平成22年度文部科学大臣表彰若手科学者賞を本研究科から3名が受賞

広報誌編集委員会

文部科学大臣表彰若手科学者賞は,文部科学省が科学技術分野において独創的な視点に立った高度な研究開発能力を示す顕著な業績を挙げた40歳未満の若手研究者にその功績を讃えることにより,わが国の科学技術水準の向上に寄与することを目的として設立された研究賞である。平成22年度は,理学系研究科から光電変換化学講座(社会連携講座)の松尾豊特任教授, 化学専攻の辻勇人准教授と狩野直和准教授の3名が受賞した。

松尾豊特任教授の受賞を祝して

中村 栄一(化学専攻 教授)

図1

松尾豊特任教授

業績:「有機金属フラーレン複合体の合成と光電子機能の研究」

光電変換化学講座(社会連携講座)の松尾特任教授は,最先端の精密有機および無機合成化学を炭素クラスターの研究において実現し,物質科学の新世界を開拓してきました。特に,有機エレクトロニクスの電子受容体として重要なフラーレン誘導体の高効率・高選択的合成を可能にする新規反応を数多く開発しました。このような独自の合成化学を基盤として,世界初のベルト型パイ電子共役分子,シャトルコック型フラーレン液晶分子,二重サンドイッチ型フラーレン複核金属錯体,月面着陸船の形をした光電変換分子などの新しい光・電子機能をもつ化合物群を創り出すのに成功し,この分野の世界第一人者となりました。また,有機薄膜太陽電池の研究においては,世界最高レベルのエネルギー変換効率5.2%を与える新規フラーレン誘導体の開発に成功するなど,実用化に繋がる重要な研究成果もあげています。理学と社会を結ぶ有機太陽電池の研究において,益々のご活躍が期待されます。

辻勇人准教授の受賞を祝して

塩谷 光彦(化学専攻 教授)

図2

辻勇人准教授

業績:「有機電子素子の革新に資する含典型元素有機材料開発の研究」

辻准教授(化学専攻)は,炭素−炭素および炭素−ヘテロ元素結合形成のための新反応を種々開発し,これらを斬新な機能性分子創製の方法論へと昇華してきました。特に,元素の電気陰性度,軌道間相互作用などといった概念を巧みな設計により分子物性へと実体化し,機能の発現へとつなげました。この方法論により,たとえば正孔・電子ともに非晶質で世界最高レベルの高移動度を示す両極性というユニークな特性を示す材料を開発し,それを用いて「ホモ接合型」とよばれる従来型に比べてはるかに単純な構造を有する有機EL素子で三原色発光と理論限界に近い高効率の実現や,有機太陽電池の高効率化に資する有機材料の開発に成功しています。これら一連の研究は基礎科学・実用の両面から注目を集めており,それらに対する高い評価が今回の受賞理由となっています。理学の力による環境・エネルギー問題解決への挑戦はますます重要になると考えられ,辻准教授の今後の一層のご活躍を祈念いたします。

狩野直和准教授の受賞を祝して

西原 寛(化学専攻 教授)

図3

狩野直和准教授

業績:「典型元素間相互作用の構築に基づく特性発現の制御の研究」

狩野准教授(化学専攻)は典型元素化学と光化学の連携を図る独創的着想で,光照射により元素間相互作用を自在に操る手法を開発しました。まず,アゾベンゼンの窒素の孤立電子対が典型元素に配位できることに着目し,適切な分子設計光異性化の活用により,光照射だけで元素の配位数を相互変換する方法を開発しました。その方法を利用して,分子構造,ルイス酸性,反応性といった化合物特性の光制御を実現しました。さらに,配位結合の形成効果を機能性材料の開発へ展開し,常識を打破して強い蛍光を発するアゾベンゼンやイミンの開発に成功しました。また,新結合の創成という困難な課題に挑戦し,超原子価硫黄−硫黄結合や,高配位ケイ素−ケイ素結合などの新結合の構築によって,新たな分子骨格の形成の礎を築きました。これらの研究成果は,有機元素化学および関連分野で大きな注目を集めています。狩野准教授の益々のご活躍を祈念いたします。