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卒業生インタビュー

技術と科学の架け橋:サイエンスとして重要なところにエンジニアリングで応える

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
宇宙科学研究所 SOLAR-Cプリプロジェクトチーム 研究開発員

内山 瑞穂

April 3, 2023

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理学系研究科天文学専攻で学位を取得後、学振の研究員、国立天文台でのポスドクを経て、現在JAXA(宇宙航空研究開発機構)でSOLAR-C(高感度太陽紫外線分光観測衛星)と呼ばれる次世代の太陽望遠鏡の開発に携わる内山瑞穂さん。サイエンスとエンジニアリングの両方を経験したのち、エンジニアリングのキャリアを軸において、天文の大型計画を推進しています。

物理学か天文学か

大学入学当初から天文学に関心を寄せていた内山さん。そのきっかけは、小さい頃耳にした宇宙に関する発見のニュースにありました。「小学生の頃に流れた、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡のファーストライト(最初の試験観測)など宇宙に関することのニュースが記憶に残っています。」

天文分野にアンテナが立っていたところに、さらに飛び込んできたのが系外惑星の発見でした。「中学・高校と漠然とした興味があったところに、太陽系ではない惑星系が発見されたというニュースを聞いて、『天文学という領域にはまだ大発見がたくさんある』というところに個人的にかなりのインパクトを覚え、すごく興味をもちました。」

実は、天文学と密接な関係にある素粒子物理学にも惹かれるところがあったといいます。そこで、天文学の専門課程があることに加え、教養課程で物理学と天文学の両方を学べることから東京大学で学ぶことに決めました。素粒子物理学と天文学、自分がやりたいことに近いのはどちらなのか、両方を学びながら考えていきました。そして、天文学に決めます。「観測装置を作り、観測して、というのを繰り返してサイエンスが進んでいく。理論的なところがメインというよりは、実際に天体を観測していくほうが自分にはあっている気がして、天文学を選びました。」と話します。

アタカマ高原でのディスカッション

大学院に学んだのは、アタカマ高原に望遠鏡を作る計画が走りはじめた頃でした。計画が本格的に進み始めたタイミングでチリに出張し、1m望遠鏡で観測したり、とったデータを研究室で解析したり、6.5mの望遠鏡の装置の開発をしたりという日々を送っていました。装置開発と天文観測がちょうと半分ずつくらいの割合でした。なかでもいい経験となったのは、アタカマ高原での観測でサイエンス寄りの研究者と議論ができたことだと内山さんは振り返ります。

「6.5mの望遠鏡を作ろうという計画が始まるタイミングで、サイエンスとして取り組みたいことのアイデアを出してもらい、観測装置にどのような要素をいれるとそれを実現できるのかを考えていきました。技術的にチャレンジングなこともあるなかで、サイエンスとしてやりたいことがなにで、技術としてできることがなにかというやりとりができました。新しい装置を作り、それによってこの世界がどのように成り立っているのかというサイエンスが進んでいく。そこが一番楽しくて、大学院生のときにこういうことを経験したからこそ今のキャリアがあると思っています。」

ポスドクまでは観測したデータを解析して天文学の論文を出すというサイエンスの研究も行っていましたが、観測装置を作るという大学院での経験を振り返り、観測結果をもとに研究していくことよりも、手を動かして装置を作るスタイルが自分に向いていることに気づいたと言います。「観測装置を自分で作っていくと、観測装置や望遠鏡がどういう仕組みで動いていて、なにが起きているかというのがある程度わかるんです。そこをわかっていたいタイプなんだと思います。」とあるように、宇宙の仕組みのみならず観測システムの仕組みも知りたいという内山さんの強い好奇心がそのようなスタイルにつながっているのかもしれません。

JAXAでは太陽望遠鏡の開発に専念

JAXAが打ち上げた「ひので」という太陽観測衛星は、これまでに数々の発見をもたらしてきました。現在、太陽の研究者から持ち込まれてくる「より詳細に観測したい、より多彩な現象を観測したい」との要望に応えるべく、次の世代の太陽望遠鏡開発が行われています。JAXAがリードする国際的なプロジェクトであり、複数の国が関与して作り上げるものとなります。その国際開発の中での組み立て作業の取りまとめを務めるのが内山さんです。

その意義について、「太陽のことをより詳しく知ることで、フレア現象のような私たちの生活に影響をおよぼすような宇宙天気の仕組みを明らかにしたり、太陽のなかでなにが起きているのかということを科学的に深めることができるのです」と話します。

技術面からプロジェクトをリードすることで実用はもちろん科学にとっても大きな成果をもたらそうというこの取り組みに内山さんが関わっているのは、アタカマ高原での体験があってのものだと言えるでしょう。次世代の太陽望遠鏡のさらに次のステップについても、内山さんらしい取り組みを語ります。「新しい科学をするための新しい望遠鏡、新しい衛星、そういったものを主に技術の方から引っ張っていけるような仕事ができればなと思っています。」

チャンスがあったら飛び込みましょう!

内山さんのキャリアの中には、物理学か天文学か、サイエンスかエンジニアリングか、といった難しい選択がありました。どちらを選ぶかを決めるにあたって、まずは両方とも経験してみるというのが内山さんのスタイルです。理学を目指す後輩たちへも、やりたいことをとことんやってみてほしいと語ります。

「やりたいことをとことんやる。そのために、ふだんいる本郷キャンパスから外に出ていったりすることをためらわず、思い切って飛び込んでみてください。私自身、大学院のときから三鷹にある天文学研究教育センターという理学系研究科天文学専攻の附属施設に行っていましたし、さらに海外出張にも行かせてもらいました。他の学科でも選択肢はいろいろあると思いますので、積極的に使ってやりたいことをとことんやっていただければと思います。」

※2023年取材時
文/堀部 直人
写真/貝塚純一

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 SOLAR-Cプリプロジェクトチーム 研究開発員
UCHIYAMA Mizuho
内山 瑞穂
2010年東京大学理学部天文学科卒業、2015年同大学院理学系研究科天文学専攻において学位取得。日本学術振興会特別研究員を経て、2016年より国立天文台プロジェクト研究員にてTMT望遠鏡の観測装置開発に従事。2020年より宇宙航空研究開発機構にて宇宙航空プロジェクト研究員として衛星搭載機器開発に関わったのち、2021年9月より現職。
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