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学生たちの声

未知への挑戦と親和性の育成

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物理学科 学部4年生

ヤマン・シン・シュレスタ

Yaman Singh Shrestha

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聖ザビエル学院

ネパール、カトマンズ

基礎の習得から日本語でのレポート作成まで

高校を卒業したころ、海外に行きたいと考えていたときに、姉から文部科学省の奨学金のことを聞きました。私は物理の勉強を続けたかったし、日本はその分野で最高の研究をしているところなので、行くには最適だと思いました。

文部科学省の奨学金を得た後、私は大阪大学で1年間日本語を学びました。日本に来る前に1週間ほどひらがなとカタカナを勉強しただけで、日本に来るまでにすべて忘れてしまって(笑)。最初の9カ月は、日本語を学ぶのがとても大変でした。授業で学んだり、課題を終わらせたりすることはできても、話すことができないので、行き詰まりを感じていました。人と話さなければならないとき、うまく言葉が出てきませんでした。

日本語を話すことに抵抗がなくなったのは、来日して1年近く経ってからです。東京大学は駒場キャンパスで授業を受けるのですが、授業はほとんど日本語でしたし、入学前にコミュニケーションが取れないと大変なので、いいタイミングでしたね。駒場キャンパスでの1年目は少し大変でしたが、言葉に慣れ始め、理系の語彙の基礎が出来上がると、楽になりました。日本人の学生たちと一緒に行動することも、私の語学力の向上につながったと思います。

多彩で素晴らしい経験

大阪大学で日本語を学んでいるとき、学部レベルで物理学を学びたい国立大学のリストを文部科学省に提出しました。東京大学は日本でも有数の研究施設があり、理学部の研究者が宇宙論や量子物理学の分野で興味深い研究を行っていたので、第一志望としました。

東京大学に入学した私は、他の学部生と同様、最初の2年間は駒場キャンパスの教養学部で学びました。駒場キャンパスには、さまざまな種類の授業があり、できることもたくさんあるので、とても多彩な経験ができました。

また、学生が運営する活動団体であるサークルの種類も豊富です。私はロックミュージックのサークルに入ったのですが、これが楽しかったです。小さなサークルなので、みんな歓迎してくれて、仲良くなれました。

干し草の山から見えない針を探し出す

ダークマターの研究や重力波に興味があるんです。高校生のころは、暗黒物質が何なのかさえ知りませんでした。去年もよく知らなかったのですが、前期に日下暁人先生が主宰する日下研で最終学年の実験をすることになりました。日下先生は量子センシング技術を使って暗黒物質を検出する方法を研究しており、面白そうだと思ったのです。

日下研では4ヵ月ほど、主に暗黒物質検出のシミュレーションを行いました。一度やり始めると親しみがわくので、将来もこの研究を続けたいと思いました。暗黒物質については、まだあまり知られていないので、とてもエキサイティングです。常に新しい発見があります。しかし、暗黒物質の検出は、干し草の山の中から見えない針を探すようなものです。

今学期は、安東正樹先生が主宰する安東研で最終学年の実験を行いました。安東研は重力波の検出が主な研究テーマですが、暗黒物質のグループもあります。暗黒物質を検出する新しい実験を行っているので、いい研究室だと思い、参加しました。

一説によると、物質に対して非常に弱い力を加えることができる暗黒物質があり、その力は物質の種類に依存するそうです。安東研では、この説に基づいて暗黒物質を検出する装置を設計しました。具体的には、棒の片側にタングステンのテストマス、もう片側にシリコンのテストマスを付けたねじり振り子です。振り子に暗黒物質の波が当たると、タングステンとシリコンはそれぞれ異なる力を受けるはずです。もし、同じ力がかかったら、一緒に動くはずです。しかし、もし力が違っていれば、振り子は回転するはずです。これは、ダークマターによって力が加えられたことを意味します。

私が研究室に入ったときは、この装置がうまく作動していなかったので、問題を発見し、作動するように設計し直すのが私の役目でした。この学期はずっとこの装置を直そうとして、ある程度は成功したのですが、最後の最後で別の問題が見つかってしまいました。

