ビッグバン宇宙国際研究センター坂井南美助教が,第26回井上研究奨励賞を受賞

山本 智(物理学専攻 教授)

図1

坂井南美助教

本研究科ビッグバン宇宙国際研究センターの坂井南美助教が,第26回井上研究奨励賞を受賞されることが決まりました。これは坂井氏が2008年6月に提出した学位論文“Discovery of Warm Carbon Chain Chemistry in Low-Mass Star Forming Regions and Its Astrophysical Implication (低質量星形成領域における「暖かい炭素鎖化学」の発見とその宇宙物理学的意義)”に対するものです。

「太陽程度の星が生まれる過程で,星間物質がどのような変遷を経て惑星系にもたらされるか」という問題は,太陽系の起源,生命の起源とも関わる重要な研究課題です。坂井氏は,世界中の大口径電波望遠鏡を駆使した観測研究により,この問題に真正面から取り組みました。

これまで,原始星近傍ではどこでもHCOOCH3やC2H5CNなどの飽和有機分子が豊富に存在していると考えられてきました。ところが坂井氏は,その常識を覆し,逆に不飽和な炭素鎖分子(注1)が特異的に豊富な原始星を発見しました。この結果は,原始星近傍の化学組成はどの天体でも同じなわけではなく,この段階で化学組成が「分化」していることを明瞭に示したもので,世界的に大きな注目を集めました。分化の原因は星形成時の収縮時間と関連していると見られ,様々な関連研究を誘発しつつあります。坂井氏は,原始星から原始惑星系円盤に向かってこの化学的分化がどのように発展していくかを,もうすぐ動き出すALMA望遠鏡(注2)で解明しようと準備を進めています。

注1
炭素鎖分子:炭素が直線状に並んだ分子。HCCCCCNやCCCCHなどがその例。 
注2
ALMA望遠鏡:Atacama Large Millimeter/submillimeter Arrayの略。南米チリのアンデス山脈の高地(標高5000 m)に66台以上の電波望遠鏡を並べて一つの大望遠鏡として動かす。2011年から部分的に運用が始まる。 » ALMA計画について