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理学のフロンティア

人はみな“生産者”になれるか――

カギは人とコンピュータの接点にあり

情報理工学系研究科 情報科学科 教授

五十嵐 健夫

April 1, 2021

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スマホやコンピュータが欠かせなくなった現代。
インターフェイスの革新が、人の新たな可能性を引き出していく。

「コンピュータを、ただ使うだけではつまらない」
五十嵐教授は、静かな口調でそう語る。「大量生産・大量消費が当たり前の現代、コンピュータの世界でも、少数の企業や人がつくったものが世界中で消費されています。それで個人の多様なニーズに応えられるのか――。それが根底にある問題意識です。また、コンピュータには、さまざまなモノを生み出す道具としてのポテンシャルがあります。多くの人が、コンピュータを“創造する道具”として使ってほしい。多くの人に“生産者”になってほしいと思っています」

だが、コンピュータを使いこなして何かをつくり出すのはそう容易ではない。そのため五十嵐教授は、「コンピュータによる創造」を支援する技術の研究に力を入れる。

たとえば、描いた絵をアニメーションのように簡単に動かせる技術を開発した。描いた絵の好きなところにピンを止め、ピンを動かすと絵も一緒に動く。ピンの箇所は一箇所でも複数でもいい。このとき内部では、絵を三角形のメッシュに分割し、ピンを動かしたときに三角形の歪みの総和が最小化するような最適化計算を行っている。

この技術は、十数年前の2000年代前半に開発したものだ。なぜ、五十嵐教授はこれをつくろうと思ったのか。

「スマートフォンの画面を複数の指で操作するマルチタッチは、今でこそ当たり前ですが、当時はマルチタッチのインターフェイスは存在していませんでした。絵を複数の指でつまんで動かす新しいユーザー体験を実現したかったというのがそもそものモチベーションです。同時に、それを実現するアルゴリズムや仕組みについても、技術的な工夫を盛り込むようにしています。このときの技術では、絵の動きをどう実現するかがポイントでした。三角形の歪みをどう数式で表現するかはかなり自由で、そこを計算しやすいように工夫しました」

ユーザーが感じる体験の新しさとは、言い換えれば、人とコンピュータのインタラクションの新しさである。インタラクションは、両者のインターフェイスで生まれる。「コンピュータによる創造」を支援する五十嵐教授の研究は、新しいインターフェイスをつくり出し、新たなインタラクションをもたらす試みである。

「今や、コンピュータやスマートフォンと一日中接しています。インターフェイス、インタラクションは非常に重要な問題です。そこに潜む課題を見つけ、技術によって解決する。そこに大きな関心があります。技術が新しくなれば、インタラクションも変わります」

近年は、機械学習技術に適したヒューマンコンピュータインターフェイスについても研究している。コンピュータによる実用的な「支援」にも関心があり、医療分野で3次元画像を処理する研究にも取り組んでいる。2016年には、医師がCTやMRIの画像を編集する技術を開発した。

「ユーザー体験としての新しさと、それを実現するアルゴリズムの工夫、そして、実際に使ってもらう実用性。すべてを同時に満たすのはなかなか難しいですが、そこを目指して研究に取り組んでいます」

※2020年理学部パンフレット(2019年取材時)
文/萱原正嗣、写真/貝塚純一

情報理工学系研究科 情報科学科 教授
IGARASHI Takeo
五十嵐 健夫
1995年東京大学工学部計数工学科卒業、2000年同大学大学院博士課程修了、博士(工学)取得。02年同大学院講師、05年助教授を経て11年より現職。一貫して、ユーザーインターフェスやコンピュータグラフィクスの研究に取り組んでいる。
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