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アインシュタインの予言から100年、
宇宙の謎に迫る新たな扉

重力波は科学に何をもたらすのか――

April 1, 2021

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「アインシュタイン最後の宿題」。そう言われていた重力波がついに検出された。
それは科学にどのようなインパクトをもたらすのか。検出の背景や日本で建造が進む重力波望遠鏡KAGRAとともに、理学系研究科で重力波を研究する3名の研究者に尋ねた。

◎重力波はどのようにして生まれるのか

その一報が世界を巡ったのは、2016年2月11日のことだ。アインシュタインが一般相対性理論の帰結として存在を予言し、いまだに確認されずにいた重力波。その直接検出に、人類はついに成功した。

それと思しき信号は、2015年9月14日にキャッチされていた。研究チームは5ヶ月近く信号データを精査し、重力波だと結論づけた。波源は、地球から13億光年離れた2つのブラックホール。

「それらが合体してひとつになるときに重力波が放出されました」と、理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター(RESCEU)の横山順一教授は語る。

「2つのブラックホールの質量は、それぞれ太陽の約36倍と約29倍。合体して、太陽質量の約62倍のブラックホールになりました。合体前後の質量の差、つまり太陽約3個分の質量が、重力波のエネルギーに変換されました」

重力波はなぜ生まれるのか。一般相対性理論では、重力は時空の歪みとして説明される。質量を持つあらゆる物体は空間を曲げ、質量の大きな物体ほど空間をより大きく歪める。質量の小さな物体は、その歪みに転げ落ちるように引き寄せられる。地球上で物体が地球に向かって落下するのは、地球の質量がはるかに大きいからだ。一般相対性理論はニュートンの万有引力の法則を包含している。

「重力波は、質量を持った物体が加速度運動をしたときに生成される時空のさざ波です。物体の運動に伴い空間の歪みが変化し、その波が光の速度で伝わっていきます」(横山教授、図版参照)

◎「世紀の発見」に至る100年という時間

重力波が時空の歪みを伝えるといっても、その変化はきわめてわずかだ。

「重い天体現象によって生じる重力波でも、太陽と地球の距離を水素原子1個分ほど伸び縮みさせるにすぎません」

物理学専攻の安東正樹准教授はこのように語る。あまりに微小であるため、当のアインシュタイン自身、検出はほぼ不可能と思っていたと伝わる。

重力波の予言は、1916年になされた。一般相対性理論からは複数の予言が導かれ、そのほとんどは20世紀中に実証された。世紀を跨いで確認されずにいたのは重力波のみ。それが、「アインシュタイン最後の宿題」と呼ばれる所以である。奇しくも、重力波検出の一報は、予言からちょうど100年後にもたらされた。1世紀もの時間を要したことが、検出の困難さを物語る。

「世紀の発見」を成し遂げたのは、米国カリフォルニア工科大学(Caltech)とマサチューセッツ工科大学(MIT)が共同で運営する重力波観測施設LIGO だ。米国北西部のワシントン州ハンフォードと南部ルイジアナ州リビングストン、約3,000 km離れた場所に1台ずつ重力波望遠鏡が設置されている。いずれも1辺4 kmのL字型に直交するアームを持つ。

この巨大な装置があればこそ、重力波は捉えることができた。それは、多くの科学者たちの飽くなき情熱と長年にわたる努力、科学と技術の発展の賜物である。

重力波検出の具体的な試みは、予言からほぼ半世紀後の1960年代に遡る。1970年代には、重力波の影響を示す天体現象が発見されたが(1993年にノーベル物理学賞受賞)、重力波による時空の歪みの直接的な証拠は得られずにいた。

