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理学のフロンティア

生命はどこまで分子で語れるのか――

分析化学が記述する、生命のリアル

September 21, 2021

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分析化学の発展は、生命科学を大きく前に推し進めてきた。
細胞内の“役者”が分かり始めた今、分析化学は次なる領域に挑む。

ある物質のなかに、どのような化学成分がどれだけ含まれているか。それを解析するのが「分析化学」だ。DNAシーケンサによる遺伝子解析や質量分析器によるタンパク質解析など、分析化学の発展は、生命科学に多大なブレイクスルーをもたらしてきた。

分析化学教室の小澤教授は、生体分子の働きを細胞内で「そのまま見る」研究に20年以上取り組んでいる。きっかけは、博士課程在籍中の1997年のことだ。

「細胞内の局所で働くカルシウムを緑色蛍光タンパク質(GFP)で標識し、イメージングする手法に魅せられました。顕微鏡で、緑色に光る細胞を初めて見た感動は今も忘れられません。細胞は夜空に輝く星のように見えましたし、分子の働きも手に取るように分かりました」

以来、GFPを使った蛍光イメージングは研究の柱の一つだ。近年はさらに、新たな「見る」技術の開発にも挑んでいる。

光を物質に照射すると、光が分子と衝突し、入射光とは異なる波長の光が散乱する。この「ラマン散乱光」は物質ごとに固有の振動を持ち、光のスペクトル情報を解析すれば、空間中にどのような分子がどれだけ存在しているかを把握できる。この「ラマンイメージング」技術の開発に、小澤教授は大きな力を注いでいる。

「細胞内でどのような分子が働いているか、“役者”はかなり分かってきました。次に明らかにしたいのは、それぞれの役者がどのように相互作用しているか、分子間のネットワークや反応を定量的に記述することです。タンパク質やカルシウムなどの働きを蛍光イメージングで捉え、脂質やホルモン、細胞内の代謝産物などをラマンイメージングで把握する。両方を同時に見ることで、物質間の相互作用を捉えられるはずです」

小澤教授はまた、細胞内を「見る」技術を応用し、新たな技術の開発も進めている。そのひとつが、タンパク質のスクリーニング(同定)技術だ。GPCRと呼ばれる細胞膜のレセプターは、さまざまな疾患に関わっており、その働きを阻害するタンパク質は、創薬の標的として注目されている。小澤教授は、細胞内を「見る」技術を土台に、GPCR阻害物質を効率よく同定する技術を独自に開発した。

もうひとつは、従来の分析化学の枠を大きく超える新概念の技術だ。細胞内の酵素(タンパク質)の働きを、光によって「制御」する。光に応答する植物由来のタンパク質と、目的の酵素とをつなぎ合わせ、光の刺激で酵素の機能をオン・オフする。この技術を使えば、細胞内の酵素がどのような反応を引き起こすかを、つぶさに見ることができるようになる。

小澤教授は、これまでの研究を振り返りながら次のように語る。

「今ある技術は、いずれ新しい技術に置き換えられます。重要なのは、新しい概念を打ち出すこと。本質的な概念は、歴史を超えて受け継がれていきます。歴史に足跡を残すことこそサイエンスの醍醐味です。自然現象の原点を知りたい――。その思いで理学に足を踏み入れ、今もその面白さにのめり込んでいます」

※2019年理学部パンフレット(2018年取材時)
文/萱原正嗣、写真/貝塚純一

化学専攻分析化学教室 教授
生物科学専攻 教授(併任)
Takeaki Ozawa
小澤 岳昌
1993年東京大学理学部化学科卒業、98年同大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了、同専攻助手に就任。2002年同講師、05年自然科学研究機構分子科学研究所助教授を経て、07年より理学系研究科化学専攻教授(現職)。14年より、同研究科生物科学専攻教授も併任。
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