数学は徹底した論理の世界、証明ができればアプローチは自由だ。その自由さに魅せられて、特異点と日々向き合う。
代数幾何学とは、文字式を扱う代数学と、図形を扱う幾何学にまたがる学問分野だ。髙木教授いわく、「代数的に図形を扱う学問」だ。その中心テーマは、多項式で表現される特殊な図形、「代数多様体」の性質を調べることにある。
代数多様体を扱ううえで厄介なのが、「特異点」だ。特異点とは、「尖ったり捻れたりした滑らかでない点」のこと。特異点のない図形は微分で性質を調べられるが、特異点があると微分できず扱いが難しくなる。
髙木教授が研究するのは、“1をp回足すと0になる”特殊な世界、「標数p」の世界における代数多様体だ。
「代数多様体は、もともと複素数の世界で考えられてきました。それを標数pの世界で考えると、複素数の場合にはなかった“病的な”現象が起き、図形の扱いが難しくなります。標数pの世界というと人工的に思えるかもしれませんが、インターネットにおける暗号化通信にも使われていて実社会とも関係しています」
ちなみに、代数幾何学は日本のお家芸とも呼ばれる分野だ。数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を、これまで3人の日本人が受賞しており、その3人がみな代数幾何学を研究していた。なかでも、1954年に日本人初のフィールズ賞に輝いた小平邦彦氏は、本学数学科を卒業し、数学科で教授職も務めた。その影響は、今も本学数学科に脈々と受け継がれている。
髙木教授は、数学の「自由さ」に魅力を感じているという。
「最終的に証明ができれば、どんな突飛なことを考えてもいいし、アプローチも自由です。自分の好きなように考えられるのが面白いところです」
この思考の自由さに、小学生のころから惹かれていた。
「当時好きだったのは、いわゆる文章題と呼ばれる問題です。デフォルメしてはいますが、現実の出来事を数字で突き詰めて考えられることに面白みを感じていました」
高校生のころには、現実の問題に数学を応用することに興味が広がり、オペレーションズ・リサーチの入門書を読んだりした。進学振り分けでは、理学部数学科と、応用数学を学べる工学部計数工学科で悩んだ経験がある。
「応用数学への関心に加え、純粋数学の抽象的な議論についていけるかの不安がありました。当時、常微分方程式の講義を担当されていた薩摩順吉先生に相談したところ、数学科への進学を勧められました。『計数工学科でも、最初は数学の基礎を学ぶわけだし、基礎は純粋数学でも応用数学でも共通している。数学科で純粋数学の世界についていけないと思ったら、大学院で計数工学科に進学すればいい。その場合でも、数学科で学んだことは役に立つ』。そんなアドバイスに従って数学科に進んだところ、気づけば代数幾何にのめりこんでいました」
「数学科の魅力は、優秀な学生が集まってくること」と髙木教授。
「数学は一人でするものと思いがちですが、頭のなかのアイデアを形にするのに、人との議論はとても重要です。周りに優秀な人が多いのは、自分のアイデアを練り上げていくのに非常に恵まれた環境です」
※2020年理学部パンフレット(2019年取材時)
文/萱原正嗣、写真/貝塚純一