2022/07/13

即時動画観測がとらえた地球接近小惑星の高速自転

 

紅山 仁(天文学専攻 博士課程)

酒向 重行(天文学教育研究センター 准教授)

大澤 亮(天文学教育研究センター 特任助教)

 

発表のポイント

  • 地球近傍を通過する直径100 m以下の微小小惑星60天体に対して毎秒2フレームの動画観測を実施し、32天体の自転周期の推定に成功した。この観測により微小小惑星の自転周期に上限が存在することを発見した。
  • 発見直後の小惑星に対して即時に動画観測を行うことで高速自転に伴う短時間の光度変動を捉えることに成功した。
  • 小惑星がいかにして地球近傍にやってくるのかという力学進化の解明につながると期待できる。

 

発表概要

東京大学大学院理学系研究科天文学専攻紅山仁大学院生、同附属天文学教育研究センター酒向重行准教授、大澤亮特任助教らの研究グループは、東京大学木曽シュミット望遠鏡に搭載された可視光動画カメラトモエゴゼン(注1)を用いて、直径100 m以下の微小小惑星60天体に対する毎秒2フレームの動画観測を行い、そのうち32天体の自転周期の推定に成功しました。太陽光を反射することで光って見える微小小惑星は、地球に接近して明るく見える数時間から数日の短い期間にのみ高精度な観測が可能です。また、小惑星の多くは球形で無いため、小惑星の自転にともない太陽光を反射する面積が変化するのと同期して明るさが変動します。研究グループは発見直後の微小小惑星に対して、トモエゴゼンを用いて即時に動画観測を実施し、明るさの時間変化をとらえることで小惑星の自転周期の推定に成功しました。そのうち13天体は60秒以下の周期で高速に自転していました。

この観測により研究グループは微小小惑星の自転周期に上限(10)が存在することを発見するとともに、その上限の存在を説明する力学モデルを提唱しました。本研究は地球に接近する小惑星がいかにして地球近傍にやってくるのかという力学進化の解明につながると期待できます。

 

発表内容

近年、世界中の掃天観測プロジェクトによって地球に接近する軌道を持つ小惑星が多数発見されています。地球に接近する小惑星は探査機がアクセスしやすいという利点をもちます。また人類に被害を及ぼしうる小惑星から地球を守るという観点からも重要な観測対象です。地球近傍の小惑星の多くは、火星-木星間の小惑星帯から長い時間をかけて地球近傍へ軌道進化した天体であると考えられています。小惑星は地球などの惑星と同様に自転運動しています(1)。またその自転周期は太陽輻射に起因するヨープ効果(注2)によって変化することが知られています。ヨープ効果は直径が小さい天体に対してより強く作用することがわかっています。ヨープ効果により自転が加速された小惑星はその物質強度が許容する臨界自転周期に達すると遠心力による破壊が起こる可能性があります。もし明確な臨界自転周期があれば、微小天体の自転周期分布から微小天体の物質強度がわかります。しかし微小小惑星の自転周期を測定することが困難なため、強度で決まる臨界自転周期が存在するのか、そもそも微小小惑星の自転周期分布がヨープ効果の予測にしたがうのかなど分かっていないことが多くあります。


図1:地球近傍を通過する高速自転する小惑星の想像図(Image credit: 東京大学木曽観測所)

 

地球に近づくタイミングに微小小惑星を複数回観測し、明るさの時間変化を調べることで微小小惑星の自転周期を推定することができます。これは観測者から見た小惑星の見かけの大きさが自転に伴って変動するからです。世界には大型望遠鏡を用いて微小小惑星の自転周期を観測している研究グループが複数存在しますが、いずれも長時間露光の観測をおこなっているため、小惑星の明るさが平坦化されてしまい、高速自転による光度変動を見逃している可能性があります。また、地球に接近する軌道をもつ小惑星は地球接近時に見かけ上明るくなります。地球–月間距離の3倍以内まで接近するような微小小惑星は最接近時の数時間から数日の間しか観測できません。これらの観測的困難性から、追跡観測により自転周期が求められた微小小惑星は少数に限られます。微小小惑星の自転周期を推定するためには、小惑星発見直後に即時に高い時間分解能で追跡観測することが必要です。

 


図2:小惑星2022 UQ6の観測画像。視野は1分角×1分角。

 


図3:小惑星2022 UQ6の明るさの時間変化(発表雑誌を元に作成)

 

本研究グループは、長野県にある可視光動画カメラトモエゴゼンを用い、研究グループが自ら発見した小惑星23天体(注3)を含む合計60天体の微小小惑星の観測を実施しました。発見直後の小惑星を数時間から数日以内に即時に追跡観測することで、微小小惑星の観測可能時間の困難性を克服しました。観測した小惑星の多くは地球–月間距離の3倍以内の極めて地球に近い領域を通過する天体でした。図2、図3は本研究で観測した微小小惑星 2020 UQ6 の観測画像と明るさの時間変化です。高速自転に伴う光度変動が確認できます。1天体あたりおよそ20分間、毎秒2フレームの動画観測を行い、32天体の自転周期の推定に成功しました(4)。うち13天体は60秒以下の周期で高速に自転していました。しかし、ヨープ効果を考慮すると直径10m以下の小さな小惑星は自転周期10秒以下にまで回転が加速されるはずです。本観測で発見された自転周期10秒以下の小惑星は1天体のみであり、自転周期10秒以下にまで加速するとするヨープ効果の予測とは非整合的でした。研究グループは観測で得た自転周期分布を説明しうる仮説の検証を重ね、近年提唱された小惑星の表面に沿う方向の熱伝導を考慮したヨープ効果(接線ヨープ効果、(注4))により観測結果を説明できることを示しました。図4の破線は接線ヨープ効果を考えた際に期待される小惑星の自転周期で、本観測結果をよく説明できています。