変化の兆しは、世紀を跨ぐ2000年前後に訪れた。LIGOと同じ原理で動作する観測施設が日米独伊4ヶ国で稼働。多くの知見や技術が蓄積され、国際的な重力波観測網が確立された。これらの施設は「第一世代検出器」と呼ばれている。LIGOはこの時期に建造され(Initial LIGO)、2010年代に大幅に改良された(Advanced LIGO, aLIGO)。「第二世代」のaLIGOが本格的に稼働したのは2015年9月。その直後、約13億年前に発生した重力波を捉えた。2017年には、LIGOのプロジェクトを率いてきたCaltechとMITの研究者3名に、ノーベル物理学賞が授けられた。

2015年9月14日に検出されたブラックホール衝突のシミュレーション画像。© 2016 SXS

◎重力波検出を阻むノイズとの格闘

LIGOでの重力波初検出には、2016年2月にRESCEUに着任したキップ・カンノン准教授が重大な貢献をしている。カンノン准教授はLIGOの国際共同研究チームLSC* の一員で、重力波検出で重要な役割を果たしたソフトウェアGstLALの開発者である。2015年9月当時はLSCのカナダ代表を務めており、ノーベル物理学賞につながった初検出の論文にも、著者の一人として名を連ねている。

「重力波望遠鏡でキャッチした信号データは、ソフトウェアで処理できる形式に変換されます。GstLALはそのデータを精査し、信号が重力波によるものであるか判定します」(カンノン准教授)

重力波望遠鏡は超高精度であるがゆえに、環境の変化にもきわめて敏感だ。人が感じない小さな地震や、付近を車が走ることで生じる地面の揺れ、装置が有限の温度を持つことによって生じる振動(熱振動)なども感知してしまう。それらはすべて、重力波検出にとってノイズでしかない。装置はこれらの振動を低減する設計がなされているが、ゼロにするのは困難だ。

LIGOの2台の望遠鏡が3,000 km離れているのも、重力波と思われる信号がノイズでないかを判断するためだ。信号が1台だけで検出されればそれはノイズの影響と分かる。一方、2台でともに検出されたら、ノイズの可能性は低いが、ノイズが偶然重なる可能性はゼロではない。GstLALは信号データを精査し、それがノイズによって偶然引き起こされる確率を計算する。

2015年9月14日にハンフォードとリビングストンで取得した信号の波形は、どちらも理論的に導かれる波形と驚くほど一致していた。

「このときの信号がノイズにより偶然得られる可能性は5万年に1度以下。統計的に十分有意な確率で、重力波だと判定されました」(カンノン准教授)

◎重力波が開いた宇宙への新たな扉

LIGOは2015年12月にもう1回、2017年に4回、合計6回の重力波を検出した。このうち5度は、2つのブラックホールの衝突・合体によるものだ。

「最初に検出された重力波がブラックホール由来のものであったこと、その後も同様の発見が相次いだのは驚きでした。事前の大方の予想では、最初に検出される重力波は、連星中性子星の衝突から生じるものになると見込まれていました」(安東准教授)

ブラックホールは、光(電磁波)さえ脱出できないほど質量の大きな物体だ。その存在は理論的に突き止められていたが、光(電磁波)を発しないため直接には観測できずにいた。その証拠を直接的に捉えたのは、このときの重力波検出が初めてだ。さらには、2つのブラックホールが連星をなして衝突・合体すること、太陽質量の数十倍ものブラックホールの存在が確かめられたのも今回が初。「世紀の発見」は、初めてづくしの偉業であったのだ。

「重力波による宇宙の観測は、これまで観測できなかった宇宙物理や天体現象の観測を可能にします」と、横山教授はその意義を強調する。

人類は、17世紀初頭にガリレオが望遠鏡を手にして以来、宇宙を見る手段を拡張してきた。可視光に始まり、X線や紫外線、赤外線やガンマ線などの電磁波。そして、宇宙から飛来する素粒子ニュートリノを観測する「ニュートリノ天文学」。そこに、重力波によって宇宙を捉える「重力波天文学」が加わった。