修士課程では、日下研で行っていた研究を継続する予定です。私はマグノンを用いた検出器を設計し、仮想的な暗黒物質候補の一つであるアクシオンを電子スピン波に変換し、そのスピン波を量子ビットで測定することを計画しています。暗黒物質の検出は極めて稀な事象であるため、非常に高い精度の測定が必要になります。現在の検出器では、暗黒物質に由来する光子やスピン波は吸収される必要があるため、一度しか測定できないので、測定精度はそれほど高くなりません。しかし、それらを量子ビットに絡めれば、これを防ぐことができます。そうすれば、同じ光子やスピン波を量子ビットを通して繰り返し測定できるようになり、その結果、測定の誤差を小さくすることができるはずです。

想定外の事態に対応する

学部3年生から、授業はすべて本郷キャンパスで行っていました。しかし、講義を受け始めると同時に、パンデミック(世界的大流行)が始まりました。それ以来、講義はすべてオンラインになりました。

パンデミック当初はZoomになかなか慣れず、最初の学期は少し複雑でした。でもそのうち、ノートや過去の講義に簡単にアクセスできるようになったことで、よりよい復習環境へと繋がり、だんだんと楽しくなってきました。また、授業中のディスカッションでは、画面に書いたり絵を描いたりして説明することができました。

日下研にいた頃は、学期の前半は自宅のパソコンでシミュレーションができたためキャンパスに来なくてもよかったのですが、後半はより複雑なシミュレーションをしなければならないので、研究室に来る必要がありました。安東研では自分で装置を操作しなければならないので、今学期はほぼ毎週大学に来ていました。

暮らしやすく、研究しやすい環境

東京大学の事務局の方々には、大変お世話になりました。例えば理学部では、国際連携室(ILO)にいつでもメールを送ると、必ず親切な返事が返ってくるので、聞くのをためらうことは何もありません。

日本はかなり住みやすい国なので、ここにいたいと思っています。すべてがきちんと整理され、スムーズに進むので、小さなことを気にすることなく、研究に集中することができます。また、日本の人たちはとても親切で、私が失敗しても理解してくれるので、とてもやりやすいです。

パンデミック以前は、日本各地を旅行するのも楽しかったですね。北海道や九州、中部地方にも行きました。日本全国を回りたいので、沖縄や四国、広島などはまだリストアップしています。日本各地には、見るべきもの、特色のあるものがたくさんありますから。

これから留学する人へのメッセージ

東京大学理学部で勉強することを絶対にお勧めします。革新的でエキサイティングなことにたくさん挑戦できますし、特に研究に関しては、世の中に新しいものをもたらすことができるのですから。

物理学科での研究は、これまでで一番好きな日本での経験でした。自由度が高く、自分のペースで行動し、自分の研究をコントロールすることができます。そして、指導が必要なときには先生がそばにいてくれます。実験をしているときは、何がうまくいかないかわからないし、どうしてもうまくいかないときは、先生と一緒に問題を探って解決策を見つけるんです。決して一人で抱え込まない。時には、問題を解決するために何時間も話し込んでしまうこともあります。

研究室もそれほど大きくないので、メンターと良い関係を築くことができ、迷うことはありませんでした。プレッシャーのない、とてもリラックスした環境で、たとえ失敗しても、研究しながら学ぶことができます。

もしあなたが研究をするのが好きなら、理学部で勉強することを考えてみてください。みんな研究に夢中で、やりたいこともたくさんあって、熱意を共有し、モチベーションを高めてくれる人たちとつながるには最適な場所だと思います。

※2022年取材時
文/粟津クリスティーナ(訳:武田加奈子)
写真/貝塚純一

物理学科 学部4年生
Yaman Singh Shrestha
ヤマン・シン・シュレスタ
ネパールのカトマンズ生まれ。高校を卒業後、文部科学省奨学生として来日し、大阪大学で1年間日本語を学ぶ。その後、東京大学に入学し、学部の最初の2年間は教養学部で学び、2020年に理学部物理学科で暗黒物質について研究を始める。2022年から物理学専攻修士課程で日下研究室に所属(予定)。
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