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お知らせ

DATE2026.01.14 #お知らせ

古代ゲノム解析が解き明かす弥生人の遺伝的多様性

―西北九州弥生人のゲノムが示す縄文人と渡来人の遺伝的交流の痕跡―

発表概要

弥生時代以降、水稲耕作技術を伴って大陸から日本列島に渡来した人々が、在来の縄文人と混血することで、現代日本人の基礎となる集団が形成されました。この日本人集団の形成過程を理解する上で、弥生時代の日本列島人、とりわけ渡来人の流入が想定されてきた九州北部の弥生時代人を対象としたゲノム解析は、極めて重要です。これまでの形態学的研究により、福岡県の弥生時代人(北部九州弥生人)や山口県の弥生時代人が高身長・高顔(面長)の特徴を示す一方で、長崎県の弥生時代人(西北九州弥生人)は低身長・低顔であり、形態学的に縄文人とよく似ていることが指摘されてきました。しかし、西北九州弥生人が縄文人と形態的に類似している理由については、遺伝的に縄文人に近いことによるものなのか(すなわち、九州西北部では混血がほとんど進行していなかったのか)、あるいは縄文人に類似した形態をもつ渡来人の子孫であるためなのか(すなわち、西北九州弥生人の祖先は、北部九州弥生人や山口県の弥生時代人の祖先とは異なる地域に由来するのか)について、これまで十分に解明されていませんでした。

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻のキム・ジョンヒョン大学院生(博士課程2年生)、大橋順教授、東邦大学医学部の水野文月講師らの研究グループは、長崎県の正村遺跡および根獅子遺跡から出土した約2,300~2,500年前の西北九州弥生人4個体について、核ゲノム配列の解析を行いました。その結果、4個体のうち2個体は縄文人とほぼ同一のゲノム成分を保持していること、また残る2個体は縄文人由来および渡来人由来の双方のゲノム成分を有していることが明らかになりました。

これらの結果から、西北九州弥生人が形態学的に縄文人と類似している理由は、遺伝的にも縄文人に近い個体が含まれているためであることが示されました。さらに本研究により、長崎県に流入した渡来人は、山口県の弥生時代人と同様に朝鮮半島に起源をもつ可能性が高いこと、ならびにこの地域においては、渡来人と縄文人との遺伝的交流が少なくとも約2,500~2,600年前にはすでに始まっていたことが明らかになりました。加えて、西北九州弥生人は、沖縄県宮古島の長墓遺跡から出土した約2,800年前の個体と遺伝的に近縁であることも示されました。これらの成果は、弥生時代における渡来人の流入時期の地域差や、日本列島内における遺伝的交流の進行過程を理解する上で、重要な知見を提供するものと期待されます。

本成果は、2026年1月7日11:00(英国時間)に科学誌Scientific Reportsにオンライン掲載されました。

なお本成果は、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻の中伊津美特任助教、植田信太郎名誉教授、土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアムの松下孝幸館長、松下真実学芸員、東邦大学医学部の黒崎久仁彦教授、山形大学高感度加速器質量分析センターの門叶冬樹教授との共同研究によるものです。


図:ゲノムデータから推定した、縄文人由来成分と渡来人由来成分の割合。 集団混合モデルを用いて核ゲノムデータを解析し、縄文人に由来する遺伝的成分と、渡来人に由来する遺伝的成分の含有割合を推定した。純粋な渡来人に対応する古代ゲノムデータは現存しないため、本解析では、現代韓国人のゲノムデータを、渡来人に由来する遺伝的成分の代表例(比較基準)として用いた。なお、本図には、縄文人とほぼ同一のゲノム成分をもつ西北九州弥生人2個体は含まれていない。

関連リンク

東邦大学土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアム山形大学高感度加速器質量分析センター

論文情報

雑誌
Scientific Reports
論文タイトル

Ancient genomes reveal early-stage admixture and genetic diversity in the Northwestern Kyushu Yayoi