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特集記事

天文学教育研究センター木曽観測所

木曽の山中から、「動画天文学」の時代が始まる

October 1, 2021

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木曽観測所の105cmのシュミット望遠鏡 ©奧村浩司 (フォワードストローク)

天体観測の最大の敵は光だ。はるか遠くの天体からの光を捉えるには、暗い夜空が不可欠だ。1974年に開設された木曽観測所(長野県木曽町)が、木曽の山中につくられたのもそのためである。

この、東京から遠く離れた観測所が、天文学の新たな歴史を担うことになるかもしれない。短時間での宇宙の変化を捉える、「動画」での宇宙観測を可能にする新たな装置が導入されたのだ。それが、木曽観測所で2019年10月に本格稼働した新観測装置「トモエゴゼン(Tomo-e Gozen)」である。

トモエゴゼンには、キヤノンが開発した高感度CMOSセンサが84個取り付けられている。CMOSセンサならではの高速データ読み出しが可能で、毎秒2コマの「動画」の観測が可能だ。長時間露光して「静止画」を撮影するのが当たり前だった天文学の常識を塗り替えた。「動画天文学」の時代の幕開けである。

トモエゴゼンを搭載するのが、木曽観測所の口径105 cmのシュミット望遠鏡だ。シュミット望遠鏡とは、鏡筒の先端に特殊な形の大型レンズをつけ、広い視野にわたってボケのない鮮明な画像を得るタイプの望遠鏡である。

木曽観測所のシュミット望遠鏡よりも口径の大きな望遠鏡は多く存在するが、それらの多くは、天空の特定領域を細かく見ることに最適化されている。要するに「巨大な望遠レンズ」であり、視野はそれほど広くはない。対するシュミット望遠鏡は、広い領域を一度に撮影する「広角レンズ」である。木曽観測所の望遠鏡はシュミット式では日本最大、世界でも4番目の大口径を誇る。1974年に日本光学工業(現ニコン)が完成させて以来、45年以上にわたり天空を撮影し続けてきたが、広視野のデジタル対応は容易ではなく、せっかくの超広視野を活かせずにいた。その流れを一変させたのがトモエゴゼンの開発だった。

トモエゴゼンを搭載したシュミット望遠鏡は、いわば「超高精細・超広角の巨大デジタルカメラ」だ。84個のCMOSセンサを合わせると1億9000万画素という超高精細を誇る。さらに、センサ1つが満月1つ分の視野をカバーし、トモエゴゼン全体で一度に84個分の満月に相当する範囲を撮影できる。広視野での動画撮影が可能になったことで、未知の天文現象の発見が期待される。実際、すでに試験運転期間も含めていくつもの観測成果を上げている。超新星爆発や新たな天体を発見し、太陽系の外縁天体「クワオアー」に、大気がほとんど存在しないことを明らかにした。

シュミット望遠鏡に取り付けられた、「トモエゴゼン」の84個の高感度CMOSセンサ。

木曽観測所では、アウトリーチ活動にも力を入れている。夏の一般向け公開や地元向けのさまざまな取り組みのほか、毎年春には全国の高校生を対象に、3泊4日で「銀河学校」を開催する。シュミット望遠鏡による観測とコンピュータによる解析、成果発表などを行う。1998年に始まったこの実習には毎年30名ほどが参加し、2019年3月に開催された第22回までに、のべ600名ほどが木曽での実習に励んだ。卒業生のなかには、天文学者や自然科学の研究者の道を歩む者もいる。人材育成や科学リテラシーの醸成にもつながっているのだ。トモエゴゼンが導入され、「動画天文学」が可能になった2020年以降、ここからどのような卒業生が巣立っていくのだろうか。

※2020年理学部パンフレット(2019年取材時)
文/萱原正嗣、写真/貝塚純一

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