒間に紫外域や電波の波長で急激な増光を示す短時間フレアが検出され、そのフレアの発生メカニズムや惑星に与える影響などに大きな注目が集まっています。ただ、ケプラー宇宙望遠鏡などのこれまでのサーベイ観測では数10秒から数10分程度刻みの動画しか取得できなかったため、数秒から数10秒の短期間に劇的に増光するフレアの検出は困難でした。そのため、短時間フレアが普遍的な現象なのか、また最大でどれだけのエネルギーを放出するのかなど基本的な特性ですら未解明でした。

そこで、我々の研究グループは、秒刻みで広視野の動画撮像が可能なトモエゴゼンの性能を恒星フレアの探索に活かせることに着想し、赤色矮星からの短時間フレアの探索を実施しました。トモエゴゼンはおおよそ数100個の赤色矮星を一度に観測することができるため、短時間に発生するフレアを効率的に探索できます。そこで本研究では2019年から2020年にトモエゴゼンで取得したデータのうち、フレア探索に適した40時間分の観測データを解析し、総計約5700個の赤色矮星の明るさの短時間変動を調べました。結果、22件の短時間かつ強力なフレアの検出に成功しました(図1)。

 

図1:赤色矮星の表面で発生した短時間フレアの想像図。(Image credit: 東京大学木曽観測所)

 

本研究で検出されたフレアは数秒から数10秒の短時間のうちに通常時の明るさに比べ数割から最大で20倍程度の増光を示しました(図2)。これらは、これまでに検出された赤色矮星が起こす恒星フレアの中で最も短時間の増光現象であり、非常に強力な磁場によるエネルギー解放が発生していることが示唆されます(図3)。また、研究グループは他の望遠鏡で取得されたデータを用いて、今回フレアを検出した赤色矮星のスペクトルや回転周期を調べました。

図2:検出した赤色矮星のフレアの光度変動の例。約10秒間に星の明るさが2倍程度にまで増光している。上列には光度曲線の時刻に対応して、10秒露光に相当する画像(24秒角×24秒角の視野に対応)を約28秒間隔で示しており、フレアの瞬間に画像上でも増光していることが分かる。

  

図3:赤色矮星のフレアの増光時間とエネルギーの関係(ergはエネルギーの単位)。トモエゴゼンによって検出された恒星フレア(薄青点)と、TESS宇宙望遠鏡によって検出された恒星フレア(オレンジ点)を示す。赤線は1000ガウスの磁場を仮定した時のフレアの時間スケールとエネルギーの間の理論的に予想される関係。

 

結果、分光データが存在する11天体中10天体のスペクトルに強い活動性を示す輝線が存在することを確認しました。このことは今回検出された短時間フレアが活動的な恒星にて発生しやすいことを示唆しています。検出された短時間フレアの全てが活動的な恒星で発生すると仮定すると、おおよそ1日に1回程度の頻度で今回検出されたような短時間フレアが発生している見積もりになり、このことは短時間フレアが活動的な赤色矮星で日常的に発生している可能性を示唆します。

一般に恒星フレアは急激な増光を示したのち、すみやかに減光に転じ、最終的になだらかな減光を示します。今回トモエゴゼンによる高速観測によって、この一連の光度変化が詳細に明らかになりました(図4)。特に減光の時間長さが増光の時間長さに比べて長く、最大で約10倍程度の違いがあることを示しました。我々はこの短時間フレアの一連の光度変動を説明するため、磁気リコネクション(注4)による大量のエネルギー解放によって恒星大気が強烈に熱せられそこから光が漏れでてくるというシナリオを提案し、このシナリオと観測された光度変動と矛盾がないことを示しました。

図4:本研究で検出された22件の恒星フレアの光度変動。横軸は時間、縦軸は星の相対的な明るさの変動を示す。図中の青線は30秒の長さの幅に対応。

 

本研究では、秒刻みの高速観測によってこれまで検出が困難であった短時間かつ強力なフレアを検出することができました。今回検出されたような短時間で増光する強力なフレアは高エネルギー粒子や紫外線などを伴う可能性もあり、系外惑星における生命居住性の議論にも影響を及ぼし得ると考えられます。今後は、トモエゴゼンによって赤色矮星とは異なる種類の恒星や若い恒星などを調べることで、フレアを始めとする未知なる秒変動を引き続き探索していく予定です。

本研究は科学研究費助成事業(課題番号: JP16H06341、JP17H06363、JP18H05223、JP18H01261、JP20K04010、JP20K14512、JP20H01904、JP21H04491)、光・赤外線天文学大学間連携事業の支援を受けました。

 

発表雑誌

雑誌名
Publications of the Astronomical Society of Japan
論文タイトル Fast optical flares from M dwarfs detected by a one-second-cadence survey with Tomo-e Gozen
著者
Masataka Aizawa*, Kojiro Kawana, Kazumi Kashiyama, Ryou Ohsawa, Hajime Kawahara, Fumihiro Naokawa, Tomoyuki Tajiri, Noriaki Arima, Hanchun Jiang, Tilman Hartwig, Kotaro Fujisawa, Toshikazu Shigeyama, Ko Arimatsu, Mamoru Doi, Toshihiro Kasuga, Naoto Kobayashi, Sohei Kondo, Yuki Mori, Shin-ichiro Okumura, Satoshi Takita, Shigeyuki Sako
DOI番号 https://doi.org/10.1093/pasj/psac056
論文URL

 

用語解説

注1 赤色矮星

赤色矮星とは恒星の中でも最も低温なグループの星のことをいいます。半径および質量も太陽の数10%程度であり、典型的な表面温度も4000K以下と太陽に比べて低温です。赤色矮星は太陽に距離的に最も近い恒星「プロキシマ・ケンタウリ」を始めとして数多く存在し、太陽近傍で最もありふれた恒星だと考えられています。 

 

注2 広視野動画カメラTomo-e Gozen(トモエゴゼン)

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Image credit: 東京大学木曽観測所

東京大学木曽観測所(長野県木曽郡)の口径105cmシュミット望遠鏡用に東京大学が中心となり開発した世界初の可視光広視野動画カメラです。東京大学が中心となり開発がされ、合計84台のCMOSイメージセンサーによって、空の広い範囲の空を、高い時間分解能でモニターすることができます。(Image credit: 東京大学木曽観測所)https://tomoe.mtk.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/ja/

 

注3 ハビタブルゾーン

恒星の周辺で地球のように十分な大気圧を持つ惑星が液体の水を持つことができる領域のことを指します。基本的には恒星付近で地球が太陽からうける放射エネルギーと同程度の放射エネルギーを受ける領域のことを指します。

 

注4 磁気リコネクション

磁気リコネクションとは恒星表面の磁力線のつなぎ変えのことをさし、つなぎ変えの際に生じる余剰な磁場エネルギーが電子の運動エネルギーなどに転化しフレアが駆動すると考えられています。実際に太陽フレアの観測においては磁気リコネクションによってフレアが駆動されるという説が観測的に支持されており、恒星フレアにおいても同様の機構でフレアが生じると考えられています。