理学系研究科特別講演会「Addressing Our Energy Challenge」

大塚 孝治(物理学専攻 教授)

図1

左から,相原博昭副研究科長,筆者,スティーブン・クーニン博士,江川雅子理事

米国エネルギー省次官スティーブン・クーニン(Steven E. Koonin)博士による表記題名の特別講演会が2011年10月5日に小柴ホールにて開催されました。クーニン博士は物理学者でありカリフォルニア工科大学教授として原子核物理学の理論研究などに優れた業績があります。そのため筆者とも旧知の間柄です。石油会社のBritish Petroleumに移って新エネルギー源の研究プロジェクトを推進し,オバマ政権発足時に現職に招かれるという,キャリアパスの観点からも興味深い方です。

講演会では,相原副研究科長による司会により,筆者によるクーニン博士の紹介,江川理事のご挨拶に続いて,エネルギー問題の基本的性格から今後のチャレンジまで,簡潔で分かりやすい講演をしてくださいました。プレゼン内容は http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/event/steven-koonin/ にて見ることができます。筆者の印象に残ったことを少し書かせていただきます。19世紀半ばには米国のエネルギー源の90%は木材でした。石炭,石油が順次取って代っていくものの,変化は10年単位のゆっくりしたもので,今後も急な変化はあり得ないだろうとのことでした。太陽熱や風力は今日の課題ですが,チャレンジは電力グリッド(送電網)にもあることを強調されました。自動車や家庭内のエネルギー使用の効率化も重視しているそうです。クリーンな電力を得るのに,太陽熱,風力,原子力と炭酸ガスの地中閉じ込めを進めるそうです。しかし,エネルギーはコストを無視しては考えられず,しばらくは化石燃料が米国のエネルギー生産の中心である,という見通しでした。最大能力に比べ,太陽熱は1/5,風力は1/3しか実効能力がないことを直視すべきと指摘されました。全体として,現実を見据え,二酸化炭素問題にはやや距離を置いた米国の政策を科学者らしく率直に話されました。エネルギー問題に関して,気づかなかった観点の数々が示されて,100人以上の聴衆の多くが目から鱗が落ちる感銘を受けたと思われます。たいへん急に開催が決まった講演会でしたが,万全の準備をしてくださった理学系事務や広報室の皆様に感謝申し上げます。