新しい「生科」が始まります!

~生物化学専攻と生物科学専攻の統合まで秒読み~

中野 明彦(生物科学専攻 教授)

図1

生化・生科合同リトリート(2013年2月,大磯)

2014年4月1日に,理学系研究科の生物化学専攻と生物科学専攻が統合し,新しい生物科学専攻が誕生する。2専攻の対等な統合だが,新専攻にもっとも相応しい名称は「生物科学」であろうということになり,旧生物科学専攻と同じ名前を用いることに決まった。これまで両者はしばしば「生物ばけがく(あるいは生物ケミストリー)」と「生物サイエンス」と区別されてきたが,もうその必要はない。文字通りに「せいぶつかがく」あるいは簡単に「せいか」と呼んでいただきたい。

両専攻には長い歴史がある。生物科学専攻の前身,生物学科は,東京大学創立の1877年に始まる。1886年に動物学科,植物学科に分かれ,1939年にさらに人類学科が設置された。大学院重点化を契機に3専攻の統合が進められ,1995年に,進化多様性生物学分野を加えて生物科学専攻となった。また,生物化学専攻は,分子レベルでの生命科学の推進を目指して1958年に生物化学科としてスタートし,2007年より生物情報科学分野が加わって現在に至る。学部教育の方は,現在それぞれ,生物学科,生物化学科と生物情報科学科を擁している。

歴史的には,生物科学専攻は,その前身が動物,植物,人類と対象別に分かれていたことが象徴するように,生物種の固有の特徴を重視した古典的生物学の流れを継ぐのに対し,生物化学専攻は,分子レベルの化学に基づき,分子生物学や生物物理学を吸収していくという狙いがあった。しかし,近年の生物科学の大進歩は,このような区別を無意味にしてしまった。当初大腸菌を材料にデビューを遂げた分子生物学は,その対象を高等生物に向けてどんどん発展を続けている。酵母,ショウジョウバエなどのモデル生物が檜舞台に立つばかりでなく,ゲノム科学の大進歩によってどんな生物でもそのゲノム配列を解明できるようになり,研究対象となる生物の多様性も激増してきた。いっぽうで,生理学,発生学といった研究分野でも,今や分子レベルの知見が必須であることは言うまでもない。系統分類学においても,ゲノム配列の情報なくしては正確な結論を導けない時代である。DNAという共通言語を手にして,生物科学に分野の境界はなくなったのである。

そのような状況の中で,生物科学専攻と生物化学専攻は,21世紀COE,GCOEプログラムを協力して進め,教員と学生が一同に会する合同リトリート(図)を毎年行って,次第に統合への機運を高めていった。2つに分かれている必要はない,一緒になればもっといろいろな活動ができるし,学生にとっても触れることのできる分野が倍増する。まず,できることから始めよう,と大学院入試を完全に同一形式で行い,指導教員の第1〜3希望を両専攻にまたがって希望できる,という試みも2012年から開始した。そして,ついに文科省の承認も下り,2014年4月から新しい生物科学専攻がスタートする。

長い歴史をもつ両専攻の文化を尊重しつつ,1つの専攻に統合し,新しい生物科学を推進する枠組みを作ろうというのは,先輩諸氏を含めた多くの関係者の悲願であった。ようやくその願いが叶うことになる。これは両専攻の努力に加え,相原博昭研究科長をはじめとする理学系の皆さんの暖かい応援,そして事務方の強力なる支援の賜物である。これからは,理学系研究科唯一の生物科学専攻として,生物学,生命科学の研究・教育で世界をリードしていかなくてはならない。ぜひともご期待いただきたい。

もちろん,重要なのはこれからである。組織が1つになっただけではなく,真に学際的な研究が生み出されていかなくてはならない。その1つの試みとして,光計測生命学という講座の新設を認めていただいた。旧両専攻から数名の教員が加わり,さらに物理学,化学専攻からも併任の形で加わって,光をキーワードにした最先端の生命科学を進めていくことになる。フォトンサイエンス・リーディング大学院や関連するプロジェクトとも積極的に連携していけるものと思う。また,理学部1号館の東棟にスペースをいただき,これまで2号館と3号館に分かれていた両専攻の中間に新たな拠点をつくることになった。1号館の他分野の皆さんと近づくことで,さらに分野融合,連携が促進されることを期待している。

そして最後に,その建物の問題が残っている。2つの専攻が組織として統合しても,遠く離れて活動を行っている限り真の統合にはならない。一緒に暮らせる建物を,という切なる願いが,いよいよ新生命棟(バイオエボリューション総合教育研究棟)建設という形で日の目を見ようとしている。2号館地区の新棟建設は,医学系,薬学系,工学系,農学系との連携によって生命系団地をつくるという全学の構想にも合致し,大学執行部の支援を得られる環境も整いつつある。ぜひとも近いうちにこの計画が実現し,新生物科学専攻が新しいサイエンスを思う存分推進して世界に発信できるよう,さらに皆様の応援をよろしくお願いいたします。