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卒業生インタビュー

世界の選択肢の豊かさに気づくには

気象庁大気海洋部気候情報課 異常気象情報センター 予報官

後藤 敦史

April 1, 2022

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大学院理学系研究科地球惑星物理学専攻修士課程を修了後、気象庁で「気候×国際」をキーワードにしたキャリアを歩む後藤敦史(ごとうあつし)予報官(2022年1月取材当時)。気候の専門家として、開発途上国はもちろん先進国の暮らしをよりよくしていきたい、科学を未来の向上、生活の向上に活かしていきたいと“サイエンスtoサービス”を目指している。そのキャリア選択は、いったいどのような決断を経てきたのだろうか。

「天気図」が日課だった少年時代

後藤さんが気候に興味を持ったのはずいぶん早く、小学校高学年のころだった。

「母が山歩きをよくする人で、山ではテレビも新聞もないからラジオを聞いて天気図をつけ翌日の天気を予測するのだという話を聴いていました。小学校の授業でたまたま天気図を書くというのがあり、それがきっかけで私も書くようになりました。やり始めるとそれが習慣になって、小学校高学年から中学3年生まで、毎日ラジオで気象通報を聞いて天気図を書いていました」

天気図少年はその後東京大学理科一類に入学。理学部地球惑星物理学科を経て、理学系研究科地球惑星物理学専攻で修士号を取得する。

「もともとは天文学者になりたかったんです。でも、天文学って、概念的・抽象的なところのある学問でした。地球惑星物理学は、目の前で起きている現象を研究対象としていて手触りが感じられる。そういうところに惹かれて宗旨変えをしました」

大学院では気候を研究対象とする研究室を選んだが、学部後期課程進学時からはっきりとそう決めていたわけではない。地球惑星物理学のさまざまな分野に足を踏み入れた結果選んだものなのである。

「学部の間は、気候に限らず、隕石に関する実験や演習をとるなど、太陽系に関する勉強もしていました。学部の間にいろいろと幅広く学んでいくなかで、一番没頭したのが気候でした」

修士課程では、大気と海洋すなわち空と海の相互作用に関する研究を実施した。1か月にわたり研究船に乗り、センサーを備えた風船を打ち上げで大気の様子を探る日米合同の観測航海にも参加した。

修士課程修了後は気象庁に就職した。

「当時、研究職として生きていく自信がなかったというのが一つ要因としてあります。博士課程修了後にそのまま研究職につけるわけではないということ、また、わたし自身、ひとつのことを突き詰めて研究するよりも、広くいろんな知識を使って考えたりそれを組み合わせたらどうなるのかを考えたりすることが好きだったこともあって「就職」を考えるようになりました。だからこそ、修士1年生のときに受かっていた公務員試験というチケットを捨てる勇気がもてなかったのだと思います」

博士課程に進む選択肢もあるなか、後藤さんの決断は「就職」という選択だった。就職すると決めてからは、“地球惑星物理学を活かした仕事をしたい”と考えていた。地球温暖化対策をリードしている環境省、天気予報や地震など地球そのものを対象にしている気象庁、研究プロジェクトを通して地球科学の進展に貢献している文部省を受け、最終的に気象庁に入庁することとなった。子供の頃に好きだった「天気図をかく」ということ。後藤さんは、天文学や地球惑星科学のさまざまな分野を学び、幼心が惹かれていたところへ戻っていったようだ。

世界気象機関事務局でサイエンスtoサービス

気象庁入庁後は、気候情報課に配属され異常気象の要因分析を2年担当、その後国際室へ異動する。ここで後藤さんは、今後のキャリアに大きな影響を与えることになるエポックメイキングな経験をする。この経験が、後藤さんが国際業務へ関心が向くようになったターニングポイントとなった。

「2009年7月に気候に関する東京会議という大きな会議のホストを気象庁がつとめました。9月に予定されていた世界大会での発表に向けて、アジアでどのような取り組みと課題があるか、参加者のステートメントをとりまとめる会議でした。これがその後、世界気象機関事務局への出向につながる第一歩でした」

国際室で3年をすごした後、2012年には環境省に出向して、宇宙から二酸化炭素濃度を測る衛星「いぶき」を使った研究の促進や次号機の開発プロジェクト、地球温暖化の影響評価などを担当した。翌年気象庁に戻り、高潮や波浪の警報・注意報を出す業務、再び気候情報課に戻り東南アジア各国の気象庁に相当する気象局への技術支援などを担当した。

