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お知らせ

DATE2021.06.10 #お知らせ

量子コンピューター・ハードウェア・テストセンター開設

 

量子システム・テストベッド設置はIBMとして日本で初めての試み

 

 

概要

東京大学とIBMは、将来の量子コンピューター技術の研究・開発を行うハードウェア・テストセンター「The University of Tokyo – IBM Quantum Hardware Test Center」を東京大学 浅野キャンパス内に開設し、同センターに量子コンピューターのコンポーネントの試験用に構築したより大規模な量子コンピューターの動作環境を再現するプラットフォームである量子システム・テストベッドを設置したことを発表します。
IBMとして日本で初めての量子システム・テストベッドを東京大学に設置し、日本における産学連携による将来の量子コンピューター開発の加速をめざしています。

プレスリリースの詳細については、東京大学 のホームページをご覧ください。

東京大学に設置した量子システム・テストベッド 

 


 

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設置された量子システム・テストベッドを説明する 福山 寛 名誉教授(左)と、相原 博昭 理事・副学長(右)

東京大学浅野キャンパス内に設置された量子システム・テストベッドでは、福山寛東京大学名誉教授(物理)が、IBMとともに、設計・搬入から設置にいたるまで特に重要な役割を担われました。

「今回導入された超伝導量子ビット型量子コンピュータのベースとなる設備は、10ミリケルビン(絶対零度まで1/100ケルビン)の極低温環境を作り出すヘリウム3−ヘリウム4希釈冷凍機です。一番苦労したのは、COVID-19パンデミックのためIBM社も東京大学も強い活動制限がある中、わずか7ヶ月間という大変短い期間で、(1)実験室スペースの選定と確保、(2)実験室内や付帯設備の基本設計、 そして(3)本設計・施工までを終えなければならなかったことでした。特に今回は、使用目的が量子コンピュータという未体験のものであり、パンデミックによる制約のため必ずしもタイムリーな打ち合わせができない中、半ば見切り発車的に多くのことを自主判断して進めざるを得ませんでした。このような困難をひとつ一つクリアして、正式に運用を開始したハードウェア・テストセンターですが、IBM社そして東京大学どちらにもご満足いただけたようで安堵しています。近い将来、ここから日本発の研究成果が世界に発信されることを心より期待しています。なお(1)(3)を進める上で、理学系研究科とオリエンタル技研工業株式会社から多大なご協力をいただきました。これがなければ運用開始は間違いなく半年以上は遅れていたと思います。」と福山名誉教授は語ります。

本テストセンターの開設は、2019年12月にIBMと東京大学で発表した「Japan–IBM Quantum Partnership」に基づくもので、本パートナーシップの3つの主要な部分の1つです。これに伴い、低温科学研究センターへもIBMのテストベッドとも関連する装置が設置され、今後の学生教育や研究活動への活用が期待されています。

IBMテストベッドは、実用化に向けて先行する超伝導量子ビット型の量子コンピュータ技術に半ば特化した量子計算「実機」を使っての技術開発に主眼があると思います。実施される共同研究テーマも勢い厳選されたものになるでしょう。世界の量子コンピュータ実用化競争の中でピークを目指す方向性だと思います。一方、政府の補助金で低温科学研究センターに同時期に導入された希釈冷凍システムと極低温マイクロ波実験用エレクトロニクスは、直接、量子計算を行うためのものではありませんが、将来の量子ビットの候補となる量子系や量子物質の基礎研究とか、量子ビットのコヒーレンス時間の伸長やより高速の情報伝達方式や各種量子センサの開発など、広い意味での量子技術イノベーションにつながるアイディアを検証実験することができます。企業まで含めて基本的に誰でも共同利用でき、学生諸君も指導教員を通じて申し込むことで実験できます。東京大学量子イニシアティブにおける「ハードウェア道場」を目指していると言ったら良いでしょうか。ここで原理を検証できた新技術は、次の段階としてIBMテストベッドを使った実用化実験に進むことも期待しています。」

パートナーシップの他の部分には、量子理論に関するIBMと東京大学の共同研究、ソフトウェア開発、および教育が含まれ、量子コンピューターの研究・開発を進めるための日本の産学連携プログラムと位置付けられています。

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福山 寛 名誉教授

「私自身、量子計算に直接関係する研究をこれまで行った経験がなかったのですが、量子状態のエンタングルメント(もつれ合い)とかコヒーレンス(空間的、時間的保持)といった量子力学の基礎概念を、量子計算として実際に役立たせるまでテクノロジーが進歩したことに感嘆しています。表面微細加工などそうしたテクノロジーの一端を日々の研究で使っている諸君もかなりいると思います。21世紀の基礎研究は応用研究とほとんど縮退しているのかも知れません。しかし、それもこれも地道な基礎研究の積み上げの賜であることを決して忘れてはなりません。逆説的なようですが、ぜひ自信をもってご自分の基礎研究に邁進して下さい。しっかりした基礎があれば応用はさほど困難ではなく、そのスイッチングを能動的に行う人もいれば、就職や定年退職などの機会を捉えて行う人もいるでしょう。いずれにしても、東京大学は、思い立てばすぐそこに量子イノベーションへの扉が用意されている恵まれた環境であることだけは確かです。」

福山名誉教授からのメッセージを胸に、理学系研究科・理学部では、量子コンピューターの新しい技術開発と若手人材の育成を進めてまいります。