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学生たちの声

物理海洋学は魔法のように見えるが、実際は科学だ

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地球惑星科学専攻 博士課程1年

うすい けんと

臼井 健人

Uniting curiosity and collaboration across the globe

天気予報って、ちょっと魔法っぽくありませんか?

私が科学の道に進んだきっかけは中学生の頃。テレビで天気予報を見ていて、「今の状態から未来のことがわかるなんて、魔法みたいだ」とワクワクしたのを覚えています。それから気候や気象システムに夢中になり、「この“魔法”の正体をもっと知りたい!」と思って、地球惑星科学の道に進みました。

大学では物理の勉強も好きだったので、物理と気象が密接につながっていると知ったときは、なんだか得した気分になったことを覚えています。基礎科学を専門とする学部生の多くは、大学院まで進学することが多いと思います。進学した地球惑星科学専攻には、物理学のバックグラウンドを持つ学生が約半数、環境科学のバックグラウンドを持つ学生がさらに約半分。この学際性はとても気に入っています。

修士課程に進む頃には、天気だけでなく、もっと大きなスケールの気候変動にも興味が出てきて、物理海洋学の中でも、特に海洋力学に焦点をあてた研究をしています。エルニーニョやラニーニャなど、海が気候変動の鍵となり、海洋現象は大気に影響を与え、最終的にその影響は、天気予報にまで現れるのです。これは、1年先の海の状態まで予測できるというスケールの大きな現象に強く惹かれ、今の研究分野へと進んでいきました。

黒潮と渦のぐるぐるの謎

海流などの物理的背景から、モデルシミュレーションを使って予測を行います。これは、観測データをモデルに入力すると、コンピュータが基本方程式を掲載し、時間と共に起こりうる海の変化を予測してくれるというものです。

修士課程では、日本の南を流れる「黒潮続流域」で見られる中規模渦(メソスケールエディ)をテーマに研究しました。このあたりは流れがとても強いので、直径100kmくらいの渦がぽこぽこと現れます。渦と聞くと台風みたいなイメージがあるかもしれませんが、海の中にも「渦巻き」があるんです。この渦たちは、風と温度の関係が少し複雑で、従来の理論では説明しきれないことが多くありました。

私の研究では、「海の表面を吹く風」が海流をどう動かすか、特に「渦があるときにどうなるのか?」をテーマにしました。結果として、これまであまり明確にされていなかった、「風だけじゃなくて、渦の中の回転や温度分布も海の流れに影響している」ということが分かってきました。小さな渦でも、気候や海全体に大きな影響を与える可能性があるのんだと実感して、ますます面白くなってきました。

博士課程に入ってからは、中規模渦のような小さな現象が、大きなスケールの海洋現象にどのように影響を与えるのかを考え、最終的には、小規模な現象が、どのように組み合わさっていくことで北太平洋スケールの気候変動を引き起こすのかを明らかにすることが目標です。もしこの目標を達成できれば、このような小規模現象が気候に与える影響のメカニズムを解明し、年単位の気候予測がより正確になるはずです。

モデルで未来をのぞく

海や気候の研究では、観測データをコンピューターに入れて、物理方程式を使って未来の変化を予測する「数値モデル」をよく使います。モデルの制度を上げるには、シミュレーションの結果と実際の観測データを比べる必要があるのですが、ズレがあれば調整し、再びシミュレーションを行う −−。こうして私も研究ではモデルを何度も回します。1回のシミュレーションで1〜2日かかるので、その間は先行研究を読んだり、過去の出力をPythonで分析したり。これは学部時代に習ったんですが、この“コードを書いてデータを読み解く時間”が、実は好きな瞬間だったりします。

海洋学って、意外とプログラミングが大切なんです。学部時代にPythonを勉強しておいて本当によかったです。

そして、最後は結果を地図にプロットして、目で見て「なるほど」と納得する。実は修士論文では、微分方程式を解くコードを書くのが一番大変だったんですが…それも今となってはいい思い出です(笑)。

シカゴで過ごした「ギャップイヤー」

高校生のときに1年間アメリカ・シカゴの現地校に通ったことも、今の自分に大きく影響しています。日本では珍しいですが、それまで中・高の6年間ずっと同じクラスメートと過ごしてきたので、まったく新しい環境に飛び込むのはドキドキでした。でも、思い切って行ってみたら、楽しくて学ぶことも多くて、「やってよかった!」と心から思っています。

英語は中学から勉強していたので、最初は苦戦しましたが、現地の生活が一番の先生でした。 

好奇心が次のステップをくれる

2023年からは、博士課程の「IGPEES(国際地球宇宙科学卓越大学院プログラム)」に参加しています。このプログラムでは、博士課程中に海外留学が必須です。実は、アメリカの海洋大気庁(NOAA)で活躍されている研究者と交流があって、今でも研究のアドバイスをくれています。いつかまたアメリカに戻って、一緒に研究できたらいいなと思っています。

子どものころに感じた「天気予報って魔法みたい」という気持ち。高校での海外経験。そして、大学・大学院での研究と仲間たち。すべてがつながって、今の自分があります。

だから、「なんか面白いかも」と思ったら、ちょっと調べてみる。やってみる。そんな小さな一歩が、大きな未来につながるかもしれません。これが、私からみなさんへの一番のメッセージです。

※2025年取材時
撮影/貝塚 純一
英語取材・文:ベルタ エメシェ
文章は簡潔にするために編集されています。

地球惑星科学専攻 博士課程1年
USUI Kento
臼井 健人
臼井さんは天気予報の予測に魅了されたことがきっかけで、科学への関心を持つようになりました。その後、物理学への興味も加わり、地球惑星科学専攻に進学し、物理海洋学に焦点を当てました。修士課程では中規模渦の研究を行い、現在は同専攻で博士課程に進学しています。
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