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学生たちの声

データを最大限に活用する: 打ち上げから20年後に解析された「あかり」データ

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天文学専攻 修士課程1年

すずき はるか

鈴木 はるか

TO

ウエスタン・オンタリオ大学

カナダ

広大な空、尽きない問い

子どもの頃、両親に連れられてよくキャンプに行きました。夏休みやゴールデンウィークの時期に、年に5回ほど出かけることもありました。行き先は、山梨県の富士山近くにある河口湖や栃木県の那須など、関東近郊の有名な場所が中心でした。なかでも毎年訪れていた埼玉県の秩父は、特にお気に入りの場所でした。キャンプでは、焚き火で体を温めながら、夜空を眺める機会が何度もありました。そうした体験を通して、私は幼い頃から夜空や星に強い興味を抱くようになりました。

高校に進学する頃になると、その関心はより哲学的な問いへと深まっていきました。宇宙はどれほど大きいのだろうか。私たちは宇宙で孤独な存在なのだろうか。さらに、私たちが見ている星の光は「過去の光」であり、何千年もの時間をかけて地球に届いているのだという事実にも、魅了されるものがありました。

とはいえ、大学入学時点では、天文学を専攻するとは決めていませんでした。1・2年次は、天文学に限らず、神経科学、教育学、ジェンダー研究、医学など、興味を持ったさまざまな分野の講義を積極的に受講しました。しかし、天文学科は規模が小さいこともあり、学生と教員が頻繁かつ自由に交流できるアットホームな環境が非常に魅力的でした。また、卒業研究が研究の「終わり」ではなく、「始まり」であると感じられ、大学院へ進学することを決めました。

希少な「あかり」データ

「あかり」は、2006年に打ち上げられた日本の赤外線天文衛星です。その搭載機器の一つである近中間赤外線カメラ(IRC)は、近赤外から中間赤外の波長域の光を観測しました。その観測モードの一つであるLG2データは、可視光よりもやや長い中間赤外線の領域をカバーしています。

私はこのLG2データを用いて、銀河系内に広がる「銀河拡散光」を研究しています。これは、星と星の間に漂う微小なダスト粒子によって散乱された、銀河内の星光成分です。このデータが希少である理由は主に二つあります。一つ目は、特定の星や天体ではなく、「星間空間そのもの」を観測している点です。これにより、星間ダストの性質を直接調べることができます。

二つ目は、20マイクロメートル付近という、観測が極めて難しい波長域を含んでいる点です。この領域は大気の影響を強く受けるため、地上からの観測はほぼ不可能です。宇宙望遠鏡を使っても、この波長で銀河拡散光を系統的に観測した例はほとんどありませんでした。

20年間眠っていたデータを蘇らせる

このように高い科学的ポテンシャルを持つLG2データですが、約20年もの間、解析が困難な状態にありました。その理由は、生データが観測機器自体の光学構造に起因する不要な光の影響を受けていたためです。指導教員から、まずは信頼性の高いデータ処理手法を開発することで、この問題に取り組んでみてはどうかと提案されました。誰も解析していないデータに挑める点に、私は強く心を惹かれました。

最大の課題は、目的の天体からの光と、それ以外に漏れこんできた光を区別することでした。LG2データには、マスクの端から侵入する光や、視野内で生じる散乱光など、さまざまなアーティファクトが含まれていました。地道な解析を重ねた結果、これまで補正されてこなかった影響を取り除き、LG2スペクトルを正確に抽出できるデータ処理手法を確立することができました。

データを、余すことなく使うということ

データ処理手法を確立した後、私は銀河系円盤――天の川銀河の恒星やダストの大部分が存在する領域――に沿って、銀河拡散光の解析を行いました。空のさまざまな方向から届く光を丹念に調べることで、銀河の内側と外側のそれぞれにおけるダストの性質を明らかにしたいと考えています。私の知る限り、20マイクロメートル付近の銀河拡散光を系統的に解析した研究は、これが初めてです。貴重な観測データを眠らせたままにせず、最大限に活かすこと――それは、過去の研究者たちが残してくれた成果への敬意でもあると感じています。

