シュミット博士のノーベル賞講演会

横山 順一(ビッグバン宇宙国際研究センター 教授)

図1

多数の聴衆を前に熱心に講演するシュミット博士

さる2012年11月19日(月),安田講堂にて,オーストラリア国立大学ストロムロ山天文台のブライアン・シュミット (Brian P. Schmidt) 博士による一般講演会「The Accelerating Universe加速する宇宙」が開催された。同博士は,「宇宙の加速膨張の発見」の業績により,他の2名とともに2011年度ノーベル物理学賞を受賞し,本研究科附属天文学教育研究センター,同ビッグバン宇宙国際研究センター,ならびに本学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の招きにより来日した。

シュミット博士はHigh-z Supernova Search Team(高赤方偏移超新星探査チーム)という,Ia型超新星の観測により宇宙の膨脹史,ひいては宇宙論的パラメータの値を決定するプロジェクトを主導し,1998年に宇宙膨脹が加速していることを発見した。万有引力を及ぼす通常の物質しかなかったら,宇宙膨脹は必ず減速するはずなので,アインシュタインの一般相対性理論によれば,これは宇宙に何らかの斥力を及ぼすもとになるエネルギーが存在することを意味し,大発見である。このエネルギーは「暗黒エネルギー」とよばれる(理学のキーワードNo.25参照)。今回シュミット博士は,宇宙論の基礎的事項から,宇宙の膨脹史を辿る観測法や,ライバルとして同時にノーベル賞を受賞したパールムッター (Saul Perlmutter) 博士のグループとの関係,そして宇宙がこのまま加速膨張を続けると最後にどうなるか,など興味の尽きない話を1時間にわたって講演し, 670名の聴衆が同時通訳を通じて耳を傾けた。受賞後に同博士が世界各地で行った講演会の中で,もっとも聴衆が多かったそうである。