横山教授は長年、宇宙の起源や進化について研究してきた。原始宇宙では光(電磁波)が直進できず、光(電磁波)ではその姿を捉えることができない。ニュートリノや重力波により、原始宇宙やブラックホールなど、謎に包まれていた宇宙の姿に迫ることができる。

重力波の、光(電磁波)にはないもうひとつの特徴。それは物体を通り抜ける強い透過力だ。大きな天体や明るい銀河中心の向こうで起きた現象も、重力波でなら捉えられる。重力波は、宇宙の知られざる姿に迫る、新たな扉を開いたのだ。

◎重力波と電磁波と……複眼観測で見えてくること

2017年8月17日に検出された重力波は、天文学のもうひとつの扉を開いた。このとき検出されたのは、連星中性子星の衝突・合体による重力波。この天体現象からは光(電磁波)も生成され、世界の複数の施設がそれを捉えた。⽇本の重⼒波追跡観測チーム(J-GEM)もそのひとつ。可視光と近赤外線での観測だ。

 このときも、カンノン准教授のソフトウェアGstLALが重要な役割を果たした。重力波と思われる信号を検出すると、世界各国の天体観測施設に自動的に連絡が届くシステムが整えられている。

「鉄より重い元素が中性子星の合体によって生成され、その過程で電磁波が放出されるという理論予測があります。観測された電磁波はその予測とよく一致しており、重元素の合成過程を捉えたことを示唆しています」(カンノン准教授)

 このように、重力波と光(電磁波)、ニュートリノなどを組み合わせ、天体現象を複眼的に観測することを「マルチメッセンジャー天文学」という。それにより、既知の現象の知られざるメカニズムの解明につながると期待されている。

このときの電磁波観測には、LIGOに次いで稼働した重力波望遠鏡の貢献が大きい。イタリア・ピサにあるVirgoだ。LIGO同様2000年代に稼働し(Initial Virgo)、その後改良された第二世代施設だ(Advanced Virgo)。重力波源は、検出する施設の数が多いほど、精度よく絞り込むことができる。2017年8月にVirgoが観測網に加わり、その精度が大きく向上した。

◎次代を先取りする「第2.5世代」望遠鏡KAGRA

この国際重力波観測網への参加と貢献が期待されているのが、岐阜県飛騨市神岡町に建造中の重力波望遠鏡KAGRAだ。近くには、ニュートリノ観測施設スーパーカミオカンデもある。KAGRAは東大宇宙線研究所がホスト研究機関、国立天文台と高エネルギー加速器研究機構が共同ホスト機関となり、国内外60以上の大学の協力のもと運営されている。理学系研究科の複数の研究室も密接に連携している。

KAGRAの特徴は大きく2つ。ひとつは、振動が少ない地下に設置されていることだ。かつては鉱山として使われていた硬い岩盤に地下トンネルを掘り、一辺3 kmのL字型アーム施設を建設した。それにより、振動を地上の100分の1以下に抑えることができる。もうひとつは、装置の心臓部である鏡の熱振動を低減するため、鏡をマイナス253度の極低温まで冷やすことだ。

重力波望遠鏡の心臓部である鑑を吊るす装置。ここから数十m下に鏡を吊るし、多段の防振装置によって、鏡の振動を最小限に抑える。

鏡にはサファイアの単結晶を使用する。写真の鏡はレプリカで直径10㎝だが、実際の鏡の大きさは22㎝がある。

「振動を限りなく減らすことで、装置を安定稼働させることができます。重力波望遠鏡は精密であるがゆえに、わずかな振動が装置に狂いを生じさせかねません。そうなるとメンテナンスで観測を止めなければなりません。振動を減らせば、ダウンタイムを短くして稼働時間を長くすることができます」(安東准教授)

地下と極低温という特徴は、ヨーロッパで2030年代の稼働を目指して計画が進む次世代重力波望遠鏡でも検討されている。KAGRAはそれを先取りしており、「第2.5世代」とも呼ばれる。