このように、大学大学院で学んだ知識、身につけた技術を活かしながら幅広く業務を担当していた後藤さんは、国際業務を担当するなかで国連の専門機関である世界気象機関で仕事をしてみたいと思うようになっていった。日々の業務のなかでその思いが強くなった頃、国連機関への出向を相談した当時の上司は「がんばりなさい」と応援し背中を押してくれた。そして2018年、念願かなって世界気象機関事務局に出向する。

スイスのジュネーブにある世界気象機関事務局で後藤さんは、気象に関する報告書を作成したり、気象に関する情報を世界共通で使えるようにするガイドラインを作る仕事などを担当した。出向は1年限りだったが、後藤さんはまた世界気象機関事務局に戻り、科学を生活の質の向上に活かす「サイエンスtoサービス」をやっていきたいと考えている。

「私の専門が気候なので、気候の変化と変動の両方に上手に対応することで、暮らしをよりよくできるはずです。たとえば、より確からしい予報をする、すでにおきている気候変動に対応するための提案をするときのデータを揃えるといった、地道な積み重ねのコーディネートをしていきたいと思っています。国際機関は、サイエンスtoサービスの橋渡し役です。国際機関にはいろいろなバックグランウドの方が来ます。私は大学院まで地球物理の勉強をし、いまは気象庁に勤めていますので、そこでサイエンスの専門性を活かしてみたいという思いがあります。」

誰も歩いたことのない道を切り開くのではなく、できた道を通りやすくする

帰国後はまたまた気候情報課の配属となり、気候変動に関する情報の企画案作成などを行っている。

「私の部署で特徴的なこととして、異常気象分析検討会という外部の研究者の方からなる有識者会議の運営を担当しています。異常気象が発生すると、1か月弱ほどの短い間で分析から報道・アウトリーチまでを集中的に行います。この分析検討会の会長が私の大学院のときの指導教官で、腕が鈍った、勉強が足りないと思われないようがんばっています」と当時の指導教官との現在のやりとりを振り返りながら、理学系研究科とのつながりを満面の笑みで語った。

気候に一貫して関わりながらもさまざまなフィールドで活躍している後藤さんは、自らのキャリアを次のように捉えている。

「いろいろなことを経験していますが、気候と国際をキーワードにキャリアを築いてこられたと考えています。研究のように一つのことを粘り強く続けるというのは大変なことです。自分で問いを立てて誰も歩いたことのない道を切り開くよりも、できた道を通りやすくするような仕事のほうが、むしろ私には向いていたようです。」

もっと世界の選択肢って豊かなんだと思います

一つの道を深めるという誰もがまずイメージする研究者の姿とは違うが、後藤さんは大学院で身につけたことを存分に活かし、さまざまなフィールドの道を着実に通りやすく整備していっている。研究職か就職かで悩み、就職という道を選びながらも専門性を武器に活躍する後藤さんに、同じ悩みを抱える学生・院生へのメッセージをお願いした。

「研究職を目指すにしろ、企業に就職するにしろ、これは自分の専門ですと胸を張れるものを大学・大学院で身につけていただきたいなと思います。それを身につける時間があるのが大学・大学院という環境なので、その時間を大事にしてほしいと感じます。」専門性を持ちながら、どうすれば後藤さんのような幅広い経験、さまざまな選択ができるのだろうか。

「一度選んだ道がその後もずっと続くものではないということも意識すると、視野が広がるし気持ちがちょっと楽になると思います。私も大学に入学したときは天文学者になろうと思っていましたし、就職するまで気象庁に国際業務があるなんて恥ずかしながら知りませんでした。気象庁の国際室で仕事をしているときにだって、まさか自分が世界気象機関事務局に行くことになるなんて想像もしていなかったです。学生の間に想像しているよりも、もっと世界の選択肢って豊かなんだと思います。世界の豊かさに気づきたいなら、一つ選んでみることです。選ばないと、スタンスをとらないとダメなんです。選んで一歩進んだ世界からこそ見える景色があります。逆説的かもしれませんが、まずは選んでみること。そのうえで、選んだことにとらわれすぎないことだと思います」

※2022取材時
文/堀部 直人
写真/貝塚 純一

世界気象機関サービス部 気候サービス部門 気候監視・政策サービス課 専門官
Atsushi Goto
後藤 敦史
2005年東京大学理学部地球惑星物理学科卒業、2007年同大学院理学系研究科地球惑星科学専攻を修了し、気象庁に入庁。異常気象や国際支援に関する業務などを担当し2018年4月から1年間、世界気象機関に出向。帰国後は気候変動や異常気象の分析を担当する班の班長を務め、2022年3月より現職。
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