図4:これまでの小惑星の観測で得られたサイズと自転周期の関係。赤の〇印は本研究の観測結果、青の×印は先行研究の観測結果。破線は接線ヨープ効果を考慮した際に予測される地球接近小惑星の自転周期分布の上限。一点鎖線は従来のヨープ効果のみを考慮した際に予測される地球接近小惑星の自転周期分布の上限。先行研究の観測結果はWarner et al. (2009, Icarus, 202, 134) のThe Asteroid Lightcurve Databaseを参照した(発表雑誌を元に作成)。

 

本研究では従来観測が困難であった微小小惑星に着目し、発見直後に即時に動画観測することでその自転周期分布を明らかにしました。微小小惑星の自転周期の上限は微小小惑星の自転加速を抑制するメカニズムの存在を示唆しています。本研究は微小小惑星の自転状態の観測から、地球に接近する小惑星がどのような作用を受けながら地球近傍にやってくるのかという力学進化の解明に繋がると期待できます。

本研究は科学研究費助成事業(課題番号:21H04491、20H04617、18H05223、18H01272、18H01261、18K13599、17H06363、16H06341、16H02158、26247074、25103502)、光・赤外線天文学大学間連携事業、公益財団法人岩垂奨学会、岩井久雄記念東京奨学育英基金、JST次世代研究者挑戦的研究プログラムJPMJSP2108、UTEC東京大学奨学金の支援を受けました。

 

発表雑誌

雑誌名 Publications of the Astronomical Society of Japan
論文タイトル
Video Observations of tiny near-Earth objects with Tomo-e Gozen
著者
Jin BENIYAMA*, Shigeyuki SAKO, Ryou OHSAWA, Satoshi TAKITA, Naoto KOBAYASHI, Shin-ichiro OKUMURA, Seitaro URAKAWA, Makoto YOSHIKAWA, Fumihiko USUI, Fumi YOSHIDA, Mamoru DOI, Yuu NIINO, Toshikazu SHIGEYAMA, Masaomi TANAKA, Nozomu TOMINAGA, Tsutomu AOKI, Noriaki ARIMA, Ko ARIMATSU, Toshihiro KASUGA, Sohei KONDO, Yuki MORI, Hidenori TAKAHASHI, and Jun-ichi WATANABE
DOI番号
アブストラクトURL

https://academic.oup.com/pasj/advance-article/doi/10.1093/pasj/psac043/6638979

 

用語解説

注1  可視光動画カメラトモエゴゼン

10

東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所(長野県木曽郡)の口径105 cmシュミット望遠鏡用に東京大学が中心となり開発した世界初の可視光広視野動画カメラです。84枚のCMOSイメージセンサーにより、広い空の範囲を高い時間分解能で観測できます。

Image credit: 東京大学木曽観測所)https://tomoe.mtk.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/ja/

注2  ヨープ効果

太陽の輻射に起因して天体の自転状態が変化する現象をヨープ効果と呼びます。ヨープ(YORP)は4人の研究者Yarkovsky–O’Keefe–Radzievskii–Paddackの頭文字で、2000年にDavid Parry Rubincam によって命名されました(Rubicam 2000, Icarus, 148, 2)。太陽系に存在する天体はその表面で太陽光を受け、その一部は反射され、一部は熱として天体内部へと伝わります。熱放射と反射光は小惑星の各面で異なる方法に放出され、小惑星の形状が小惑星の自転の軸に対して軸対称である場合には相殺されてトルクは発生しません。現実の小惑星は表面に非対称性をもつため、自転を加速ないし減速させるトルクが発生します。このトルクは長い時間をかけて小惑星の自転状態を変化させます。

注3  トモエゴゼンを用いた小惑星発見

トモエゴゼンは2019年から2022年6月30日までに計42天体の地球接近小惑星の発見に成功しています。詳細は以下の東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所のウェブサイトをご参照ください。

注4  小惑星の表面に沿う方向の熱伝導を考慮にいれたヨープ効果(接線ヨープ効果)

2000年以来、ヨープ効果の定式化は小惑星の表面に垂直な方向の熱伝導を考えて行われてきました。2012年、Golubov & Krugly (2012, ApJ, 752, L11)は小惑星の表面に構造物がある場合の熱伝導モデルを構築しました。モデル計算から、小惑星の表面に沿った方向の熱伝導を考慮した際に、これまで考えられていたヨープ効果と同様またはそれ以上の強さで自転周期が変化することが示されました。

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―