◎まだ完全には解かれていない「アインシュタイン最後の宿題」

KAGRAは目下、2019年の本格稼働を目指して準備が進められている。2018年中には試験運転を始める見通しだ。

KAGRAには、世界の研究者から大きな期待が注がれている。その理由を、横山教授は次のように説明する。

「重力波源のより詳細な特定や、重力波の性質の詳細分析のために、同時に複数台の重力波望遠鏡が稼働していることが重要です。特に後者ではKAGRAの稼働が欠かせません」

後者については補足が必要だろう。これまで検出した重力波では、一般相対性理論と矛盾のない結果が得られている。だが、重力を説明するためには、一般相対性理論を内包し、それを超えるような究極の理論が求められている。実際、複数の重力理論が提唱されており、それらの理論の正しさを見極める重要な手掛かりとなるのが、重力波の偏極モードだ。一般相対性理論ならモードは2つだが、理論によってはより多くのモードの存在が予言されている。

この偏極モードの検証には、3台以上の観測施設が稼働していなければならない。LIGOの2台とVirgoで3台になるはずだが、検証用にはLIGOの2台は1台とカウントされる。モード検証にはアームの設置角度が異なることが必須だ。LIGOは初検出を確実なものにするため、2台の望遠鏡をほぼ平行に設置した。

「KAGRAの稼働が、一般相対性理論の検証のために不可欠です。このテストにパスしなければ、重力理論は新たな拡張が必要になります」(横山教授)

「アインシュタイン最後の宿題」は、まだ完全には解かれていないのだ。

カンノン准教授は、KAGRA稼働を見据えてKAGRAとLIGO / Virgoの連携にも取り組む。データフォーマットを揃え、それぞれの観測のデータを自由に使えるようにするなど準備に余念がない。

安東准教授は、KAGRAの「次」の計画推進にも携わる。DECIGOと呼ばれるこの計画の舞台は宇宙だ。3台の衛星を打ち上げ、衛星間の空間の歪みを検出する。最大の狙いは、宇宙誕生直後に生成されたと考えられる原始重力波を捉えること。それには施設のさらなる大型化が必要だが、地上での大型化には限界がある。2020年代後半の衛星打ち上げと稼働を目指し、準備が進められている。

人類は古くから宇宙を見つめ、宇宙を見る手段を次々と獲得してきた。新たに手にした重力波望遠鏡は、これから手にする宇宙重力波望遠鏡は、宇宙のどんな知られざる姿を明らかにするのだろう。この望遠鏡はさらに、重力の謎に迫る手掛かりにもなりうる。

人類は、宇宙誕生の実像、そして重力の本質に、また一歩近づこうとしている。

※2018年理学部パンフレット(2017年取材時)
文/萱原正嗣、写真/貝塚純一

ビッグバン宇宙国際研究センター(RESCEU)
教授
Jun'ichi Yokoyama
横山 順一
1985年東京大学理学部物理学科卒業。同大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程中退後、同大学物理学教室助手、米国立フェルミ加速器研究所客員研究員、京都大学基礎物理学研究所助教授、スタンフォード大学客員研究員、大阪大学大学院理学研究科助教授を経て、2005年より現職。
ビッグバン宇宙国際研究センター(RESCEU)
准教授*
Kipp Cannon
キップ・カンノン
2004年カナダ・アルバータ大学博士課程修了。博士(理学)。米国ウィスコンシン大学ミルウォーキー校での博士研究員時代よりLIGO Science Collaboration(LSC)に参加。カリフォルニア工科大学上級博士研究員 、カナダ・トロント大学上級研究員を経て2016年より現職。*2019年より教授。
物理学専攻 准教授
Masaki Ando
安東 正樹
1994年京都大学理学部卒業。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。同大学助教、京都大学理学研究科物理学・宇宙物理学専攻特定准教授、国立天文台光赤外研究部重力波プロジェクト推進室・准教授などを経て2013年より現職。
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