現在、この研究成果をまとめた論文を執筆し、投稿に向けた準備を進めています。「あかり」が築いてきた科学的遺産に、自分なりの形で貢献できたと感じています。これからは、新たな研究課題に集中していきたいと思っています。

子どもの頃に夜空を見上げて抱いた大きな問い――私たちは宇宙で孤独なのか、生命の起源とは何か――は、今も私の研究の原動力です。より科学的に言えば、「生命を構成する有機物は、どこでどのように生まれるのか」という問いです。

私はこの問いに、二つの方向からアプローチしています。一つは、実験室での研究です。恒星がその生涯の終盤に迎える「新星(ノヴァ)」という現象の周囲で、有機物のダストが形成される環境を再現する実験を行っています。もう一つは、実際の新星を観測し、宇宙空間でダストがどのように生まれるのかを直接調べることです。実験と天文観測を組み合わせることで、新星で形成されるダストの性質について理解を深め、究極的には、私たち生命との関連に迫る研究ができたらと考えています。

カナダで迎えた、少し特別なクリスマス

私は以前から、研究者の日常や海外での研究スタイルに強い関心がありました。また、日本語を使わない環境に身を置くことで、英語でのコミュニケーション能力を高めたいとも思っていました。UGRASP(理学部海外派遣プログラム)を通じて、私はカナダのウエスタン・オンタリオ大学に2週間滞在する機会を得ることができました。

週末に訪れたナイアガラの滝

学部生でありながら、大学院生と話す時間が多く、彼らの研究について多くを学びました。指導教員もいくつかのプロジェクトに私を関わらせてくださり、課題を任せてくれました。

特に印象的だったのは、研究者と学生の距離の近さです。研究の議論だけでなく、趣味やプライベートな話題も自然に交わされていました。滞在中はちょうどクリスマスシーズンで、研究者がサンタクロースの衣装を着てパーティーに参加している光景にも驚かされました。研究室や学科の垣根を越えた交流が活発である点も、日本との大きな違いだと感じました。

こうした環境のおかげで、英語を話す機会に恵まれました。最初は、相手の言っていることが理解できても、うまく返答できず、非常にもどかしく感じました。毎晩、使いたかった表現を調べてノートに書き留め、翌日から意識的に会話で使うようにしました。この積み重ねによって、徐々に英語でのコミュニケーションに自信が持てるようになりました。

ベルギー出身の指導教員が家で振る舞ってくれたベルギーの家庭料理

数学が得意じゃなくても、科学はできる

これまで私は、進路選択や留学を含め、多くの人に支えられてきました。学部1年生の頃は興味が広く、どの分野に進むべきか迷っていました。天文学を専攻することにも、将来の就職の幅が狭まるのではないか、そして正直なところ数学が得意ではないという不安がありました。

そんなとき、高校時代の先生から「日本で天文学科を持つ大学は非常に珍しい」という言葉とともに、天文学を選ぶよう背中を押していただいたことを今でもはっきり覚えています。実際、東京大学は多くの観測所や研究機関とつながりを持ち、他では得がたい貴重な機会に恵まれています。

振り返ってみると、あのとき思い切って一歩踏み出して本当によかったと思います。天文学は、人類にとって最も根源的な問いに向き合う学問であり、私はそこに大きなやりがいを感じています。そしてもう一つ、安心できる発見もありました。科学は、必ずしも数学が好きな人だけのものではないということです。高校時代は数学が苦手で天文学を専攻することに不安がありましたが、今では数学を、興味深い現象を理解するための強力な道具として使うことを楽しんでいます。

天文学専攻 修士課程1年
SUZUKI Haruka
鈴木 はるか
東京大学大学院理学系研究科 天文学専攻 修士課程1年。
日本の赤外線天文衛星「あかり」によって取得されながら、これまで解析されてこなかったデータの研究成果を論文として発表することを目指している。現在の研究テーマは、宇宙空間における有機物とその起源。趣味は読書、旅行、ハイキング。時々、テレビドラマや映画のエキストラとして出演することもある。
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