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卒業生インタビュー

化学科 ルーマニア ベイブセ・ボリャイ大学 ⇒ 化学科 理学部

科学者になる夢を東大で叶えた

化学科 化学専攻 助教

Laurean Ilies

September 1, 2021

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――どんな研究をされていますか?

有機化学の一分野である合成化学を研究しています。有機合成化学には、「何を」つくるか、「どのように」つくるかという大きく2つの研究課題があります。つくるものは医薬品の材料なのかエレクトロニクス製品の材料なのか、それを考えるのが前者です。後者では、同じ化合物をつくるにしても、より効率的な、あるいは環境負荷のより低い方法を考えます。私は両方を研究していますが、主に後者の研究に取り組んでいます。

反応効率や環境負荷などは、どのような触媒をどう使うかで大きく変わります。そのため近年の合成化学は、ほぼ触媒化学と言っていいほど触媒の研究が盛んです。化学工業の製造現場でも触媒の利用は不可欠ですが、特にファインケミカル合成において貴金属のパラジウムが触媒として非常によく使われています。その合成法の一つの代表例が、2010年のノーベル化学賞のテーマとなった「パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応」です。1970年代に多くの日本人研究者の業績によって確立された手法で、米国のリチャード・ヘック先生とともに根岸栄一先生と鈴木章先生がノーベル化学賞を受賞されました。

この合成法はきわめて優れていますが、課題もあります。ひとつは、パラジウムの希少性が高いことです。高価ですし、資源枯渇も懸念されています。もうひとつはパラジウムに毒性があり、かつ合成した化合物に汚染しやすいことです。特に医薬品製造においては、パラジウムを取り除くため大きな手間とコストをかけています。

こうした問題を解決するため、資源量が豊富で毒性がほぼない鉄を、触媒として使う研究に取り組んでいます。有機化合物の合成の肝は、炭素と炭素を効率的に結合させ,分子の骨格を簡便に建築することである。私たちの研究室では、鉄を触媒に使い、炭素と水素の結合を活性化させる「C-H Activation」という手法を用いて、効率的に新しい結合を構築する。

この手法の利点はもうひとつあります。パラジウム触媒では、結合させたい2つの化合物に化学的修飾を加えるステップが事前に必要ですが、「C-H Activation」ではそのステップを省略することができます。「直接カップリング」とも呼ばれています。今は実用化に向けた研究に取り組んでいるところです。また、鉄触媒を用いた酸化反応を開発し、共同研究で医薬品合成への工業化を実現する予定です。

――留学を決めたきっかけは?

サイエンスの研究をしたかった、ということに尽きます。中学生のころから化学が大好きで、高校生のときには日々実験に明け暮れ、ルーマニア全国化学オリンピックにも参加しました。研究者を志して母国の大学に進学しましたが、ルーマニアでは十分な研究費が確保されておらず、その夢を叶えるのは困難でした。

日本には高校生のころから関心がありました。大学2年生のときに受講した日本語と文化の講座で、日本の文部科学省の国費外国人留学生制度の紹介がありました。日本でサイエンスを学びたいと、応募しました。

――今や念願の研究者です。研究者を志す学生にメッセージをお願いします。

サイエンスに仕事として取り組める国は限られています。日本はそのひとつ。特に化学の分野では、日本と米国が世界最先端です。基礎研究に資金が配分されにくくなっているのは世界的な潮流ですが、日本は基礎研究にかなり寛容です。日本の大学には、研究室のなかで学生や教員を育てる仕組みもあります。東大理学部・理学系研究科は、研究者も設備も第一級です。

理学部化学科 と理学系研究科化学専攻 では、英語だけで学位を取得できるGSC*1とGSGC*2というプログラムを展開しています。最先端の化学研究に取り組みたい人の挑戦を歓迎します。

*1 GSC: Global Science Course.
*2 GSGC: Global Science Graduate Course.

※2018年理学部パンフレット(2017年取材時)
文/萱原正嗣、写真/貝塚純一

化学科 化学専攻 助教*
Laurean Ilies
Laurean Ilies
ルーマニア生まれ。1999年ルーマニア ベイブセ・ボリャイ大学 化学科退学。日本の文部科学省の国費外国人留学生制度により来日。2004年東京大学理学部卒業。2009年同化学専攻 修士課程修了、博士号(化学)取得後、シカゴ大学研究員、日本学術振興会特別研究員(DC2)などを経て2014年より現職。2018年より、理化学研究所の環境資源科学研究センター チームリーダー。
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