人は、いかにして宇宙の変化を知ることができるのか。時とともに銀河が形を変えてきた謎を解き明かす。
宇宙は姿を変えている。我々がそれを実感しづらいのは、宇宙に比べて人類の時間軸があまりに短いからだ。
兆の単位で存在する銀河の形も、時とともに構成比が変化してきた。60億年前の宇宙では、星の分布が一定でない「不規則銀河」が過半数を占めていたが、今の宇宙では、天の川銀河に代表される「渦巻銀河」が7割以上を占めている
この間、渦巻銀河はどのようにつくられてきたのだろう。江草助教は、その謎と向き合っている。
「1億年かけて銀河を観測すればすぐに明らかになるでしょうが、それは不可能です。今ある渦巻銀河の観測から、渦巻銀河が増えた理由を解明しようとしています」
渦巻銀河のつくられ方には複数のモデルがある。たとえば「密度波モデル」は、個々の星は移動するが、全体として渦の形は保たれているというもの。また「動的渦巻腕モデル」は、1本ずつの腕が「できては壊れ」を繰り返しながら、長い目で見れば渦巻腕の形が保たれているというものだ。
これまでの研究から、渦巻銀河が、どれか一つのモデルだけで説明できるわけではないことが推測されている。そこで江草助教は、渦巻銀河を実際に観測し、個々の渦巻銀河がどのモデルに当てはまるかを区別しようとしている。
観測・解析の対象になるのは、渦巻銀河を構成する星やガスなどの分布だ。
「密度波モデルと動的渦巻腕モデルでは、星とガスの分布に違いが出ることが理論計算から分かっています。前者では、星とガスの分布位置にズレがありますが、後者では基本的に、星もガスも同じところに分布しています。ある特定の銀河を観測してみると、一つの腕は密度波モデル、別の腕は動的渦巻腕モデルに近いことが分かりました。一つの銀河にタイプの異なる腕が混在している可能性が高いのです」
観測・解析には、国立天文台などが国際プロジェクトで運用している南米・チリのアルマ望遠鏡などのデータを使う。世界にはこうした望遠鏡がいくつもあり、江草助教たち研究者は、目的に応じて望遠鏡やその観測データを使い分けている。
江草助教は、小学生のときにNHKの科学特集番組を見て、宇宙の美しさに惹かれた。志望通りに天文学科に進み、4年生の課題研究で「M99」という渦巻銀河と出会う。研究室を率いていた祖父江義明教授(現名誉教授)から「まだ誰も研究していないからやってみたら」と言われたのがきっかけだった。それで、「理屈ではなく渦巻銀河が好きになった」という。
これまで国内外の複数の研究機関に所属し、渦巻銀河の研究を積み重ねてきた。多くの研究環境を経験してきた江草助教に、天文学科は「研究室ごとにいろいろなことをしていて幅広さがある」と映る。他の研究室のメンバーとの接点も多く、研究分野を越えて共同研究に取り組むこともできる。
だが、やはり研究の主眼は、自身が向き合い続けてきた渦巻銀河にある。
「思ったとおり結果が出るのも嬉しいですが、予想外の結果が出るのも、新たな疑問が湧いて面白い。これからも、渦巻銀河の観測と研究を続けていきたい」
※2020年理学部パンフレット(2019年取材時)
文/漆原次郎、編集/萱原正嗣、写真/貝塚純一