球状星団の中に中間質量ブラックホールは存在する!?
藤井 通子(天文学専攻 准教授)
球状星団は昔から知られている星団である一方,その形成過程は未だ謎に包まれている。 最先端の数値シミュレーションによって,星の母体となる分子雲から 球状星団が生まれる様子が再現できるようになった。 形成途中の球状星団の中で,星同士の合体により 超大質量星と呼ばれる太陽の1万倍もの質量を持つ星が生まれる。 このような星は最終的に中間質量ブラックホールとなると考えられるため, 今回のシミュレーションは球状星団の中心に 中間質量ブラックホールが存在するという観測を強く支持している。
ブラックホールがこの宇宙に存在することは,これまでのさまざまな観測によって確認されてきている。しかし,その観測にも確度の高いものから低いものまであり,恒星質量ブラックホール(太陽の質量の100倍以下)や巨大ブラックホール(銀河の中心にあり太陽の質量の10万倍以上)には確度の高い観測的証拠がある。それらの中間である中間質量ブラックホールの中でも,太陽の数百倍から1万倍程度の質量のものについては,誰もが認めるような観測的証拠がなく,その有無や形成過程については長年議論が重ねられている。そのような中間質量ブラックホールが存在する場所の候補とされている天体に「球状星団」がある。球状星団は数百万個の星が球状に分布し,互いの重力で束縛されている天体であり,その中心に中間質量ブラックホールの存在を示唆する観測がこれまでに複数報告されている。

左下の青白い点一つ一つが星団の星を表し,その周りの「もや」は星間ガスを表す。色は温度を表しており,暗い部分が温度の低い星間ガス(分子雲),明るい部分が温度の高い星間ガスを表す。クレジット:藤井通子(東京大学),武田隆顕(ヴェイサエンターテイメント株式会社)
球状星団での中間質量ブラックホール形成は,天体同士の衝突合体が有力な説の一つである。これまで数々の数値シミュレーションによって,球状星団中での中間質量ブラックホールの形成過程が研究されてきた。しかし,星団内でブラックホール同士の合体が繰り返し起こるが,太陽質量の500倍を超える前に,合体時の非等方な重力波放出によって星団外へ飛び去ってしまう,もしくは,星同士が合体するが,強い星風(星から吹き出すガスの流れで大質量星ほど強い)によって星は質量を失い,恒星質量ブラックホールになってしまう,という結果となり,太陽の数千倍の中間質量ブラックホールの形成には否定的であった。これらのシミュレーションがすでに出来上がった星団に対して行われているのに対し,今回初めて,星々の母体となる分子雲内で星が次々と生まれて星団となる過程を,星同士の衝突合体も含めてシミュレーションした。すると,形成途中の星団の中で星が次々と合体し,最終的に太陽の1万倍程度の質量を持つ超大質量星が形成された。星の進化の理論に基づいた計算によると,このような超大質量星は最終的に太陽の3〜4千倍の質量を持つ中間質量ブラックホールになると考えられる。シミュレーションで得られた星団とその中で形成されるブラックホール質量の関係は,観測から推定されている球状星団の質量とブラックホールの質量の関係と一致しており,球状星団の形成シミュレーションは,球状星団中に中間質量ブラックホールが存在することを理論的に示唆している。今後,球状星団のより詳細な観測が進むことで,球状星団の中心に中間質量ブラックホールが存在するかどうかが確認されていくであろう。
本研究成果はM. Fujii et al., Science, 384, 1488(2024)に掲載された。