第27回井上学術賞を本研究科と数理科学研究科の教授2名が受賞

広報誌編集委員会

井上学術賞は,自然科学の基礎的研究でとくに顕著な業績を挙げた50歳未満の研究者に対して贈られる賞である。 第27回(2010年度)は,本研究科生物化学専攻の濡木理(ぬれき・おさむ)教授と本学数理科学研究科の小林俊行教授の2名が受賞した。 授賞式は2011年2月4日に行われた。

濡木理教授の受賞を祝して

小澤 岳昌(化学専攻 教授)

図1

濡木理教授

受賞対象となった研究題目は「遺伝暗号翻訳とタンパク質合成のメカニズムの解明」です。

DNAの配列情報(遺伝暗号)に基づいて,指示されたアミノ酸を連結し正確にタンパク質を合成する“翻訳”という作業は,生物に普遍的な現象です。 この過程では,遺伝暗号と20種類のアミノ酸とを正しく組み合わせるために,「アミノアシルtRNA合成酵素」が重要な役割を果たしています。 濡木教授は20種類あるアミノアシルtRNA合成酵素の10種類について, X線結晶構造解析により, 酵素とtRNAとの複合体の立体構造を世界で初めて解き明かしました。 この解析結果から,遺伝暗号からタンパク質が精密に作られるしくみを,分子レベルで解明することに成功しています。 また,DNAから転写されてできた前駆体tRNAが切断されたり,tRNAが化学修飾を受けて成熟する動的な過程を,構造解析の結果から明らかにしました。 最近では,タンパク質を細胞外へ輸送する「膜タンパク質」の構造解析において,国際的に卓越した成果をあげています。 濡木教授は,tRNA合成酵素や膜タンパク質の構造に関する理解だけでなく,タンパク質の機能が発現するメカニズムを原子レベルで理解する,真の意味での構造生物学的研究に多大なる貢献をしてきたことが高く評価されました。

濡木教授のご受賞に心よりお祝い申し上げますとともに,今後のますますのご活躍を祈念いたします。

小林俊行教授の受賞を祝して

坪井 俊(数理科学研究科 教授)

図2

小林俊行教授

受賞対象となった研究題目は「無限次元の対称性の解析」です。

小林教授は新しい切り口と画期的な発想で数学の新分野を切り拓き,しかも自らの手でその理論の土台を一気に完成されてきました。 小林教授の研究は「対称性」をモチーフとして,純粋数学の広い分野にまたがっており,しかもスケールの大きい理論を創生しています。

小林教授が祖となって興された主要な研究分野は,「均質空間における不連続群の理論」「無限次元表現の離散的分岐則の理論の創始」「極小表現の解析的理論」「無重複表現の統一理論」の4つがあります。 どの1つをとっても大きな学術賞にふさわしい,スケールの大きな理論で,いずれも世界のそうそうたる研究者達を巻き込み,斯学の新しい潮流を生み出してきました。 数学の基本概念は代数・幾何・解析の三つから成りますが,小林氏の業績には,それらのすべての分野が見事に融合され,美しく調和した感があります。

このような小林教授の業績は,数学の多くの分野に多大なインパクトを与え,近年ではイスラエルからサックラー・レクチャーが,ドイツからはフンボルト賞が小林教授に贈られています。 本学の卒業生でもある小林教授は,助手時代から現在に至るまで学生の教育にも献身的に尽くされています。 小林先生には,どうか健康に留意されつつ今後ますますご活躍されることを祈念いたします。